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聖女商会 〜魔族の史上最強姉、妹系聖女として人里に降臨す〜  作者: こんブちゃ


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9:聖女誑し(せいじょたらし)

「充分以上の、お働きでしたよ。リカさん」


「えっ…へへ、そうですかね。でも今回自信ありました…ちょっと。…そこそこ」

 そう答えたのはフィリアド聖女会第八席・聖女ハァリカ。座席番号あり聖女の中では最下位だが、教団加入から二年でこれはかなりの速度で出世している。また、天性の人当たりの良さや心持ちふくよかな体型におっとりした性格から、癒し系アイドルとしての人気(引き合い)も上がって来ていて前途が嘱望されている。


 そんな彼女に労いの言葉をかけたのは教団の聖女統括用人のアンザリ テマイラ。今年でまだ二十四歳ながら、在野の聖女候補を見出すことに長け、また色々な問題を起こしがちな聖女同士の調整役として絶大な信頼を教団の内外で得ている才媛である。さらに言えば、聖女として教団に入ることに拒否の意志を示している者に対してもテマイラが出向き交渉すると一夜にして翻意し、所属に同意するなどの成果が上がる、教団からしたら『金の卵を産むもの』としての価値が途轍もない。だがそれを素直に認めたがらない教団幹部の一部が、彼女のことを裏で『聖女誑し』と呼び蔑んでいた。


「それでも、今回も新しい聖女のスカウトの方は不調でした。私ももう少し、テマどののお力になれたらよかったんですが」


「それはあなたが気に病むことではありません。本来聖女とは誰でもなれるものであり、誰もがなれないというだけのこと」

「または、『まだなるべきでは無かったもの』と『既になっていなければならなかった筈のもの』であったりするもの」

「いずれが違っても、その人にとっては不幸であり、幸福になりえるのです」


「はぇぇ…」

 テマイラの言うことは時々、いや結構わかるような、わからないような、理解のスレスレをついてくることがほとんどなので、ハァリカは雰囲気で飲み込むことにしている。でも不思議とそれで問題ないとも思えるので、ハァリカはテマイラと話すのが好きだった。いや、その声を聞くのが好きなのか。


 二人を乗せた自動車は前後を多少、いやかなり厳つい外観の装甲を施した自動車に挟まれ、山道を抜けようとしている。普段から聖女の護衛は過剰になるきらいはあったが、最近ではその傾向に歯止めが止まらなくなってきている。原因は一部国家による聖女の大量徴発で、国ないし宗教その他の団体に属し、存在が公表された聖女以外は、酷い言い方をすると(攫っても問題ない)状況があって、それ故にスカウト業務に国家を跨いで各地を飛び回るテマイラなどは新規聖女候補を帯同していることがありうるから、強奪に備えた警護が必要。というわけである。


(((まあ、必要ないですけどね)))

 強めの目尻の印象を和らげるための伊達メガネの縁を撫でながら、誰へというでもない回答を頭に浮かべたばかりのタイミングで、それらは現れた。


××××


「本っっ当に、すごかったんですよぉ!!」


 満面の笑みで周りの侍女女官たちに触れ回るハァリカ。聞かされる彼女らもむしろ前のめりだ。

「こぉんな大っきい戦車みたいなのにいきなり道を塞がれて、中から黒ずくめの大男たちが何人も降りてきて、「未登録の聖女候補は居ません」って言ってるのにみんな連れていかれそうになった時にぃ、一瞬の隙をついてテマイラどのが大男から銃を奪ってそれで殴る蹴る!」


「それはもう踊りのように他の大男たちの間をすり抜けながらどんどん倒していって〜」


「その後は私が、こう、大っきい戦車みたいなのを崖上に放り投げておしまい」

 身振り手振りを交えてのハァリカの熱弁が終わると、


「やはりなんと言っても、テマイラどのの素晴らしさですよぉ♪」

「ですわねぇ」と同意する侍女女官たち。全く、本部に戻って来てからのハァリカはあちこちで帰路での武勇伝を触れ回ることに忙しい。


 そんな一同の前に、

「全く、姦(かしま)しくていらっしゃること。わたくし、この先に用があるので通り抜けたいのだけど、よろしい?」


「はっ…!?これは次席様!!」

「し、失礼いたしました!!」

 侍女女官たちは慌てて廊下の端に寄り整列した。気付くのが遅れたハァリカだけが真ん中に取り残される。


「貴女も、折角八席におなりなのだから、もう少し品というものなど、御身に躾けあそばしたら?」


「…痛み入ります…」

 恐縮して道を譲ったハァリカの横を、わざと袖や裾をぶつけながら通り過ぎていく(次席)と呼ばれた少女はフィリアド聖女会次席聖女・ナミーァ。この場合の(次席)とは(二番目)を意味し、第一席を欠番としている教団としては第二席を実質の一位としている関係上、実質の二番目として次席という階級を用意して、帳尻を合わせている。


 ナミーァはバチコウ連合国の構成国家の一つ、サブイボン王国の公爵家の出身で、他家との婚姻嫌さに自ら教団のセレクションを受けてみたところ聖女の資質『看破』『克己』を発現し、その後土鎮めに弱点がありながらも順調に成果を重ねてナンバー2まで上り詰めた天才肌の聖女である。天才である上に看破の権能を持つが故に努力工夫にあくせくしている大半の聖女を見下す傾向があり、当然第二席のキノマレンに対しても「つまらない女」としか思っていないし、何故自分が次席止まりなのかに納得がいかないでいる。

 かといって、それらを追い落とすとかいうのも品がないので興味ないのであるが。


××××


「これは枢機卿。このようなところにお直々のお運びとは恐れ入ります。いかがなさいましたので?」


 事前通達無しで総務局にやってきた教団最高幹部にとりあえず慇懃に対処するテマイラに対して、


「ふん、お前に用がなければこんなところに来るはずもなかろうよ」


「なるほどこれはしたり。では奥にどうぞ」


 居合わせた局員たちも流石に眉を顰める程の大人気ない物言いにもテマイラは一切隙を見せず、執務室奥の遮音処理がしてある談話室に誘導する。もっとも彼女的には「聖女の奇跡に寄生しているくせに男社会である教団」組織の中で、事務方とはいえ他の五幹部に匹敵する地位を女で初めて獲得しているし、局内での人望人脈を築き終えているので、今更枢機卿がどうという立場でもないし、むしろ局員たちの不利益になりそうな態度をとるわけもなかった。


「なるほど、トルトに現れた旅の聖女見習いのスカウトですか。それは私でなければならないことで?私は昨日北辺から戻って参りましたばかりですが」


「ああ。甚だ遺憾ながらな。現地の支部がまるで仕事を出来てない以上本部が動くしかないと判断した」


「それほどの逸材が現れましたので?相手は野良で、子供たちなのでしょう?」


「もどかしいな。つまりお前はもうそこまで情報を集めているのだろうによ」


 親子程も歳の離れた事務方トップのはぐらかすような応答に枢機卿は少し、いやかなり苛つく。教団入りした頃から知っているが、そういえば小娘時分からこういう物言いをする女であった。全く、この者の((聖女に異様に好かれる))という要素が無ければ理由を付けて放逐してくれるものを、いや、聖女スカウトのみに役職を限定してこき使ってやろうとしての無理難題も何故かすり抜けて今の地位にあり続けるこの女に少し気味の悪さも覚える。それ故、総会頭御前での幹部会にも((過去にも女性で参加した者は居ない。女性で総会頭に報告も意見も直接行なった者は居ない))というものを盾に招いたことはない。


「あのトルトの呪いが、汚染が解消されたのが事実か、否か。それ自体にはとても興味がありますね」


「まあ眉唾だ。もし本当に古の大聖女級の聖女が現れたというなら、この世界から魔族の根絶すら可能になろうが、な」


「…もし噂が本当ならば、教団からの誘いにこれまで関心を示してないなら、相応の陣容で出向きたいと存じますが、それは一任いただけますので?」


「…………任せる」


 たっぷりと間を取って、不承不承であることを示してやるが、目の前の女は意に介さず、


「謹んでお役目拝命いたしました」


 満面の笑顔で席を立ち枢機卿の退出に備える。話が纏まった以上一秒でも事務方の部屋になど居たくない枢機卿はそそくさと扉の方に向かうが、


「それとな、第二席が大層寂しがっておるようだ。たまには可愛がってやれ。あれはお前が連れてきたのだからな」


「はい」


「…全く、女同士だからといって、限度というものは弁えて動けよな」


「心得ておりますが…ご心配いただくようなことは何も」


「ふん。邪魔をした」


 下衆な推測からの揶揄を笑顔でいなされて男の苛立ちは上がる一方だったが、何か言いそうになったタイミングで扉を開かれてしまい、何も言えずに局から退散することになってしまった。廊下から姿が消えるまで見送っていたテマイラは伊達メガネに指を添えながら薄笑いを浮かべ、


「お前が何を言いたいかくらいは、わかっているよ。昔からね」


 部屋に戻ると心配顔の局員たちに緊急で遠征が決まった話を切り出した。


××××


「もぉ、最悪ぅ」


 卓上のお菓子を取る手が止まらない。先ほどの廊下での出来事の件を誰かに吐き出したかったハァリカは、気安く接してくれる同僚の部屋を訪ねていた。


「次席様は気難しくていらっしゃるから、それは運が悪かったということで、ね」


 そう宥めるのはフィリアド聖女会第三席聖女・ニナッタ。ハァリカとは一歳年下の15歳だが教団入りは八年も早く、ハァリカの入団時は既に第五席に到達していて、入団後に勝手がわからず困惑していたハァリカに色々と指導してくれた先輩格でもあった。


 ちなみに現在第二席が18歳・次席が19歳・第三席が15歳に第八席が16歳と、ここだけ見れば聖女は子供年齢でないと務まらないのか?と疑問を持たれるかもしれないが、第四席は29歳だし第七席は26歳・前第八席は34歳と、必ずしもというわけでもなく、ここ二年ほどが特段に低年齢化しているだけである。

 ただ、全体としては低年齢化しやすい事情は確かにあって、それは機会があればまた記すこととしたい。


「それよりもリカ様、私にも姉様の武勇伝をお聞かせ願えるかしら?私も最近はあまり姉様にお会いできてなくて」

「喜んで!」

 話の向きを変えようと誘導しようとしたところでー


「ニナ、ちょっといいかしら…て、リカさんもいらっしゃったの?ならば都合がいいわね」


「姉様?」

「テマどの!」


 ノックもそこそこに部屋に入って来たテマイラは、手に束ねた書類を携えていた。

ようやく、はじめに で語っていた聖女が台詞ありで登場。

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