26. 中学2年 7月 コースター
1学期の終業式終わりに学校に行った。部活もあるし、成績表やら配布物を受け取らないとだし。
部活時間に合わせて、登校した。もちろん1人で行った。誰かに会っちゃうかなと心配だったけど、会わず、ちょっと拍子抜け。
暑いから、日傘さしてたし、夏服って、大体どこも同じ感じで、中学生か高校生かも区別がつきづらいし、声を掛けられるってこともない。
職員室のドアから
「すみません〜。志賀先生いらっしゃいますか?」
と声を掛けた。
基本、生徒は職員室は立ち入り禁止で、用事がある時は、廊下から声をかける。近くにいる人が対応してくれる。
「ああ、礒田さんじゃん」
“ちゃん前”だった。相変わらず、芸能人並み。
わりとポーカーフェイスだったけど、なんだか朗らかに笑ってる。
2年めで担任も持って、余裕があるのかなぁ。
「あ、お久しぶりです。心配かけてすみません」
と母がよく言ってるみたいに言ってみた。
「元気そうでよかった。国広さんが1学期に会ったって言ってたからさ」
国広とハイタッチしたことを思い出した。なんで知ってんのと思ったけど、囲碁将棋部の顧問と部員だった。
囲碁将棋部は部員が増えすぎて、今年度は定員制にしたとか聞いたことある。“ちゃん前部”って言われてる。
囲碁将棋部とは言え、囲碁将棋だけじゃなくてボードゲームやカードとか机上でプレイできるものや脳トレもある。古い部らしくて、祖父母が遊んでたような双六なんかもあるとか。
「国広さん、今度部長だよ」
と笑ってるけど、生徒が誰もいないからいいけど、誰かに見られたら大騒ぎだよ、そういう自覚ほんとになさそう。
「ああ、ごめんごめん。電話かかってきちゃってさ」
志賀先生が来て、膨らんだA4の封筒を渡された。
「見てもらえばわかると思うけど、進路調査表があるからねー。まだ決まってないかな?オープンスクールなんかも、中2から参加できるみたいだから、気になるところあったら行ってみるといいよ」
はぁって感じでうなずいた。進路どころか爽涼だって、やっと行こうかなって気になれたところだけどね。
ずっと一緒に話を聞いていたちゃん前が
「そう言えばコースターの見た?」
と言い、志賀先生も
「ああ、そうそう、職員玄関から来た?展示ケース見た?」
「え?見てないです」
職員玄関から入ると廊下にガラス張りの展示ケースがあり、運動部の表彰状とかトロフィーなんかが飾ってある。夏休み中の課題で表彰された工作物や絵画、作文なども展示されることがある。
展示ケースにわたしのコースターが展示されていた。わたしだけじゃないけど、6点だ。1クラス1人かな。
ニスの塗装が白っぽいのと赤茶色っぽいのがあって、わたしのは赤茶色だ。
自分で言うのもなんだけど、自分のだけ、飛び出て見えた。
他の作品も、幾何学模様が全面びっしり細かく彫り込まれてるものや、荒削り風な花弁が何重にもなって、もうコースターじゃなくて立体作品みたいなものもあってすごいけど、一応中央は丸くなっていてコースターだ。こんな薄い材なのによくやるよ。
「礒田さんのは、側面を面取りして磨いてあるんでしょう?それが、ピカピカに見えるような効果があるって。岡崎先生も岸野先生も言ってたよ。目のつけどころが違うって」
岡崎先生は美術の先生だ。
言われてみてみると、わたし以外は切りっぱなし、と言うか、もらった時の材のままだ。幾何学模様作品は彫り込みがある。
褒められちゃって恥ずかしいけど、作ってる時、何回か側面に触れて、トゲが刺さったので、マスキングテープを貼って作業してた。マスキングテープを剥がし、側面をセルフネイルケア用のマシンで整えたら、案外綺麗にできて、ついでに角を両面共面取りして磨いた。単にトゲ防止だし、マシンも100均のだ。300円だったけど。
「裏の名前も彫ったんでしょう?」
名前を書いておくと書いてあったので、“礒田”と“眞悠”の印鑑を押してなぞって彫った。それは本当にお遊び感覚。
小さい頃、デパートの催事で“木の玩具”展があり父母と見に行った。実演販売で木で作る印鑑があって、“眞悠”のを父が作ってくれたものだ。まったく使っておらず、と言うか使い道もなくて、ずっと机の引き出しの奥の方にあった。
面取りして磨いただけだけど、こうして並ぶと違いがわかる。
まさかこんなことになるとはねぇって感じ。気恥ずかしい。
作品には氏名は添付されていなかったが、幾何学模様のは国広の作品だとちゃん前が言った。




