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end

 成沢くんに言わせれば、あのふたりだって、自分を守るためにああやって人を見て笑っているらしい。

「……あのふたりはさ、俺も最初ちょっと苦手だったんだよ。でも、あれがあいつらなりのアピールでさ。ほんとは、夏美と仲良くなりたいって思ってるんだって」

「うそ」

「うそじゃない。俺、夏美の話してるの聞いたことあるけど、それこそ夏美が綺麗にしてるのとかすごいうらやましがってたぞ?」

 ああやっぱり、あたしは陰でいろいろ言われている。そう思うと、よけい気が滅入ってうなだれてしまう。

「……夏美が、ふたりの言葉に敏感になるってことはさ。それだけ、ふたりのことが気になるからだろ? 一回喋ってみろよ」

「いやよ。ひとの陰口ばっかり言って、綺麗じゃないもの」

「だから、あれがふたりなりの愛情表現なんだってば」

「そんなの知りたくない」

 目に見える綺麗だけでいい。耳に聞こえる綺麗だけでいい。深く入り込まなければならない綺麗は、あたしにはいらなかった。

 ――違う。

「だって、こわいもの」

 あたしはただ、逃げているだけだった。

 ほんとうの自分を見せて、それを知った人たちがまた、昔のようにあたしを嘲笑ってきたら。それを考えるととてもこわくなって、お互い深く関わらないようにと距離をおくようになっていた。

 結局あたしは、中学の頃からちっとも成長していなかった。

「……あたし、もう教室に戻れないよ」

「戻ってこい」

「こわいの。じろじろ見られるのとか、絶対、嫌。なに言われるかわかんない」

「いいから、戻ってこい」

 ぐしゃぐしゃと乱暴に髪を乱して、成沢くんは手を離した。

「みんな、心配してたから。笑ってたやつなんていないから。追いかけようか迷ってたやつも、いたから」

「でも、こなかったもの」

「それは夏美がみんなに壁はってるから。みんな、壁はられてることに気づいてるから、気になってもなかなか近づけないんだよ。女子でも男子でも、夏美のこと気になってるやつらたくさんいるぞ?」

 クラスのみんなには、あたしから距離をおいていた。結局みんな、あたしがいなくなると陰口を言うと思っていたから。あたしからおいている距離を自ら縮めようとしてくる奇特な人なんて、成沢くんぐらいだった。

「俺、こうやって夏美の中身と話せて、嬉しいけどなぁ。たぶんみんなだって、話してみたいと思ってるだろうし」

「でも……」

「でもじゃなくて、実際やってみようぜ? ここでうだうだしてたって、なにもはじまらないし答えも出ないしさ」

 ぽんと、彼があたしの膝を叩いた。

「夏美だって、そうやって壁はってる自分に疲れてるんだろ? 全部崩せとは言わないからさ、ちょっとだけ空気穴あけてみろよ」

「……やりかた、わかんないし」

「笑ってみろ、なにも考えずににこっと。化粧で綺麗にするより、表情ひとつ変えるほうが全然いいぞ? 笑顔は誰でも綺麗に見えるし、その効果は俺が一番知ってるからさ」

 立ち上がり、成沢くんはおしりについたほこりをぱんぱんと払う。そしておもむろにあたしを振り向き、手を差し出した。

「行こうぜ。そろそろ予鈴鳴るぞ?」

「でも……」

 ためらうあたしの顔を、成沢くんが両手で包み込む。なにをされるかと思ったら、そのままぐにゃぐにゃと頬を揉みくちゃにされた。

 こりかたまった表情筋をほぐすように、成沢くんはあたしの口角をひっぱる。頬を伝った涙の残りも、触れた時点で気づいていると思う。あたしが抵抗すると、彼はあっさりと手を離してくれた。

 そして、手首をつかんで立ちあがらせる。まったく動けなかったのが嘘のように、あたしはあっさりと立ちあがることができた。

「……こわいよ」

「俺だって毎日こわいさ」

 あっけらかんと、成沢くんが言う。くしゃりと笑って、また頭を撫でてくれる。

 そのぬくもりに、自然と、あたしの口から笑みがこぼれ落ちた。






              END 


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