27:調停者、乱入す
「一人でも生きている者があったか。期待していたわけでは無かったが、何が起きたかの証言は欲しい。よく頑張った『成りたての魔族の子』よ、後は任せよ」
場に乱入したルールーはとりあえず襲われていたらしい少女の側に立ち、少女への攻撃は自分への攻撃であるとして、これ以降のダメージを共になかったことにする。
「それと——お前、何やらおかしなことになっているな。…お前とは確か一度、逢っている」
向き直った先には膨大な呪詛を身に纏う、元教団聖女だった何か。
「なるほど、そういう理屈で…やはり、か」
ルールーは状況をだいたい把握した。
××××
商会を立ち上げて間がない頃、話題になったことがある。教団巡幸団からなし崩しにルールーたちと合流したニナッタやハァリカが教団に返却するものと捨てていいものの仕分けを進めていた際に、
「そういえば、もうこれは付けなくていいんですね。気が軽くなります」
と、白金色の髪束を手に微笑んでいた。
「それ、は?」
「ええと…何と言いますか、『聖遺髪』です。もちろん作り物なんですが、大聖女に聖力を支援してもらうとか何とか言って、お務めの際自分の髪に編み込むんです。席次に応じて編み込みの束が増える仕組みで、私は第八だから一束・ニナッタさんは第三だから六束っていうふうに」
「ほう」
「でも、何かちょっと気持ち悪くて。作り物だし単なるゲン担ぎではあるんですけど、ご遺体から採った体裁の物を身に纏うってのが…」
「頭、大丈夫?って思うよね(迫真)」
話に加わってきたニナッタと共に「ねー」などと言い合っている。
「魔族、には無いが、人間は稀に、よくそういう、ことをする、とは聞く」
ーそういえば、とテマイラに向き直り、
「大聖女の、亡骸はあの後どう、処理、されたのか?私はすぐ、に魔郷に戻ったし、その後は、外に出る、ことが無かっ、たからな」
「それは私も調べてみましたが、特に記録が無くて。あのトルト呪詛の現場に唯一残されてた遺体なので、それなりの処理をしないといけない筈ですが、火葬したとも、土葬したとも、伝えるものが何も残っていません」
「丸ごと、遺されて、いる可能性が、あるか。でなければ、遺品でゲン、担ぎなど思い、つくまい」
永く生きてきて、人類には通り一遍の理解では及ばない行動をとる者が一定数現れることをよく知るルールーである。
××××
遡って夕刻、『商会主催権能品評会』一日目が無事終わったことを労って早めの夕食を参加者込みで行っていたのだが、
「あちら、も今日の出し物は、終わった、のか」
料理の冷めるのを待ちながらルールーは対岸の教団本部や仮設スタンドの方を眺めている。
「日没後なら、忍び込んでもわかるまい。とか思ってはいけませんよ?」
「なるほど、そういう手、があるか。参考、になる」
白々しい返答に「掌握持ちを舐めるなよ」と毒づきたい気持ちは大人なので抑えるテマイラだが、
「あると、したらそこ、だろう」
「…なるほど、そうですね。あの時のお話の続きでしたか。ただ」
「うん、全く、視え無い。もし丸ごと、遺してある、なら相当深い、地の底に、あるのか」
より集中して教団本部の周囲を凝視しようと試みるが、
「何のお話ぃ?お姉さんも一枚噛んでい〜い?」
酔っ払いが絡んできた。
「クラデさん、貴女飲む人でしたっけ?」
「飲む人飲む人。聖女宿舎でも暇な時は普通に朝から飲んでたしぃ。酔うのと権能行使ってあんまり影響関係無いじゃん?モノによっちゃ、酔ってる方が威力出るし」
「…それは初耳です。それこそ((人による))んでは」
めんどくさいので切り上げようとしたが、
「人によるって、確かに最近の第二席ちゃんは、そんな感じね。ありゃ絶対何かやってる」
え?
「私じゃなきゃ見逃しちゃうだろうけど、あの子こないだまで超絶スランプでさ、脱落するんじゃないのって思ってたのに、急激に立ち直っちゃって〜。で、近づくとちょっと匂うのよ、おかしな魔臭が」
「その話し、詳しく」
「私ら、魔族や魔獣と戦ってるとき、途中からすごいテンション上がって日頃より出力上がることあるじゃん?あれ、相手の醸すキツい魔素に酔っ払ってるんだと思うわけ。個人の感想だけど」
「で、それは呪いが醸す魔素にも同様なとこあって、特にこちらは同類が出す〜この場合人間ね、の呪詛の方がすごいハマるっていうかキマるってことがありがちなんだなぁ」
「そして、ここからが本題なんだけど、あの子のエクステ、普通じゃないよ。私らが普段使ってるのはほんとの毛じゃないから無臭だけど、あの子のからは((ホンモノ))の匂いがする」
××××
「確定、だな」
「遺骸保管の方ですか?あちらに侵入図る方ですか?」
「どちら、も」
「ですよね。どのみち今夜くらいしか機会ないですけど」
「うまく、すれば教団の、評価を、下げられる」
「それはそう、ですが」
「私に、不信感が、あるか」
「そうではありません。…むしろ、私が、自分自身に不信感が、あるのでしょう」
「ん?」
「私の中の大聖女が、また『あの晩』のような呪詛を撒き散らす存在に変貌したら。その引き金が自分の遺骸と遭遇することだったりしたらと思うと、私が、恐れている」
「それは、させない」
「え?」
「それが、あれとの約束、だから」
『あの晩』の大聖女の、最後の言葉が脳裏に浮かぶ。
ー「未来のいつの日にか、『私』を、よろしく」ー
その時、対岸の空気が、 ぽん と弾けたように感じた。
「!?」
次いで、 ぽん ぽん と続けて弾ける感じが続いて、
「これは、『あの晩』の時の」
更に ぽん ぽん ぽん ぽん 出鱈目に弾けていくー
一瞬遅れて、凄まじい血の匂い。
「あの塔の建物までの距離を、なかったことにする」
テマイラの隣にいた筈のルールーの姿は一瞬にして消え、対岸に飛ぶ。
書いてて元・第四席に親近感湧いてきました。




