10. 中学1年 夏の出来事
「あれかな、作品集のことかな?」
「作品集?あ、画集?」
「そう、アニメの。有名なイラストレーターさんなんだよね」
1970年代に始まって、今でもシリーズが続いているアニメの初期のキャラクターデザインをしたイラストレーターの画集だ。アニメだけでなく、その人のオリジナル作品など盛りだくさんの内容だ。
それを母が持っていた(オタクは母ゆずり)。
その画集の中に”平和を祈る“ような内容のエッセイがあった。なにがきっかけだったか覚えてないのだけど、そのエッセイの話をしてたら、たまたま近くにいて聞こえたのか、放送委員の堀が読みたいと言った。
夏休み前、学校の”平和を考える週間“で、放送委員会では趣旨に沿った企画を昼休みに放送することになり、委員はそれぞれ案を持ち寄ることになっていた。
もしよかったら、委員会に持っていきたいから貸して欲しいと言われて、母に聞いてみるねと答えた。
母は貸してくれたので、でも結構豪華本なので、二重に袋に入れて、貸した。堀も喜んで、ありがとう、注意して使うねと言った。
平和週間での放送委員会は、結局、かつて学校の敷地内にあった日本軍のレンガ造りの倉庫についてだった。
中学はもともと陸軍の敷地跡だったところに建てられた。今は取り壊されているが、廊下に当時の写真が飾られている。4棟もあった。以前は美術室や木工の実習室に利用されていたらしい。平和利用ということだったのか…
そんな内容だったが、昼休みと言っても、みんなおしゃべりしながらの昼食時だから、あまりよく聞いていなかった。
わたしもわたしだけど、画集のことすっかり忘れていた。
ある日の帰りのホームルーム、大塚先生が教室に入ってきた時、大きな袋を持っていた。
見た瞬間、画集だと思った。わたしが入れた紙袋だったから。でも、その上にもう一枚ビニールの袋に入れたはず。結構丈夫な取っ手付きのものだ。
『礒田さん、これ、礒田さんの?』
わたしは立ち上がって、教卓まで取りに行った。
『昇降口の下駄箱の上に置いてあったわよ』
職員室から教室に来る時、昇降口の廊下を通る。下駄箱は低くて、大人の胸くらいの高さだ。クラスの下駄箱の上に置いてあったので、気づいて中を見たらしい。表紙の裏に苗字だけ書いといたので、それを見たのだろう。
忘れ物して届けてもらったのかと思われるの嫌だったから、
『堀くんに貸したんです』
と言ったら、すぐに堀が
『放送委員会で借りてて、先輩に貸してたんですけど』
と言った。
『じゃあ、先輩が置いたっていうの?』
『礒田のだってわかってたから…』
『だからって、下駄箱に置くのってどうかしらねぇ。それって、お返ししますってこと?それにきみもきみで、人のもの借りといて気にならなかったの?』
堀は何も言わない。
『先輩に言っときなさいよ』
大塚先生はわたしに座りなさいとジャスチャーしたので、席に着いた。
袋を改めて見ると、下駄箱に置いてあったからか、汚れ少し破れていた。
画集はカバーが折れ曲がっていた‼︎ 古い物だから擦れはあったけど、それ以外はきれいだった。
カバーの表紙部分が折れた跡があった。カバーがあると、扱いづらくて外して見るってことはあるし、カバーが外れちゃって折れ曲がっちゃったなんて事もあるかもだ。
あるかもだけど、結局、堀もわたしのことオタクでキモいとか言ったんでしょ。先輩も調子に乗って、オタクがうつる〜とか言ったんじゃないの?
折れ曲がりは故意ではなかったとしても、先生じゃないけど、人のものなのに気にならないのかな。母のものだってことも知ってたし。堀に言ってもよかったけど、めんどくさいから言わず、堀もなんにも言ってこなかった。
注意して使うねなんて言ってたくせにね。そんなにオタクって嫌がられるのかな。
本当は魔法使いなんだよ。
魔術をかけられるんだよ。かけてやるからな。
“ラチサ”
ふふん。




