極彩色の群れ
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それから三十分後、二度目の遭遇が訪れた。
前方の道には、狼に似た極彩色の生物が三匹うろついていた。アメイは素早く千里の腕を掴み、猛然と傍らの茂みへ引きずり込むと、ニヤリと口角を上げた。
「あっぶな……でもラッキーね。こっちが先に気付けて」
千里は茂みから頭を半分だけ出し、陽光の下で目が眩むほど派手な獣たちを、眉をひそめて観察した。
「なんだあれ? カラフルな狼? いくらなんでも毛色がイカれすぎだろ」
アメイは真剣な顔つきになる。
「あれは幻彩狼。狩りのやり方は、体を激しく震わせて、幻覚作用のある色のついた粉塵を大量にばら撒くの。
一口でも吸い込んだら最後、どう死んだかも分からなくなるわよ。
幸い、今は完全にこっちが先手を取ってる。遠距離から始末できる」
「俺たち?」千里は手元の軍刀へ視線を落とした。
「俺の遠距離手段なんて、この刀をブン投げることだけだぜ……
アメイ、まさか脚に縛り付けてるその玩具みたいな小型弩を使う気か?
そんな爪楊枝の射出機から飛んでくるモン、ダメージってよりただ撫でるだけじゃねえのか?」
アメイは鼻で笑い、彼を軽蔑するように一瞥した。
「視野の狭いヤツね。今日という今日は拝ませてあげるわよ」そう言って、彼女はその小型の弩を構えた。
千里が顔を近づけて見ると、なんとその弩の矢尻は尖っておらず、丸みを帯びた鈍頭になっていた。
「おい待て、お前ボケてんのか? その矢尻、ペロペロキャンディーみたいに真ん丸じゃねえか。
そんなの撃ち出したところで、ただ石ころを投げるのと何が違うんだよ!」
アメイは何も答えず、そのまま引き金を引いた。
放たれた矢が空気を裂いて飛翔し、狼にぶつかった途端、凄まじい轟音と共に小規模な爆発を起こした!直撃を受けた幻彩狼は一瞬にして血肉を撒き散らして吹き飛んだ。
だが、その爆風のせいで幻彩狼の体表にあった粉塵までが空中に巻き上げられてしまった。
粉塵がアメイたちの側へ流れてくることはなかったが、前方の道はすでに濃密な極彩色の霧の海に包まれ、残りの狼の動向が完全に視認できなくなってしまった。
「おいマジか、あの棒の先っぽに詰まってたのは砂糖じゃなくて火薬だったのか!
でもこれじゃ、カラフルな霧ばっかりで、奴らがどっちに逃げたかちっとも分からねえぞ」
「予想外だったわね……」アメイは顔に冷や汗をにじませ、霧の向こうを指差した。
「で、でも平気よ!あんな爆発を見たら、残りの奴らもビビって一目散に逃げたに決まってる!
つまり奴らは道からいなくなったってこと! 僕らの任務は道の脅威を排除することなんだから、これで文句なしの任務完了よ!」
しかしそれに続いたのは、茂みの陰に紛れて二人の隠れ場所へと猛然と迫り来る、狂暴な足音だった。
千里は目を細め、耳元に手を添えた。
「……なぁ、さっきの爆発で俺の耳がぶっ壊れてないんだったら、
これはどう聞いても逃げ出す音には聞こえねえぞ……まるで突撃ラッパじゃねえか!」
アメイはピクッと目尻を痙攣させ、ゴクリと唾を飲み込むと、短剣を抜き、逆手に握りしめた。
「聞こえてるわよ! クソッ、迎撃態勢!」
千里はため息をつき、軍刀を体の前に構えた。
枝葉が折れる乾いた音と共に、二匹の幻彩狼が茂みを突き破って直進してきた。
千里は軍刀を構え、力技で飛びつきを迎え撃つ準備を終えていた。
ところが思いがけないことに、二匹の狼は彼のすぐ横をすり抜け、千里のガードを完全にスルーしたのだ!
奴らは二筋のカラフルな旋風となり、二人の周りを猛スピードで走り回る。
狼たちの動きに伴って、大量の粉塵が渦となって二人を包み込んでいく。
――このまま俺たちをむせ殺す意図か? 小賢しい真似を、やらせてたまるか!
千里は息を止め、目の前をかすめた一匹に向けて渾身の刀を横一文字に振り抜く!鋭い刃が風を切って通り過ぎる。
しかし、刀はただの霧の塊を斬ったように、狼の胴体をそのまま通り抜けてしまった。
――外した? いや違う! もう幻覚を見せられてるのか!? なぜだ!?
眼前の景色が、水面のように揺らぎ、ねじ曲がっていく。
驚愕する千里が周囲をぐるりと見渡せば、なんと七、八匹もの狼が縦横無尽に駆け回っており、隣にいるはずのアメイまで三人になっていた。
彼女は焦った様子でこちらに向かって何かを叫んでいる。だが、意味のある言葉は一つも聞き取れない。
――ヤバいぞ……幻覚症状だ! 毒消ししないと!
思考がブレたその刹那、太ももに激痛が走った。本物の牙が、ついに千里の肉を深く抉ったのだ。
「痛ッ、痛えッ!」
――この痛みだけは紛れもない現実だ!
千里は痛みの発生源へ向けて、刀を突き刺した。
だが、刃が血肉に突き刺さった途端、目の前にいたはずの狼がアメイの姿にすり替わった。
彼女は自分の体に深々と突き刺さった刀を絶望的な目で見下ろし、そこからは血が止めどなく溢れ出している!
「アメイ……?」
――俺はなんてことを!?
血だまりの中に倒れ、こちらを見つめるアメイ。千里は思わず手を伸ばした。
しかし、指先がその体に触れた瞬間、何の手応えもなくすり抜けてしまう。
――違う! これは幻だ!
その直後、アメイの幻影もまた、極彩色の煙となって散っていった。
――だが、太ももの激痛は現実だ。先ほどの刀が血肉を裂いた確かな感触も現実のもの。
――俺はアメイを刺したんじゃない、あの幻彩狼を確実に刺したんだ!
――だがあの狡賢い獣は、刃を受けた瞬間に牙を離し、幻覚のフェイントを利用して再び霧の中へと姿を消したのだ。
――すぐにこの状態から抜け出さないと!
千里は首をすくめながら、左手でアメイから貰った解毒剤を取り出し、自分の首筋に突き刺した。
薬液を押し込むにつれて、周囲に立ち込めていた極彩色の霧が急速に消え去り、再び陽光が差し込んできた。
――どうして霧が消えた?……それに、なんだかやけに目が痒いぞ。
視界がはっきりすると、少し離れた場所で、あの幻彩狼二匹が尻尾を巻き、情けない声を上げながら森の奥深くへ逃げ去っていく姿があった。
――妙だな……どういうことだ、もう逃げるのか? さっきまでの威勢はどうしたってんだよ。
ちょうどその時、背後から聞き慣れた声がした。
「いつまで息を止めているつもり?」アメイがいつの間にか千里の後ろに立っていた。
「もういいわよ、安全は確保したから。ほら、さっさと深呼吸でもしなさい」
「なんかおかしいぞ……」千里が言葉を返そうと振り返ったが、後ろには何も存在しなかった。
「アメイ……?」
突如、背中に強烈な体当たりを食らい、千里はその衝撃で泥だらけの地面に押し倒された。
――なっ!?
地面に倒れ込んだ千里は、とっさに左手を伸ばしてうなじを庇った。
その直後、鋭い牙が彼の左腕に深く食い込む。骨が砕ける音と共に、千里の左腕は一瞬にして噛みちぎられ、鮮血が止めどなく溢れ出した。
――ハメられた……解毒剤なんて全くの無意味、まだ幻覚を見せられている。
――さっきの光景も逃げ去った姿も、全部俺を油断させるための罠だった!
辺りを照らしていた太陽の光が剥がれ落ち、視界は元のカラフルな霧が渦巻く死地へと逆戻りした。
――なんて悍ましいんだ……




