24:第四席の矜持
会場は微妙な空気に包まれていた。進行役のニナッタが突然絶句し、固まってしまったからである。「(ら、来場者たちは気づいてないの?…どう見てもこの人は)」
フィリアド聖女会第四席聖女・クラデ。席取りの祭祀が始まるまで教団所属聖女ではかなりの古株であり、((現所属勢の中で最も柔らかく土鎮めを行う))定評のある聖女だ。勤務態度も誠実で、内外で((権能保有者としての良心の塊))などと称えられてきた。まもなく30歳に到達しようという現在でも聖女業務一筋で、貴族・有力者たちからの求婚を断り続けて今日に至る。
ついでに言うと、教団で新人聖女時代の専属指導係でもあったため、ニナッタが唯一頭が上がらない(直訳;苦手)聖女である。
「あ、ええと、はい、そうですね。ええと、本日は素敵なお召し物でいらっしゃって、ええと、本日はどちらからお越しになられましたか?」
「ルレバーンのルブリーリュ市です」
テンパり過ぎて既に聞いたことをまた聞いてしまった。しかもお召し物は皆お揃いの体操服なのだが。
「ーでは、早速腕だめしに、入る。最初は、これ」
固まって段取りが頭から飛んだニナッタに代わり、ルールーが壇上からグラウンドの方を指差すと、地面がモコモコと複数盛り上がりいくつかの棒状の物体を形成した。
「これから、皆には、権能で腕、ずもうをして、もらう。レベル1は、これ」
人間くらいの背丈と太さの、ただの土の棒。
「勝てたら、レベル2で、これ」
先ほどより一回り太くなり、先端がヘラ状になっている。
「それ、に勝てたら、レベル3は、これ」
太さはレベル2と同じだが、完全に人間の腕と手首を模っている。
「レベル3で、合格だけど、もっと上に、挑戦するなら、これが少しずつ、大きく、なる」
ルールーは先にグラウンドに降りるとレベル3の腕部分を手でぺちぺち叩きながら、壇上の参加者たちを手招きする。
ちなみに、これら材料はテマイラがルールーの喋りに合わせて錬成したものである。土鎮めや障壁の権能を持たないルールーが作れるわけではないから。だがそれ故に、この腕試しは手強い。
参加者は別に同じものを錬成して戦う必要はないが、対抗上似たような塊を作り勝負する。全員レベル2までは普通にクリア出来るが、レベル3は実はちゃんと腕を造って対抗しないと握り潰されて勝負にすらならない。結果として、腕を造れた者が十一名・ちゃんと腕相撲の形に組めた者八名・勝てた者は三名であった。ちなみにポーリオ クラデは勝てた者に入り、順位は二番目である。
「負けたから失格、とかそういう、テストでは、ない。これは、遊び心、のテスト」
「聖女商会、は実用権能、だけを重視したりは、しない。全ての権能、の可能性、研究も、する」
ルールーが珍しく長く喋ってしまったため、会場内は怪しい感動に包まれていく。中にはちゃんと言葉の意味に感銘を受けて泣いている者も居はするのだが…。
××××
「本っっ当に、申し訳ありませんでした!(平伏)」
午前中もう一つ別のテストが終わってから一時間の休憩に入って早々の楽屋では、ニナッタの反省会が行われていた。
「ルールー様の機転がなければ大失態を世界中に知らしめてしまったと思うと、震えが止まりません」
「ではその、震えを、なかったことにする」
「え?あ、いえそうではなく、いえ震えは止まりましたけど?そういうことではなく」
「落ち着きなさい。そもそもは教団の関係者がこれに応募してきて、何故か書類選考で気が付かずに通過させて、今日のエントリーまで誰も気が付かなかったことの方が一大事ということを共通の認識にしておかないとね」
「応募書類には備考欄に((宗教団体で勤務経験あり))とは書いてあるんですよね…」
トトラが書類ファイルを見ながら、恐縮しつつ発言する。
「今すぐにでもどういうつもりなのか問い訊したいところではあるけど、参加者に途中で接触するのは不正が疑われるから難しいわね。とりあえず今日は最後までスケジュールをこなしましょう」
××××
「教団を辞めて、故郷に帰ろうと思ってね。いい子ぶるのもおかしい歳になってきてるし。ほら、今やってる席取りの祭祀っての、関わってまで残りたいかー?って愛想尽きたわけよ。」
クラデは悪びれるでもなく言ってのける。ソファに深く腰掛け足を組んだ姿には永年教団で((模範的な座席持ち))と見られて来た聖女らしさのかけらも無い。
「そもそも、このルレバーンの生まれの私が、教団なんかで一生終えたいわけないじゃん?ましてや教団の斡旋で変な金持ちとかに嫁がされるとかゾッとする。だから万年二位グループに収まるように程よくお務めしてきてたわけだし。ねえナドゥラ」
「はい。お嬢様はこれまでよくぞ辛抱なされていたものよと、私も心を痛めておりました」
え…この人は見たことが…あ、
「第四席の、侍女用人の。確かに同じルレバーンのご出身でしたが、最初からお二人は関係者でしたか。というより、ポーリオは資産家でしたね。そこからの…」
クラデはテマイラが教団入りする前から所属していた聖女なので、通り一遍の情報しか把握していなかったが、今更ようやく事情を理解した。
「当たり。ってか流石ねテマイラさん。まあ私らは貴女方が姉妹というのは見抜けなかったけど」
「積極的に隠してはいませんでしたけどね。座席持ちの聖女にも知らせている者は居ましたし」
「ああ、一緒に抜けたあの第八席の。…癪ね。私はニナッタさんからの信頼得られて無かったんだ♪」
わざとらしく眉を八の字にしながらも楽しそうに笑いながら話かけるが。
「信頼とか、そういうことではないです(断言)関係性にけじめをつけていただけです(拒絶)」
笑顔で断絶を示すニナッタにそこはかと闇を感じるトトラ。
「…そういうことにしておくわ。ここまで来て揉めるつもりは無いからね」
「だが、商会に入りたい、わけでは、無いのだろう」
様子見に徹していたルールーが、クラデにチラ見されたので口を開く。
「ええ。故郷に帰ると言ったのは本当よ。でも私を教団に利益目当てで売った実家には戻りたくないし、今更この歳で手に職って難しいじゃない?だから、さぁ」
「商会って、立ち上げの時に((先々はフリーの聖女でも委託登録したら、仕事斡旋してくれる))って言ってたじゃない?その先々っていうのを〜」
「今に、しろと」
「せいか〜い♪」
場を((何言ってんだこいつ、図々しいな))という空気が支配する中、
「私は、構わない、と思う。だが、教団はまだ、正式に辞めて、来たわけでは、無いの、だろう」
「それも、せいか〜い♪だから、さぁ」
「貴女たちも何かインチキやって足抜けしたんでしょう?それを私たちにも〜」
違うが?とニナッタは闇の笑顔で睨む。天地神明に誓って私らは正当な手続き整えてから逃亡したが?
「では、お前たちが、黙って教団、から逃げ出した、ことで起きる一切の、揉め事を、なかったことにする」
「んん?」
「ああ、後始末は私たちの方でやっておきます。ということです」
テマイラが適当に取り繕って返答するのをクラデは特に深く気にすることもなく、
「じゃあ今回のテストは?」
「合格。で、良い」
後々、クラデは商会の口利きでルレパーンの国家聖女たちの指導官も務めることになるが、それに関してニナッタは、
「国家聖女の皆さん、心をしっかり、強く持って頑張ってくださいね。お力にはなれませんが、応援しております」
と、身も蓋もないコメントを残している。




