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聖女商会 〜魔族の史上最強姉、妹系聖女として人里に降臨す〜  作者: こんブちゃ


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15:救われる者たち

第二幕の締めの回です。

「まさか、聖女を続けることになってしまうとは、夢にも思いませんでした」


 割り当てられた執務室で、ハァリカは独り言のように呟いた。独り言ではあるが、室内にはニーベが、護衛として控えている。


 あの面談の当日を思い返してみる。そもそもハァリカはここへの巡幸の流れでニーベと手に手をとって出奔するつもりでいた。出発直前の、あの侍従詰所で自分に近く訪れるであろう人生の墓場を理解ってしまった時から、人生をニーペ以外と歩んでいく以外の未来が許せなくなってしまったのだ。ニーペも力強く同意してくれたし、仮に逃亡先で生活が成り立たなかったら一緒に死んでしまうのもアリだとすら思った。


 そうして面談の前夜、もし見つかって連れ戻されそうになっても聖女の力を失っていれば捨て置かれるのではないかという計算もあってニーペに身体を許した。なのでニナッタやテマどのから「一緒にここの聖女たちと合流して活動しよう」と提案された時に正直にそのことを告白した。のだが、


「え?聖女の権能に純潔は影響しませんよ?」


 そうニナッタから告げられた瞬間、崩れ落ちた。色々と。


「処女じゃないと十全な権能を発揮出来ないなんていうのは、聖女を金持ちや貴族に払い下げる時に箔をつけたい教団側が作った嘘情報ですね(にっこり)」


 なんということでしょう。そう言われて試しに軽く『障壁』の権能を軽く行使してみたら、いや、むしろ以前よりなんか軽く発動できるようになってるような…


「そもそも、古の大聖女自体が、経験者だったからね。今の私は、まだだけど」


 ご本人から、衝撃の事実を聞かされてしまった。


 そこからあとは、むしろ逆に二人から根掘り葉掘り昨夜のことについて質問攻めにあったのだが、その辺のことはもう思い出したくない。


××××


「その辺の情報はぁ、特に慌てて発表するまでのことでは無いのでは?」


 ある日の所属聖女のミーティングの際、聞かれてレレが答えた。

「その嘘を信じて聖女活動を諦めた人とかに救済みたいな効果はあるかもだけどぉ?ほら、世間にはそういうのに神経質な人も結構いるしぃ。あたしら、案外人気商売みたいなところあるからぁ」


「確かに、もう少し聖女権能に対しての正しい知識を世間に広めてから、の方がいいのかなとは思いますね」


 いや、なんで魔族の二人の方が人類の面倒臭いところへの解像度が高いのか。そうツッコミを入れたい気持ちをなかったことにするルールーがおっとりと緑茶を啜る。それよりも、古の大聖女に関しての意外な事実を唐突に聞かされたことで案外、いや相当動揺を隠せない元・終焉の魔女であった。


××××


 その街は音も無く、既に死に絶えていた。せっかくの満月は血のように赤く、ああ、それで濡れた地面が赤く見えるのか。足元に腕の一部だったものとか、足の一部だったものとか散らばっているが、それが人同士で招いた惨事とは思いたくもない。私は間に合わなかった。全ては私の迷いのせいだ。


 あと少しだけ、動き出すのが早ければ、あと少しだけ非情であったなら、もう少しは明日を迎えられる人たちも居たのだろうに。全ては手遅れだ。


 ーああ、これらも全てなかったことに出来るなら。どんなに心が救われるだろうか。


 ーそれが叶わないから、私は、目の前にいる『あれ』を滅しよう。


××××


「嫌な夢を見ました。子供の頃は毎日。その後も折に触れて。最近は何故か見なくなっていたように思いますが、今さっき、最も長く、『あの晩』に至るまでのことも」


「そうか」

 そう答えてルールーは自分の膝に頭を預けるテマイラの髪を撫でた。夜中になって部屋を訪れたテマイラは普段の凛々しさのかけらもなく、明らかに憔悴していた。テマイラは前に自らを「大聖女の生まれ変わりなどでは無いのでは」と言ったが、ルールーもそれには同意する。悠久の刻を生きてきた自分の見聞を振り返っても、そんな現象に出会ったことはない。大抵は後知恵による勘違いか、詐欺師の手口に過ぎず、それは魔族や聖女の権能で化けの皮が剥がれる程度に安いものである。ただ、ルールーには今件に関してだけは思い当たる節がある。


「あの晩の、な」


「貴女に再び出会えたことで、大聖女の成し遂げたかったことを伝えられたことで、おそらく大聖女の業はもう、それほどの意味を持たないようにも思います。今の私が成し遂げたいことは今の私が願っていることでなくては、耐えきれない」


「それは、そう」


「一つだけお願いを。私の中の大聖女を、なかったことにしていただけませんか」


「今すぐに、か」


「今すぐにでも、すぐにでなくても、貴女が頃合いだと思った刹那に」


「承知した。おそらくそれは確かに私の役目なのだろう」


「感謝します。その時が来るのが確実になっただけで、私はまだ頑張れる」


 そう言って寝落ちたテマイラの姿は、あの晩の大聖女と寸分たがわぬように見えた。


「その時は終焉の魔女としておまえに逢おう」

第三幕からは週一回更新ペースになると思います。続けて行きますのでよろしくお願いします。

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