19:ペノ廃鉱山地区
この世界で近世にいち早く工業化が進んだのは今日のバチコウ連合のひとつ・オントン国であったが、当時王国であったルレバーンは開明的な王の時代に技術を取り入れ大きく発展した。それを支えたのは大陸で最も豊富に採掘できた各種金属類であるが、その反動として重金属汚染が広範囲に発生し、代償として二代後に王政は倒れ大首領制の共和国となった。
新政府は多岐にわたる鉱毒対策を実施しある程度の封殺に成功はしたが、近年再び悪化し始めているといい、国家聖女の手に負えなくなりつつあることから数年に一度教団聖女の派遣を要請している。
「確か、近年派遣されたのは次席様でしたか」
ナミーアの顔を思い浮かべるニナッタ。心なしか高慢ちきさ増し増しで浮かんできたようだが、気のせい。
「脱退した者が言うのは気が引けますが、彼の方では少々適正的に難しかったのでは…?」
言ってはなんだが、実は現次席聖女は八人の中で一番治山治水を苦手とする。
「左様。結果的には国家聖女を総動員した時とそう変わりませんでした。なお経費はその倍…」
皆まで言うな・の心持ちのニナッタである。
「おそらく、これなら障壁、持ちのハァリカの、方が向いて、いるだろうが、な」
ルールーはそう言って前に出る。
「この、人が作った大池が、何度も溢れて、いるのがいけない、のか?」
「元凶、は、あの山が、崩れる、からだ」
指差した方向に、土木大臣と事務官は驚いた。まだどういう被害・問題が起きているかを伝えていない。鉱山閉鎖後も湧き出してくる重金属を含んだ水が即座に川に流れ込まれないように造った人工池に大雨によって崩れた土砂が流入して濾過仕切ってない水を周囲に溢れさせているのだ。
「崩れを、防ぐために山に木を、植えても土が弱くて、すぐ流れる、のだろう?、ならば」
「あ、ルールー聖女、ちょっとお待ちを!」
ニナッタが制止してルールーの口を塞ぐ。「??」と困惑している閣僚の方に向き直り、
「これから少々特殊な祝詞を行います。これは訓練されてない者に害が及ぶことがあります(大嘘)ので、皆様少し下がっていただいて、耳を塞いでいただけますと幸いです(焦り笑い)」
言われて耳を手で押さえながら後退りする閣僚や側近たち。十分離れた頃合いで、
「これならルールー様、大丈夫です」
「わかった。手間を、かけた」
ルールーは一歩前に出て、
「あの山から、毒の土をすこし、なかったことにする」
えっ!?となるニナッタ。鉱脈の地下水に接している界隈を、全く無害な土と置き換える…って?そんなやり方聞いたこともない!
「そもそも、水が、汚れなければ、いいのだろう?」
これで山からの湧水や土砂が溜池に流れ込んでも、汚染土ではないから上乗せの悪化はしない事になる。という理屈だが、
「い、いえ?そうではありますけど(焦り)、それだけでは見た目が変わらなすぎてありがたみが伝わりにくいといいますか〜」
「では、あの山裾の、傾斜の、向きを、なかったことにする」
瞬間、周囲にフワッとした気配が起き〜それは閣僚たちも体感し〜山側から溜池までの傾斜が、溜池から山側への傾斜に変わる。上空から見れたなら、崩れた土砂を堆積するための窪地が一瞬にして出来たかの様相だ。
「す…素晴らしい!!これが本物の、聖女様の奇跡…!!」
大臣や官僚たちは感嘆の声を上げる。
「今日のところはこれくらいで、よろしかったでしょうか?」
振り返り大臣たちにそう、平然と告げるニナッタだが、実は内心一番困惑しているのはニナッタ当人であった。
××××
「そろそろ、離してもらえると、ありがたいが」
首都メノスに向かってルールーや閣僚を乗せた車列は高速道路に上がり速度を上げた。その車内でルールーはニナッタにほとんど羽交締めのように抱きかかえられている。
「今日改めて思い知らされました。私はまだまだルールー様のことを理解できていないようなので、まずはスキンシップからやり直しが必要なのです(恍惚)。ご懸念は不要です(ぎゅ♡)」
「いや、懸念、する。お前、も何か言って、やっておくれ」
進退極まり向かいのテマイラに助けを求めるルールーであるが、
「残念ですが、そうなったニナッタは私ではなんとも…しばらくお付き合いください」
変わり果てているとはいえ、『終焉の魔女』と人類が恐れた存在によくもまあ。と、呆れるテマイラではある。
「まるで本当のご姉妹でいらっしゃるみたいですね」
との添乗員の発言には、『まあ、どちらが姉で妹かには異論がありそうだが』と思いつつ、実の姉としてはそんなこと言われたことなかったな…と軽い嫉妬も感じなくはない。もう教団での生活ではないのだから、もう少しは姉妹関係を考え直す必要があるか…などと思案してみる。
××××
「〜という経緯を経て我が国は、今後かなりの部分において聖女商会に事案解決の実務と、国家聖女への指導支援の二つを協定として締結するに至りました」
バル大首領が国会議事堂の演壇に立ち、高らかに宣言する。首都に到着して慌ただしく締結した協定ではあったが、表向きは前々から進んでいたていでの発表は教団に対して牽制効果が高いだろう。そもそも、ルレバーンの方が最初からこうありたかった、というくらいに既に協定の素案が用意されていた。余りに都合の良い展開に、何者かが権能で操作したのではという疑問が湧くほどに。
そして当然、世界的ニュースとなった今件は、狙い通りとある方面にも突き刺さる。
近代化の負の部分、公害に正面から対処しようとする国は、実は意外に少数派なんですよね。なかったことにできないが、みなかったことにする。




