18:三年半後・キャラバン隊・東へ。
「着いた、か」
入港合図の汽笛でうたた寝から覚めたルールーは寝台から降りようとしてよろけたついでにニナッタにしなだれかかる。
「?予見、したのか?」
「はい、お声を聞いた時に」
「便利な、ものよな。『掌握』権能だったか」
「声が聞こえないとダメなんですけどね。予知関係の権能とは違って」
「予知、か。ありはするのだ、ろうが、会ったことは、ないな。今までに」
「ルールー様が無いのなら、実在はしないのでしょうね。それよりもまだ、お眠りになられようとしてますね?もう降りる支度をしないといけませんよ?」
ニナッタに抱きついたついでに二度寝を図ろうとしているのも掌握権能が教えてくれる。
「では、降りて宿に、入ったらお前を、抱き枕に、する」
それも本気で言っているようだ。
「はいはい。今夜は起きさせませんよ(にっこり)」
ニナッタは末っ子なので妹が出来たようで嬉しく、だいたいルールーを甘やかしていた。
「それはそれとして、下船に備えて身なりを整えてください。埠頭が歓迎で大変なことになってますので」
いつの間にか客室に入ってきていたテマイラが冷静に告げる。人里慣れしてきた結果、無意識に舌打ちしそうになったが、それはなかったことにしながら無言の笑顔で返答するルールーである。
××××
トストルはルレバーン最大の港湾を抱えて首都メノスよりも人口も多い大都市である。また、バチコウ連合国とは大河を挟んで国境を接する要衝でもあり、大陸鉄道でバチコウ領内を経由するのを嫌った商会は海路で回り込むことを選んだ。そのため余分に日数はかかったのだが。
「ほう」
下船のために上甲板に出てすぐに、その歓迎ぶりは理解できた。埠頭を埋め尽くすような群衆の群れ〜必ずしも聖女二人を目当ての者ばかりでは無いにしても、軍楽隊による歓迎の演奏が既に始まっていたり、国家要人と思しき一段が一等タラップ下に待機していたりと、国賓並みの扱いが見てとれる。
「ここは、少し勿体つけて優雅に降りていくものですよ」
「そういう、ものか。勉強に、なる」
ニナッタに続いてタラップ上にルールーが姿を現した瞬間、埠頭の群衆から「わっ!」と歓声が上がる。おお、と軽くのけぞりそうになるのをなかったことにしながらルールーは手を振りながらタラップを降りていく。
魔族最高格のルールーではあるが、魔族はこれほどに群れることがないし、人前にほとんど出ずに過ごしてきたのでまだまだこういうことに慣れない。
「聖女のお二方に対し奉りィ〜捧げ!銃ッ!!」
ざっ!と儀仗兵が整列で迎える中、迎えの政府閣僚の一団が前に歩み出る。
「この度は他国への訪問の第一に我が国を選んでいただき誠にありがとうございます。この国で首相を務めております、エベルドです」
「土木大臣のロンバルです」
「農政大臣のガロウです」
「祭祀大臣のモモンドです」
「娯楽庁長官のサワダルです」
思いの外、お歴々だ。
「丁寧なお出迎えをいただきまして恐縮いたします。聖女商会所属聖女・ニナッタです」
「聖女商会、所属聖女・ルールーです」
ルールーが自己紹介した瞬間、場が「ほうっ♡」とした雰囲気に包まれる。わかってはいたことだが、ニナッタはすごいことだなあと感心した。一緒に居る時間がそれなりに長くなった自分たちはだいぶ耐性が出来てきた感じはするが、ルールーの言霊の力はおそらく『感化』の権能の最上位に当たるものであり、まして元よりルールーに好感を持っているものが相手ならば影響力は計り知れない。
「普通に天下が取れるんですよね。活用する気なら」
「何が?」
こちらの話です。と、にっこり返すニナッタである。
××××
場所を移し、『迎賓館』という名称のレストランで会食が行われたが、ニナッタら元教団組からの指導でマナーをなんとか取得していたルールーはかろうじてボロを出さずに済んだが、何度かの失敗をなかったことにして凌いだりしているのは先方の誰にもバレてはいない。ニナッタからは「年相応にミスがある方がウケますよ」とは言われていたが、案外見栄っ張りなのだなと自覚させられルールーである。
「それで、ここまでの歓待を得るということは、私たちの滞在中に何かお纏めになりたい成果とでもいうものが、特別におありなのですか?」
その辺の駆け引きに時間を費やすのはそちらにとっても時間の無駄であろうと、暗に仄めかしながらニナッタは尋ねた。どのみち自分には掌握でだいたいのことはわかってしまうのだから、腹芸は意味がない。
「…これはごもっとも。商会の皆様のスケジュールに余裕がおありでないことは承知しているのですが、願わくば一度首都までお越しいただき、国会で正式に恒常的な契約関係に入ることの声明をいただきたいと存じまして」
「現在まだ特段そこまでの交渉ですとか、関係性は築けていないかと思いますが、言ってしまって大丈夫なものなのでしょうか(困惑)?」
そうだ。という首相の意図は掌握が教えてくれているが、ニナッタはあえて探るような返答をする。
「もちろん、それは今から〜首都に着くまでの間に詰めていくことではありますね…一度、奇跡を為して頂くことも含めまして」
「それへの謝礼は、政府予備費から迅速に用意させて頂くつもりでおります」
祭祀大臣だと名乗った人物が補足する。ニナッタの掌握は最少でも十の桁億の事案。と教えてきた。
「それは、ルールーの権能をお見せする機会をいただいたと。理解させていただきますね(にっこり)」
ルールーは食後のコーヒーが冷めるのを待っている。
××××
ルールーたちを乗せた政府閣僚団の車列はトストルから一時間半ほどをかけて、川沿いの山道を走っていた。その距離を聞いて苦行を覚悟していたが、さすが工業立国のルレバーンの高級車である。車内は広く、シートもひょっとしたら教団時代にあてがわれた自動車のものより段違いに居心地が良かったし、添乗したガイドの女性も話し上手で沿道のあれこれを過不足なく説明してくれたりと、聖女たちの満足度は高い。ルールーは大半寝ているが。
そうしてしばらくすると、少しずつ眼前が開けて車列は結構な盆地の平野に差し掛かる。
「なるほど、ここは、なんとか、しないと」
ルールーはそう言って、目を覚ました。
やはり高位聖女は国賓級。




