11:教団聖女巡幸団
久々にルールーたちも出るよ。
「ようやく、ノバーンに入れました」
大陸鉄道のモンゾトルト中央駅に着いたばかりの車内でニナッタは大きく一つ伸びをした。教団所有の聖女巡幸用の特別仕様列車はディーゼルの牽引車に通常客車一等一両と二等三両に寝台車三両と展望車を基本編成として、人員の増加によって接続車両を増やしていく方式である。普通ならば野良聖女の勧誘如き用途に投入される列車ではないのだが、今回はテマイラの要望のゴリ押しで使用許可が降りた。ニナッタは一度乗車したことがあるが、ハァリカは初めてである。道中あまりに物珍しくて窓の大きな展望車に入り浸っていたハァリカだったが、終点が近づいたときテマイラから「窓は全部ブラインドを下ろすから、一等車の方に戻りなさい」と言われて「?」となりながら素直に従った。
到着して客車から降りると、ホームはすごい数の人の山で、鉄道警察がロープを張って押し寄せをブロックしている。群衆は口々にニナッタやハァリカの名前を叫んでいたり、なにやら似顔絵らしきものや激励などが書かれたボードなどをかざしていたりとカオス極まっていて、
「なるほど、窓を閉めていないと思わぬ油断ぶりなどを見られかねませんでした」
「でしょう?」
などと語り合う次第である。
テマイラのトルト入りに当たっての作戦はまさにこういうことで、「あくまで我々はフィリアド聖女会の遠い外国への親睦イベントとして、人気の高い第三席と第八席の聖女を派遣した。この流れで教団としてもゆかりの深い史跡であるトルトに入り慰霊などしつつ、その余力で現地スカウトなどもして帰ります」と。
××××
「なるほど考えましたねぇ」
ラジオの実況中継を聞きながらレレが腕を組み仁王立ちしている。背後のテーブルの上には{アイドル聖女来たる!}などの見出しが踊った新聞紙が複数あって、一面には大きく第三席と第八席の聖女の広報写真が貼り付けてあったりする。
「あっちからの面談の要請とか、ずっと完全に無視してきてますからね。((偶然立ち寄った))ていで押しかけても違和感持たれないし、新聞やラジオを引き連れられてちゃこちらが門前払いもしづらい形を作られた。と」
モリンもモップの柄の先に顎を乗せながら怠そうに相槌を打つ。
「それよりもー」
と、モリンはルールーの方を向いて訴える。
「さすがに運転資金的に、厳しくなって来てるんですよね」
近頃も事務所に依頼は殺到し続けているがキャパオーバーは深刻で、事実上ほとんどの依頼は断ってしまっていた。唯一常時開いている取引先はノバーン州直接の依頼だけだが、そっちはなにやら州知事が我々に気を遣っていて仕事をほとんど振ってこないでいる。
「ウチら、事務能力に長けた人材とか補充しないと、早晩破滅しますよ」
「それは、私も、懸念している」
ルールーの手にした湯呑み茶碗の注がれたお茶も、実は日々色が薄くなっていた。まともな人間社会生活を送ったことがある者が皆無な集まりの末路など、こんなものである。
「根本的な、見直しが、必要」
××××
「教団では、いつでもどなたでも、才能と希望に溢れた方を受け入れる準備があります♪」
「聖女という可能性に興味のある貴女!私たちと共に歩んでみませんか?」
「はい!ありがとうございます!聖女のお二方。いい絵が撮れました!」
州都モンゾトルトに着いた直後から聖女一行は多忙を極めていた。まずは近年街頭に広まりつつあるテレビジョンと呼ばれる映像装置に向けた宣伝動画の撮影と、映画館で流す動画の撮影。次いで新聞や雑誌の取材は全てフィリアド聖女会での聖女活動の充実ぶりや、新規聖女候補のスカウトの仕組みを改めて現役聖女自らが語るスタイルで、公開収録では会場から溢れた群衆が公会堂の周りを七周半するなどパニックも発生していく。余りの混乱に警備の責任者が拡声器で
「あなたたちは、ゾレントの国民としてこのような醜態をよしとするのか!もう会場には入れないのだから速やかに解散して、有意義な一日を過ごしていただきたい!」
などと諌める事態にも陥っていた。
「そうなるように仕向けているのだから、解消されても困ります。まだまだ盛り上げて、逃げ道を無くさせないと」
そうスタッフを唆しているテマイラを偶然見てしまったハァリカは震えが止まらない。冷静に考えて本国・バチコウ連合の各国での活動でもここまでの熱狂とかそういうのは無かったし、明らかにこれは聖女というよりは芸能人のイベント風景ではないか?そうして湧いた疑問をニナッタに振ってみたのだが、
「姉様が楽しそうで何より(にっこり)」
という何か焦点のズレた返答をされてしまった。よく考えてみれば、この姉妹は何か少し、いやかなり変な感性をしているのではなかろうかと改めて思ったりした。
××××
「近づいて来てますね、じわじわと」
新聞は相変わらず連日教団聖女の動向を一面で扱い続けている。トルト地区には街頭テレビなるものはまだ存在しないので写真でしか様子がわからないが、御一行だけでなく多数の取材など取り巻きも引き連れて移動して来ているらしいことは、素性を隠したい自分達にとってかなり厳しい攻防になるのを予想出来た。
残念ながら魔族にその辺りを予測補助できる能力が備わりにくいというのもあり、どうにかならないか一度魔郷に戻って手配してみるかをモリンは本気で考え始めたりしている。
「時間的にぃ、間に合わないでしょ」
レレのツッコミで却下されたのだが。
××××
「うわぁ」
「これは…」
聖女一行はトルトの農場エリアに足を踏み入れ、豊かに実った麦畑や葉物野菜のみずみずしい様子を実見し、圧倒されていた。人魔衝突以前のトルト及びノバーン州全域は本来このような穀倉地帯であり、それが完全に蘇っていたのである。
「教団の見立て自体が、間違っていたのでしょうか?」
ハァリカの疑問は当然であるが、これまで教団がその時代ごとの最高位の聖女を、場合によっては複数派遣して土鎮めを行なって来たことは事実として残っている。
「やはり、超絶な聖女が現れたと考える方が自然。なのでしょう」
ニナッタの掌握権能がそう理解を促してくる。周りの教団スタッフたちは「これほどの聖女様を引き入れられたら教団は安泰」などを口々に囁いている。
「そう。引き入れた方が勝ちになる」
その声のした方に振り向いたニナッタの目には、見たことのない満面の笑顔に涙を流す実の姉の姿が映った。それは見て良いものだったのか、いけないものだったのか、なぜか掌握権能は教えてくれない。
7回り半事件。あと、この世界はいわゆる(近代)的な文明水準。




