23:聖女席次争奪の祭祀vs権能品評会
本筋に戻りまして、温度差で風邪をひいていけ。
「ニナッタと、何かありましたか?今朝から何か様子がおかしいのですが」
朝食を終えてトストルのソマンに向かうべく身支度を整えたあと、出発までの時間調整している時にテマイラはルールーに耳打ちする。
「あった。聞くか?」
「あ…そうですね…聞いて良い話なのでしょうか?」
会話に駆け引きがあまり無いルールーの簡潔な返答はテマイラに軽い混乱を招く。大聖女の権能をほぼ継承しているテマイラは当然のごとく掌握も発揮出来るが、能力的にさらに上位のルールーからは限られた事情しか汲み取れない。
「お前は、良い妹を、持ったな」
「それは、間違いありません。かつての大聖女には無かったことですしー」
言いかけて、少し胸がひりつく。だからこそ、かつて彼女には特に目をかけた少女がいて、だからこそ…
「私には、あれを守る責任があると思っています」
××××
「大丈夫。この体勢でも打ち合わせに支障ありませんから(きっぱり)」
ソマンに向けて出発した自動車内で、ニナッタはルールーを羽交締め同然に抱きしめながらテマイラに向き直る。
「ルールーの抱き心地が国宝級に良いのが悪いのです(迫真)」
「ルールーが良いのなら、構いませんが」
呆れ顔でテマイラは到着後のスケジュールについての打ち合わせに入る。予定外の首都入りなどがあったため、ここからはかなりタイトな進行になるので、移動中も気を抜けないのだ。
「いや、よくは、ない」
ルールーの異議は完全にスルーされている。後でニナッタに聞いてみたところ、ルールーは(魔族は?)体温が人類より三度ほど高いらしい。なるほど少し肌寒くなってきているこの時期、猫を膝で抱えているような、そんな感じなのかもしれない。テマイラは「一度自分も膝枕して貰ったことがあるが、あの時は別の感情が強くて印象が残ってない…一度改めて自分も抱きしめをお願いしてみるか」などと考えたりした結果、
「打ち合わせが、捗って、ない」
ルールーに冷静に指摘をされることになった。
××××
「そういえば、あちらも今日からメディア展開あるらしいですね」
ニナッタの付き人のトトラが、運転手にラジオのチャンネルを民放に切り替えてもらう。フィリアド聖女会の『席取りの祭祀』は先々週から始まっているが、聖女商会のメディア利用に対抗してか、急遽イベントの様子を実況中継することになったのだとか。
[[〜が現在は大きくリード!次いで聖女トゥーケと聖女ヴォーリニが競り合っている!現在トップの聖女マショウの『障壁』でコースを歪められなかなか追い上げ速度を上げられないなかこの二名もいつ権能で劣勢を〜おおっと?大外からここまで五番手だった聖女アッカリオがものすごい速度で追い上げて来ている!速い!アッカリオ速い!!あっという間に二位グループを抜き去りマショウに迫る!?なるほどアッカリオ、コース中央よりも外側が歪みが少ないことに着目した上に自らの足元に障壁を出して押し出して加速しているっ!!さあどうか、最終コーナーを回ったところであと身体一つ分の差に迫る〜]]
「…何、これ」
「徒競走、ですかね。多分所属聖女全員エントリーでの」
「席次、争奪…で?」
「着順で点数付いていくんですよ。他にも輪投げとか玉入れとか」
「運動会…じゃなく?」
「組体操とか、創作ダンスとかもありますよ。あと、歌?」
「あ、でも純粋に点数順に座席が決まるわけじゃないんで。途中で二度、じゃんけん大会挟んで負けた方は強制的に脱落とかされます。((権能・体力・時の運))だそうで」
うん、ひどい。伝統と格式がとかほざいてる団体のすることじゃない。ましてこれが観衆を呼び込んでまで開催することとはー
「でも、四十年前くらい前に二度やった時よりは何か反応良いらしいですよ。時代の変化ってやつでしょうか」
マジか。テマイラの中の大聖女が大きなため息をつく。そこそこ長く教団勤務をしてきたが、そういえばこの行事について調べてみたことは無かった。というか、ニナッタもトトラも妙に詳しくないか?
「そりゃあ試験内容があちらと被ったら最悪ですからね。研究はしますよ」
権能で返事を先回りするのはいただけない。
「それは、第二席やらも、同じことを、するのか?」
「あ、疑問はごもっともです。一応第二席から第三席まではこの〈予選〉は免除で、最後は流石に直接権能で殴り合って決める感じだそうです」
「殴り、合うのか」
ルールーは呆れよりは興味津々な顔をしている。いや、貴女は参加できませんしさせませんよ?
「現状第三席は空席なので、その辺はどうなるのかわかりませんが。普通なら第四席が代わりに入るんじゃないかとは思いますけど。……………実力者ではありますし」
「その間は、なんだ」
「苦手。なのよね?ニナッタは」
「いえ、苦手とかではありません(決然と)もう二度とお会いしたくなかったりするだけです」
「普通、それを苦手、というのでは、ないのか」
抱きぐるみ扱いされている意趣返しに、今日のルールーのツッコミは厳しい。
××××
「なるほど、あれが教団の、本拠地か」
トストルの西端の町・ソマンで商会の新人発掘会場に設定した運動公園は幅十キロメートル強の大河沿いにあり、対岸はバチコウ連合国である。また、その中でもソマン対岸はフィリアド聖女会の本拠地領であり、今まさに席取りの祭祀が行われている。
対岸から見てもわかる通り教団本拠地は川沿いの小高い丘にあるが、これは中世の城跡で、自然の崖に石垣が積み上げられて雛壇のような地形が形作られている。その中で一段と高いところに大聖堂が建設されて威容を示していた。その大聖堂の前には広大な空間で前庭が整備されているが、そこに今回の祭祀に合わせて仮設のスタンドが設置され競技場の体をなしていて、中の様子が隠されわからない。ルールーはまるで中を覗けないかというような、背伸びをしてみたりしている。
「参加できませんし、させませんよ?」
改めて冷静にテマイラは釘を刺す。
「ふ、私も侮られたもの、だな」
かつて世界の行方に関与した両名の今日はなかなかに志低い。そんな二人は置いておいて、ニナッタは粛々と新人発掘会の準備を進めている。
「そういう感じでお願いします。当日の要望で恐縮ですが」
「いえ、事情が事情ですのでこちらもそのつもりで待機しておりましたし、予算も機材も別口で増やせておりますので」
ここで何をするのか漏れ伝わるのを警戒してギリギリまで情報封止していたが、今回の新人発掘はルレバーン祭祀省と娯楽庁の後援を受けられることになり、テレビやラジオも当初予定していたよりかなり大規模に変貌している。
そうなることが確定した段階で企画を一部追加し、ソマンの初等・中等学校に要請して児童・学生にも会場に来てもらって新人発掘だけでなく、『権能発芽体験会』的なイベントを兼ねることにした。
「意外とね、小さい内に一度体験しておくと将来改めて発芽しやすくなるものなんですよ」
体験会の方を引き受けることになったテマイラは既に体操着に着替えてやる気に満ちている。かつて大聖女も頻繁に開催して、一番弟子もそうして発掘・鍛えたらしい。その後の世界では継承されず廃れてしまっていることにはかなり不満があったのが、ようやくここで本領を発揮しようとしている。
「それではみなさん、こちらにちゅうもーく」
テマイラはスタッフの隙を突いて会場の隅に自身の胸の高さ位の小山を造成しておいたが、子供たちに声をかけ招き寄せる。
「この中には霊力の籠ったガラス珠が幾つか埋まっています。まずはそれが幾つあるかを想像して、手元の紙に数字を書いておいてください。ーー書けましたね。では次に、こちらに来て山を触ってみてください。果たしてガラス珠の数は、変わりましたか?変わった人はその新しい数字を横に書いて。変わらなかった人は横に◯をつけて。さあ、やってみましょう」
子供たちはざわつきながらボードに数字を書き込んだり小山に恐る恐る触ってみたりしている。中には手元に何か感じるのか視線を彷徨わせたりする者も居たり、これは資質のある子供なのだろうか。そうした様子を見守るテマイラの瞳は優しい。
「かの大聖女にも本来ならばそういう人生が似合いであったのだろう」
とルールーは眺めながら思う。ただ、規格を外れた存在には往々にしてそういう人生は訪れないことも知っている。と、気がつくと一人の女児が隣で手を握ってきていた。
「お前は…?」
正直、知らない間に誰かに間近に寄られるなど経験したことがないルールーであるが、
「それは、それで面白いな。ところでお前、あの小山の中に、ガラス珠が、幾つあるか、わかるか?」
「はちじゅうよん。おおきいのがにじゅうなな、ちいさいののあかがさんじゅういち、みどりがにじゅうろく」
「はは、正解だ。お前、大人になったら、商会に入れ。私を嫌いで、ないならな」
子供は黙ったまま、ルールーの手を強く握り直した。
××××
「それではぁっ!第一回・聖女商会主催・聖女発掘新人権能品評会っ始まりまーす」
「進行役は私・聖女商会所属聖女・アンザリ ニナッタでー」
「鑑定、と解説の、ルールー」
「以上二名でお送りしまーす(愛想)」
一国の政府が協賛したからといってイベントの規模自体は大きく広げてはいないながらも連日の宣伝と観覧無料としたことからスタンドはなかなかの埋まり具合で、人気の聖女二人が何か喋るだけでも会場は温まっていく。
元々は教団への嫌がらせが目的なのだから新人発掘に成果が無くても気にする段階ではなくて、商会の知名度が上がるならキャラバンは成功といえる。と、テマイラは考えているが、自分が受け持った体験会ではなかなか筋の良い素材が居たなとも思う。全員親が健在なので連れ帰るとかはしないものの。
「それでは、書類審査を通過しました十六名の挑戦者の皆さんを紹介してまいります!皆さん番号順に壇上で自己紹介、お願いします!」
バックヤードから体操服で腰にナンバープレートを付けた挑戦者たちが次々登壇し、名乗りを上げて横にずれながら整列していく。ニナッタは慣れた様子で挑戦者たちに話し掛けて各々の緊張を解いたりしつつ、いよいよ最後の登壇者を招き入れてー
「十六番・ルレバーンのルブリーリュ市から来ました、ポーリオと申します」
「!?」
「ごきげんよう、ニナッタさん。お会いできて嬉しいわ」
そこにいたのは見間違えることはあり得ない、いかにいつもと違った雰囲気を醸していようが、この挨拶で掌握権能は誰かを教えてくれる。
「(第四席ー)」ニナッタは息を呑んだ。
意外な参戦者。




