5. 小学6年 秋-1 抜毛
実はわたしは中学入学してから、心療内科にかかっている。
きっかけは抜毛。
小学6年の9月くらいから始まった、と思う。なんでかはわからないけど、引っ張って抜ける瞬間のプチッという感覚が心地よかった。
心配事や不安が髪と共にスッと抜けていく感じがよかった…と思う。
初めは母も気が付かなかったようだ。対面キッチンで料理の最中に、テーブルの椅子に座って、テレビを見ている私を見て、地肌がよく見えるのに気づいた。それで毛を抜いてるのかなぁと観察して、抜いているのがわかり、なんで抜いてるか聞いてきた。
『うーん、なんとなく?』
なんて答えた。
母は、今は髪が結えるから、なんとか隠せるけど、これ以上進むと、まわりの人が気づくよ。それか、もう気づいている人もいるかもよ。と言った。
そうは言ってもついついやっちゃう。気づくとまわりに毛がいっぱいだったりする。だからベッドと壁の隙間に落としたりしちゃう。それで、それが見つかって怒られる。
それで、まあ、当然、父も気づき皮膚科に連れて行かれた。
会社の同僚が教えてくれたとか言ってね。
クリニックは大きくて古そうだったけど、患者さんはいっぱい待ってた。事前に母が問い合わせたら、予約はないのでいつでもいいと言われたが、そういう所ってすごく待つよね。
でも、コミックスがいっぱい置いてあって、読んでたから苦でもなかったけど。この時魔法使いだって気づいてたら、時間を操れたかもなあ。
医師はおじいちゃんで、すっごくハキハキしてて、声が大きい。
『育毛剤ね、出すからぁ、すり込むようにね。自分でできるかなぁ?ママにやってもらってもいいからね。髪の毛引っ張っちゃうと抜けちゃうからね。やっちゃダメだよ』
と小さい子に言うみたいに言う。
それから
『薬なくなったら来てね。それと、ママねぇ、心療内科紹介するからね、そっちも行ってみたほうがいいよ』
と言った。
シンリョウナイカってなんだ?
呪文みたいに聞こえた。
会計待ちの時、母に聞いたら、
『髪の毛抜いちゃうような人が行く所』
と言った。うっすら笑っているように見えて、なんとなく、あまり行かないほうがいいような所なのかなと思った。母の微笑が、仕方ない微笑に思えた。笑うしかないな、みたいな…
電話で予約してから行ってくださいと会計の時言われて、父が電話したら、16歳以上だと言われたとか。
仕方なく翌日、母がまた皮膚科に行くと、医師は
『うっかりしてたぁ、子どもみないのかぁ。いつもあそこにお願いしてたからさぁ。大人ばっかりだったっけ?』
と言われても…
『あのさぁ、キサラギクリニック知ってる?ムツキ市の。僕も知り合いってわけじゃないんだけど、最近よく聞くからさぁ。どうかなぁ。聞いてみてくれる?事情話せば、それ持ってっても大丈夫だと思うよ』
と前のクリニック宛ての紹介状をそのまま返された。
『もしダメだったら、小児科聞いてみて、それくらいの情報は持ってると思うよ、だってさ』
と母は医師の口マネをした。すごく似過ぎて笑える。
ムツキ市駅の駅前ビルの4階にクリニックはあった。
シーンとしていて、クラシック音楽のBGMが流れていて、待合室はちょっと薄暗い。受付の人もすごくゆっくり静かな口調で、別クリニックの紹介状を出しても、優しい。
医師は3人くらいいるみたいだったけど、私をみてくれたのは、やっぱりおじいちゃん。
母が事情を話すと
『大丈夫ですよ、気にしないでね』と言い、
『いろいろあるよね、生きてるとね』と私に言った。
思い当たることを聞かれて、母がいろいろ答えてたけど、ちょっと違う感じだなと聞いてた。




