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聖女商会 〜魔族の史上最強姉、妹系聖女として人里に降臨す〜  作者: こんブちゃ


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28:大聖女(呪い)と大聖女(希望)

 その団体のためだけに存在する街には音もなく、既に死に絶えていた。せっかく満月が白く澄んだ光で地面を照らしてくれているのに、地面は赤く血まみれだ。足元には誰かの腕の一部だったものとか足の一部だったものが散らばって、まさに『あの晩』を再現して見せたつもりか。


「なあ、お前。お前は古の誰かの望みを叶えたとうそぶくつもりかは知らないが、私はそれを認めない」


 ルールーは喋りを解禁していた。言霊の圧力で大聖女を騙るモノは動きを封じられ、歯噛みするだけになっている。


「『あの晩』私は大聖女に呪いと希望のどちらかを言葉にして残すことを提案し、大聖女は希望を残した。そしてそれを託されたのはお前ではない」


「お前はただ、((この世から消え損ねた単なる遺物))に残った((選ばれなかった方))を自分勝手に吸い出して、自分の都合でばら撒いているだけだ」


「ち、がぅ」


「違わない」


「ち、がう。ちがう。違う」


「かつて私が定めた。何も違わない」


「ならば、私も、定めるっ!」


 大聖女を騙るモノの、出力が上がる。言霊の圧力を払拭して、かつての大聖女がそうしたように『陵断』権能で見えない刃を撒き散らす。ルールーもやはりかつてのようにそれらが身体に当たる度に損傷をなかったことにする。それは『全癒』での回復とは違う原理なので、何度食らおうが関係ない。


「これは、大聖女の願いであると同時に、私の、大事な人の願いでもあって、むしろそれこそが、私のっ願い!!」


 切断系権能が無意味と知って、『障壁』の壁を直接ぶつけにくる。正面からだけでなく、両横から、真上から、足下から背後から。ルールーの周辺の地面はズタズタになっていくがー


「それら壁が私に当たる未来を、なかったことにする」


 壁は砕けたり、食い止められたりはしていない。ルールーに当たる寸前で溶け込み流れ去っているような、不思議な光景が発生している。


「無駄だ紛い物。お前は紛い物であるゆえに、私に優ることは無い」


 紛い物と呼ばれ、一層ムキになり出力を上げる。


「?」


 ルールーに『陵断』の刃が一つ通り、右腕が肘から千切れかかる。


「腕の損壊を、なかったことにする」


 右腕は何事もなく元に戻っている。


「まあ、紛い物でも元が良ければ権能重ねがけくらいまでは思いつくし、出来る。か。なるほど、惜しい人材、というところではあったか」


「…気持ち悪い。お前、魔族か!!」


「今頃気付くのか。知らずに向かって来ていたか。それのどこが大聖女を名乗れるのか。本物はひと目で見抜いたぞ?前もこの間も」


 紛い物は、初めて怯み、


「ならば名乗ってやろう。私は魔族のメイフェリという者だ」


「め…」


 動きが止まる。


「死んだんじゃ…なかったのか、百七十年前に…」


「言わせておいた。大聖女の名誉のためにな」


 紛い物は瞳こそ憎悪を絶やしていないが、次の動きをできないでいる。


「さて、私はもうしばらく時間稼ぎをする必要があるようだから、少し雑談でもしながら待とうか」


 力の格差がありすぎて、紛い物はその言葉の意味を理解できない。


「つまりお前は、その大事な人とやらの願いを叶えるために、大聖女の名を騙るのか」


「当たり前だ。私は元から、その人と一緒に居るために、ここに来た」

「どうでもいいんだ。聖女だろうが、呪いだろうが。理由なんて何でもいい」

「あの人が一緒に居て、私を見ていてくれるなら、何でもいい」


「話にならない。世界を背負い裏切られた大聖女は、自分のために世を呪った訳ではなかった」

「お前は自分のためだけに、他人の力で世を呪う」


「それが、あの人のためになるからだ」


「…そうか。ならば、聞くといい。その大事な人だか、その人だか、あの人だかの本人に」


「…は?」


「そして、残念なことだが、その大事な人自身が、古の大聖女の最後の望みを正統に継いだ者だ」


「はぁ??」

「…あ」



「…川の上を走ってくるというのは、なかなか骨が折れますね。遅くなりました」

 少し息が上がって、よれてはいたが、もう一度聞きたくて永く恋焦がれた声が耳に届く。


「お久しぶりですね。キノさん」


「あ、…あぁ」

 テマイラを眼前にして、大聖女を騙るモノは少しだけ、元の少女に戻りかかる。


××××


「貴女には確かに素晴らしい聖女になる素質がある。でもまだそれを目指す時では無いと思う」


 スカウトの絶賛する美辞麗句に浮かれる両親や親類を横目に、そう耳打ちしてきた少女のことは、この一時間前に、屋敷の玄関ホールで初めて対面した瞬間から気になっていた。


 私の生まれた国は、大きな帝国だった国が分裂してかろうじて存続した王族が立てた小さな王国。そして私の実家はその王に仕えてきた子爵家だけど、貴族家の大半が滅んでいたので体裁のために男爵から子爵に上がったという、あまりパッとしない背景を持つ。

 そんな家庭に上質な聖女の資質を持った子が生まれて、聖女の世界で最高の格式を持つフィリアド聖女会からスカウトされて、断るというのはあり得ない話だった。私も、本当は少し嫌だったけど、実家が恥ずかしい思いをしなくて済むならと覚悟を決めていた、つもりだった。


 教団のスカウトは「今の年齢から教団で訓練すれば、歴代二番目の優秀な聖女になるのも夢ではありませんよ」と誉めてくれた。何故一番じゃ無いのかはわからなかったけど、それまで人に自慢できるようなことが無かった私には宝石のような褒め言葉だった。でも、スカウトと一緒に来た女の子…ちょっとお姉さんなあの子は私に「まだ来るな」という感じのことを言い続けた。「この子は私のことを嫌いなんだ」って思ったら、急に怖くなって、この場では教団入りを断ってしまった。帰りがけにあの子は私に振り向いて、笑っていた。


 スカウトを断ってしまったことは、すぐに後悔して何日かはぼうっとして過ごした。学校も、同級生の集まりも何も楽しくなくて、あの子に帰りがけに笑われたことばかり気になってしまっていた。


 ある日。学校から帰ると手紙がきていた。あの子からだった。開封するのは怖かったけど、勇気を持って読んでみた。


「この前は、スカウトを断ってくれてありがとう。貴女は本当に素晴らしい聖女になれると思っています。ただ、聖女にはなるべき時と、まだなるべきではない時があり、貴女はまだなるべきではない時にあります。これからしばらくは聖女になるための練習とかもしないでください。なるべき時が来たら、必ず迎えに行きます。この前のことで私を怖いと思ったのでしたら、他の人にとお願いしてください。私は貴女が最高の聖女になるのを楽しみにしています。それでは、また」


 震えが、止まらなかった。世の中にはこんなに私のことを大事に待っていてくれる人が居るんだ。そう思ったら、


 聖女になるための練習が、より楽しくなって、これまでの何倍も、何倍も、頑張った。


 私は、あの人のために、最高の聖女にならなくちゃ。


××××


「迎えに来てもらえる日が待ち遠しすぎて、出てきてしまいました。まだ教団に入るわけじゃ無いから、いいですよね」


 その子が教団本部特別領の私の家にやって来た時の失望感は、いつも言葉にするのが難しい。彼女は余りにも聖女の素質がありすぎて、早めに弄りすぎると余計な権能が発芽する危険性を秘めていたから、普通とは逆に可能性の幅が狭まる頃合いまで何もさせたくなかったし、何もしてほしくなかった。


 事実、私のところに来た段階で、いくつか既に余計な権能の資質を発芽してしまっていた。最たるものは『伝心』で、これはどちらかというと魔族寄りの権能で、会話の代用になる他に凶悪な攻撃や洗脳にも使える、扱いの難しいものである。そして、それは私の目論み〜教団の解体的弱体化に致命的に邪魔になると確信できた。


 ただ、私はそれでもこの子を見捨てることが出来なかった。私の中のティーリオフィリアドが、この子を手放したがらなかったから。理由はなんとなくはわかる。この子の中の何かが、ティーリオの大事な人に似ているように思うから。ならば私はこの子と適切に距離を取って成長をコントロールしよう。間違ってもここで一番の聖女にならないように。ティーリオの大事な人の末路のようにさせないために。


××××


 …あの人が、私のことを避けているような気がする。教団入りした日もお祝いはしてくれたけど、本心からお祝いしてくれていたかはわからない。掌握が((嫌がってはいない))って言ってくるけど、私はあの人に全てを受け入れて欲しいの。あの人の妹のように。


 …もっともっと頑張って、ここでの一番になれたなら、認めてくれるかな?


 ようし、がんばろう。そして一緒に、あの人がやろうとしてることの、一番の協力者になるんだ。


××××


 ——最悪だ。あの子が一番目に…第二席まで上り詰めてしまった。私は何かを間違えた。私の中のティーリオも嘆いている。必ずしもあの子が悪いわけではない。おそらく私と、私の中のティーリオが知らぬ間に大願を焦っていて、あの子を急かしていたのだと思うことにする。これからは更にもう少しあの子との適切な距離を図っていこう。あの子が円満に引退できるまで、何も起きませんように。


××××


 あの人が、逢いにきてくれない。私は、見限られたのだろうか。私は何か間違えて、あの人の欲しい姿から外れてしまったのか。なんとかしなくちゃ。あの人が欲しい姿になれば、戻ってきてくれるかな。


 そしてある日、私の何かの権能が、答えをくれた。


 


 ((古の大聖女の、聖遺骸が、そこにあるよ))って。




 ((古の大聖女の願いは、あの人の願いと同じ根っこにあるよ))って。




 私は、もう間違えない。




 古の大聖女と、一つになってあの人に、逢いに行こう。


××××


 テマイラの前で、呪詛の塊になりかかっていたものは完全に動きを止めている。動きが止まったのは当人の意思か、テマイラの力によるかはわからない。少なくともルールーは何もしていない。


 テマイラは一歩、前に出る。


「私は、貴女が今後の人の世で穢れた存在として記憶されることを見るのを耐えられない。だから、ここで貴女に選んで欲しい。私とここで差し違えるか、私の命をここで断つか」


 もう一歩、前に進む。


「そん、なこと」


 更に、一歩。


「できるわけ、ない。どうして」


 もう一歩。


「どっちを、選んでもテマが、しぬ、の」


 息も届こうという距離で、立ち止まり、


「私は、まだ小さい子供の頃、空から落ちてきた小さな紙風船を手にした時から『誰かの希望』に呪われてしまった。これを実現するために酷いことを重ねてきた自覚はある。おそらくもっと利口で綺麗なやり方もあったろうけど、私は早くこの呪いから逃げ出したかった。その焦りがおそらく今の、この有様に繋がっている」


 テマイラはキノマレンを抱きとめる。


「違う、違うよ」


 テマイラはキノマレンの髪の毛に手を伸ばし、


「これは私が、自分で望んで」


 一つ、二つと髪束を解き外していく。


 聖遺髪の髪束は解かれる度に未練のように淡い光を放ち・明滅して地面に落ちると、黒ずみ・朽ちて砕けていく。


 ルールーは依然として黙ってこの様子を見ているが、


「これは一体…?」

 遅れてようやくやって来たニナッタが周囲を見回しながら声を上げると、指を口に当てて柔らかく微笑んで、


「まだお前の、私の、出番では、ない

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