17:商会主催・聖女(タレント)スカウトキャラバン
「席取りの祭祀、ですか。それはまたー」
州知事からの依頼の一つ、新設道路工事現場の地下水脈付け替えを終えたばかりのニナッタは付き人のトトラから街で配られていたという新聞の号外を手に、困惑した。自分達が抜けたので聖女の席次に動きが出ること自体はわかる。でも随分昔に行われて内外から不評のため永く実施はされてこなかったそれを、このタイミングで仕掛けてくるとは随分とバカの言い分が通りやすくなっているのだなと。まあその原因は枢機卿のすぐ下の五幹部を支えていた実務組の上から何人かを、私たちが商会に引き抜いたからであろうが。
「黙殺してても勝手に恥と不祥事に転がっていくだけだとは思いますが…そうですねぇ」
何かを閃いて、トトラににっこりと微笑みかけるニナッタである。
××××
「これは気分悪いですね!馬鹿にしてますよ。何より、今現在座席にある聖女たちの努力をフイにするなんて、お気の毒です!!」
事務所に戻ると、告知ビラを手にいつになくキレているハァリカの声で出迎えられたニナッタは苦笑する。確かにハァリカは第四席や第七席のお姉様方に可愛がってもらっていたから、おそらく今回の席取りの祭祀で自動的に落席させられるであろう彼女たちのことを思うと、腹は立つだろう。私もそう。私たちの抜けた後の席次をまだ埋めていないことは情報として知っていたが、なぜ素直に繰り上げないのかを推察すれば、掌握の権能が嫌な答えを示してくる。
「聖女の((商品価値))に、編成を全振りするつもりなんですよね。悍ましい」
「えー?やっぱりそういうことなんですぅ?」
「やっぱり人類の価値観はよくわからないな」
魔族二名は普段通りの反応である。まあ、魔族は基本的に百年以上生きてるものが多いし、生植で子孫が出来る訳ではないから、根本的にわかるわけがない。これは雌型・雄型問わずである。その辺は、人類を長年観察して得た知識だけしか持っていないのだ。
「出来れば既に所属している以外の聖女候補をもう、一人たりとも教団入りさせたくないですけどね…事情をわかってても入りたいという人は、止められませんが」
「もっと強硬なことをおっしゃるかと思ってました」
テマイラの反応の鈍さを意外に思ったハァリカは訝しむ。やはり自分が『商材』にされかかっていたことはトラウマに近い感情を残しているのだろう。
「半端に騒いで藪蛇になるのは悪手でしょお?あたしら抜け出した聖女を受け入れた会社なんだしぃ」
「まだまだ腕力に訴える時期じゃないってことですよ。社会的信頼感ってやつの差で」
だからなぜ魔族の方がいちいち理性的なのか。
「なのでここは一つ、搦手で突っついてみたいかなって思うんですよ(にっこり)♪」
突然の提案に一同の目がニナッタに集まる。
「スカウトキャラバンをしましょう!教団の目と鼻の先で」
「スカウトキャラバン?とは?」
会議室に大きな?が落ちてきた。
××××
「なるほど、教団本拠地のあるバチコウの隣国で商会の巡業をね。でもそれって妨害とかくるんじゃ?」
モリンが千切ったパンを注ぎ直されて熱々のシチューを冷まし半分に浸けて口に運ぶ。ジデさんの店から取り寄せたシチューで少し早い夕食をとりながらミーティングは続いていた。聖女一人一人が別個に活動が原則の教団時代には無かった全員で食事しながらという状況が、ニナッタやハァリカには新鮮で楽しい。
ちなみにハァリカはモリン同様パンを汁物に浸す派で、レレとニナッタはパンと汁物は完全に分けて食べる派である。ルールーは重度の猫舌ゆえそれぞれ口に運ぶタイミングを離す派で、今はずっとパンだけ食べている。
「それがですね。仮に前回と同じ段取り踏むのなら、席取りの祭祀してる期間、丸一ヶ月ですが、所属聖女の国外派遣は無いし、スカウト要員も全員バチコウ内で待機っていうことになるんですよ(んぐ)」
汁物内の芋は切らず丸ごとか、大きめのぶつ切りが好きなニナッタは一番大きな塊をスプーンに乗せて返事した後一口に口に運ぶ。当然ながら咀嚼〜飲み込むまでしばらくなんとも言えない間が開いてから、
「何せ所属聖女全員での技能競技みたいなのを…明らかに聖女技能関係ない項目もありますが、期間中本戦と呼ばれるものを三週間続ける上に、有望な入団希望者は教団本部に呼び寄せてその間セレクションを並行して行いますから」
「その間、他所からの依頼とか全部断るわけ?ひと月も」
「厳密には、業務自体は前後ひと月づつ加わって、三ヶ月にわたり色々止まるわね」
元裏方として事情を知るテマイラが補足する。テマイラは芋が苦手なのでその代わり人参が多めで、他に比べて皿が赤く見える。
「それ、他所からの信頼無くしません?」
腐っても秘書上がりのモリンの疑問は当然である。
「無くすんですよ。劇的に。それでかなり昔に二度ほどやってから封印されてきてます」
パンを食べ切ったルールーはようやくシチューをほんの少しスプーンで掬って、熱くないか慎重に確認している。
「開催概要を見た限り、その辺修正してくるかなと思ったらぴっくりするくらい同じままなので、だいたいまた同じことが起きると思います。なのでその間にー」
「隣国で((教団以外にもこんな良い娘が居ますよぉ))ってアピールして回るわけぇ?」
「そういうことです(きっぱり)。その上で商会でも新人募集してますっていう告知を前もって流しておく。何よりこの場合都合が良いのは〜」
「バチコウの隣国・ルレバーンはバチコウと仲悪いのよね。すごく。なるほど教団を裏切った聖女が所属する商会は便宜を図ってもらえるかもしれない。その辺りは私たち事務方で折衝してみるわ」
「お願いします。それでここからは具体的に何を仕掛けていくかですが♪」
ニナッタは日頃以上に悪戯っぽく笑みを浮かべた。
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「こちらとしても、是非お越しいただきたいと思っております。国家聖女たちの刺激にもなりましょうし」
モンゾトルトに出向いたテマイラとニナッタはルレバーンの領事館で手厚くもてなされている。今回のスカウトキャラバンは((あくまで一民間企業の営業活動))ではあっても、ヘタをすると国際問題に拗れかねないので話を通しておこうと思ったが、案外にルレバーン政府の方が乗り気であった。
「残念ながら我が国で抱える聖女たちは数こそ多いものの、平均した能力では教団聖女たちより下回り、本当に重要な事案には苦渋の選択として教団に協力要請をせざるを得ない現実がありまして」
「元教団の座席持ちの聖女様を擁する聖女商会が我が国と縁を結べるということには、大変な意味というか、価値があるものと政府は認識しています」
「当然、私共もこのキャラバンにはニナッタを派遣するつもりでおります」
挨拶にニナッタを連れてきたのは正解だったなと、テマイラは内心ほくそ笑む。
「ええ、それは大変にありがたいことです。それとー」
総領事は一瞬宙に目を泳がせたが、
「ルールー様にもお越しいただけますと、望外の喜びなのでありますが…」
「ルールー聖女を、ですか?」
名指しでの要望に、テマイラに軽い緊張が走る。
「あ!…いえ、決して含みのあるお願いではありませんで」
総領事に困惑が見える。
「ルレバーンの国内で、ルールー聖女の人気が高いんですね?」
掌握がそう教えてくれたので、ニナッタはそうカマをかけてみる。
「はい…正直に申しますと、元々御社から今回のお話がなくとも、我が国の方でルールー様にご来訪お願いを打診しようという動きがありまして」




