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ラチサ  作者: 藤ノスエ
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7. 小学6年 冬 から 中学1年 4月 児童精神専門医

 父が児童精神専門医を見つけた。

 キサラギクリニックと同じムツキ市にあった。児童精神専門医と言うか児童精神専門クリニックで医師は二人いた。

 2ヶ月先の予約を取らないといけなかったが、キャンセル待ちも登録していたので、案外早く診てもらえた。


 で…

 小6でキサラギクリニックに行き、児童精神専門クリニック(ヤヨイクリニック)の初診は中学入学後だけど、その間の約5ヶ月、何もしてなかったわけではなく、父がいろいろ探して、2カ所程クリニックに行った。

 1カ所は、内科、小児科と心療内科をやっていたが医師は1人。

 だから、ものすごく混んでて、普通に風邪ひいてるおばちゃんとか、立って待ってる人や診察券出すと出てっちゃう人とかいた。

 それで丁度インフルエンザの時期だったのもあって、父が嫌がって『出直してきます』とキャンセルした。

 わたしも嫌だったからよかったけど。

 もう1カ所は、なんて言うのか、古びた洋館風で木造建築で廊下や柱は黒光りしていた。

 シーンとして、幼稚園に似たにおいがした。

母は

『積み木のにおい』

と言った。

 確かにそんな感じ。


 医師はおばあちゃん。

 診察室に母と2人で入ったら、

『お父さんもどうぞ』

と言われた。

 父はどの科に限らず一度も入ったことない。連れてきてくれて、待合室で待ってる。


 医師は優しく、ニコニコして、保健室の先生みたいだ。

 1日どのように過ごしているかとか、学校(この時はまだ小学校)の様子とか、習い事とか、本当に雑談。

 どうして髪の毛抜いちゃうのとか、嫌いな子がいるかとか、そんなことは聞かなかった。

 その後、わたしだけと話した。

 その時に

『なんでもいいよ。嫌だなぁと思うことありますか?』

と聞かれた。

 なんでもいいよと言われると何を言っていいのかわからない。頭が真っ白ってこと。

『お友達とか担任の先生は?』

『先生は好きじゃない』

と即答してしまった。いっけないと思っちゃったけど

『男の先生かな?』

と聞かれた。

 びっくりしちゃって、でも嬉しくて、うんうんうなずちゃった。

『男子みたいで、子どもっぽい』

子どものわたしが子どもっぽいと言うのはよくないかなとすぐ思ったけど、医師は

『クラスの一番強い男子みたい?って言うか、一番強い子の上にいるような感じ?』

と聞く。もう、本当にその通り。どうしてわかるのかな。

『強い女子よりは下かな?』

そうなんだって! わたしなんかみたいな女子はどうでもいいようだけど、強い女子、勉強ができてスポーツも得意で習い事いっぱいやってて、母親も役員(委員会じゃない、PTA役員!)やってるような女子!です。

 『面白いねぇ』

医師はわたしの表情を読んだのだろう。おかしそうに笑った。笑われて恥ずかしいとは思わなかった。わかってくれてありがとう! と言いたい!

 それだけでスッキリして、いい気分だ。髪の毛のことはなにも言われず、今度は父と母だけが呼ばれた。

 ここの待合室もコミックスがいっぱいあった。絵本もいっぱいあって、豪華な仕掛け絵本もあった。シルバニアファミリーもあった。


 特に薬はなく、キサラギクリニックの薬は飲まなくていいと言った。2週間後、また来てねと言われた。わたしは待合室も楽しいし、コミックスも読めると思って嬉しかった。


 でも父は行かなくていいと言う。

『あの先生、ダメだよ』

わたしは

『えー、行きたい。読みたかったコミックスがあったもん』

と言ったところで、父がそう言ったら、行けない。

 どうしてか母に聞いてみた。

 母はしばらく通って様子を見てもいいんじゃないかと言ったが、父は医師を子どもの言うことしか聞かないと感じ、失礼だとも言ったようだ。

 後で母が言ってたのは、医師がいきなり、

『お父さんは、子どもの言うことをよく聞いてくださいね、頭ごなしに否定しちゃいけないですよ』

と言ったとか。

 父は、はぁと言ったきり何も言わなかったとか。わたしと同じ頭が真っ白ってやつ? お見通しだ。


 父はプライドが高くて、冗談通じない時がある。自分が話したい時は、上機嫌で滑らかにしゃべる。人の話を聞く時は、聞いてるのか聞いてないのかわからない。

『聞いてる?』

と聞くと、

『聞いてるよ。聞いてるけど、今◯◯じゃん』

なんて言う。◯◯は、スマホ見てるとか、食事中とか、テレビ見てるとか。

 何かしながら、他のことが極端にできない。

 突然、箸をバシッと置いて、『食事中断するから話せば?』なんて言うこともあった。それで食欲なくなったと言って食べるのもやめちゃうこととか。

 小さい頃はなんか怖くてイヤだなと思っていたけど、最近はバカみたいと思う。そういう時は苦虫を噛み潰したような顔ってやつをしてる。いやーな顔。


 要領が悪過ぎる。ガキっぽい。会社でもそうなのかな? 嫌われてんじゃないの?

 そういうところを見透かされたんだと思う。自分の考えが正しいと思っていて、思い通りにならないと不機嫌で、圧倒的に相手が悪いと言う。わたしや母や医師や会社の人なんかが悪いんだ。

 結局、わたしが行きたくないと言っている、という事にして、予約をキャンセルした。

 きっと、医師は本当のところはわかっているだろうなと思う。お父さんがイヤなんだろうなって。児童精神専門の大ベテランで、いろんな親子を見てきただろうから。なんだか恥ずかしい。

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