25:不穏の芽ぶき
「祭祀への世間の関心、なかなかのものと聞く。見通しはいかがな状況か?」
「いよいよ明日から現座席持ちの聖女たちも参戦して、祭祀の山場に差し掛かるところでありまして、テレビジョンもルレバーン以外の国々からこぞって集まり、放映権利の浄財の集まりも大変に順調でございます」
人払いをした深夜の教団本部で教団総会頭と枢機卿が二人だけで語り合っている。彼らが現在の地位に就いて以来、大っぴらにできない類の話をする時にはいつもこの形を取る。
「ルレバーンな、やはりあれは駄目だ。国も民も性根が腐っておる。ほれ、何とかいう、第四席な。あれも大層可愛げのない女であった。本来なら出身国だけで座席を剥奪しても良かったものを、特別に目をかけてやっておったというのに」
「まああの者の実家からはかなりの寄付を貰っておりましたからな。今回円満に足抜けされてしまい、それが失われるのは地味に痛いところであります」
「ふん、何が円満か。…というか、いつ手続きが終わっていたのだろうかな?気が付くと空席になっておったようにも思うが…」
「そう言われてみると、そうではありますが、まあそれだけ近年存在が薄くなっていたのでしょう。年齢も年齢でありましたし…まあ総会頭のご趣味とは違って、私にとっては十分範囲でしたので逃げられたのは少々残念ではありましたー」
言いかけて、扉が開いた気配に二人ともぎくりとして、音の方を見やる。果たして扉は開け放たれ、少々遠いのと照明が暗くて人影があることしか判然としないが、こちらに向かって歩き始めたのを確認してー
「第二席…?」
××××
ー少し前、
『いよいよ今宵でございます』
夜闇の霊廟から、声がする。入り口の扉は少し開き、中の光が漏れているが、今夜は満月、その程度で誰かに気付かれることはない。
『こうして貴女様とひとつになる毎に』
外に、人の気配はない。
『貴女様の想いを識り』
下に降りる階段にも人影はない。
『それは、((あの人))の願いに似ていて』
廟の間にも人影が無いのに、はっきりと声として辺りに響く。
「私がここで、我慢して過ごして来たのは、まさに」
聖棺から、響く声の他に、はっきりと肉声も聞こえている。
「『今宵のために、あったのでございますね』」
棺の中に、ティーリオの聖遺骸に添い寝しているキノマレンが、恍惚とした面持ちで取り憑かれたように『伝心』にもそれを載せて、言葉を紡いでいる。
「『そうですね。本当はもっと早くても良かった』」
下ろしたままの頭髪には十束どころではない数で本物の聖遺髪が雑に結えつけられて、心なしか淡く光を放つ。
「『本当はあの晩に、直接、罪のあるものたちをー』」
いつもきっちりとした身なりが矜持であったはずの装束はだらしなく着崩れているが、気にすることもなく聖遺骸に縋りつき、頬擦りをしー
「『断罪。するぺきものだった』」
唇を合わせー
空気が、震えた。
××××
「第二席…?このような時間に、いや、そもそもいち聖女がここに入って来るなど許されることでは無いが」
枢機卿がきつい口調で窘めるが、人影は歩みを止めず近づいてくる。ようやく明かりが届いてはっきりとそれとわかる姿が浮かび上がってー
「なんと、はしたない!」
聖座を見上げているキノマレンは聖女の執務装束こそ着ているが頭髪は結わず後付けの髪束だけが異様にギラギラ輝き、装束自体もチグハグにはだけ足袋も履かず裸足である。
「今代の聖下は、お前か」
「は?」
小娘の無礼な口利きに、取り繕いもなく声が出てしまう。というか、『聖下』とはまた古風な。
「お前に問おう。お前たちにとって、今代の聖女たちはどういう存在か。金の生る木か・欲をぶつける相手か・都合よく手懐けられる奴隷か」
煽るような笑顔で重ねてぶつけられる無礼な問いに、まともに返事をするのも馬鹿馬鹿しいが、
「大変に尊きものに決まっておる。かの大聖女が人類に未来を遺してくれて以降、我らは聖女がもっとも世界に貢献出来るありようを模索し・構築し・道筋をつけてきた。我らはいつも聖女の恩恵の下にある」
この者はもう、最低限の手駒にする他無いなと、さてこの者に執心していた王族はどなただったかななどと思いながら枢機卿は返答するー
「そうか。お前たちは変わらなかったのだな。ならばー」
この男たちが、本当に永年聖女たちを束ねてきている立場を自覚していたなら、知識と覚悟を十分に弁えているべきであった。
『爆ぜ消えよ』
自らよりも格上の『掌握』権能持ちに、迂闊に声を聞かせてはいけないと。
床にはばらばらといくつかの塊と液体が落ちる音。
ー『あの晩』の続きが、始まる。
不可逆点を超えた。




