↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不気味な転生  作者: ハイイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

隅っこの同類

隅に退き、空いた席にどっかりと座り込む。海辺千里の顔から作り笑いが、消え失せていった。


――はぁ、恨みっこなしだな。俺みたいな素性不明の奴なんざ、命を預け合う協力前提の仕事じゃ、いつ暴発するか分かったもんじゃない不発弾だ。


「……だよな」千里は低く呟いた。


「俺だって、いつ『ドカン』と逝くか分からない奴なんか連れて行きたくないしな」


テーブルを見つめてぼんやりしながら、真剣に考え込み始めた。


――チッ、まさか本当にあのしがない兵士の道に進むしかないのか?俺たち海辺家は二十隻以上の武装船を擁する海賊勢力だぞ。


恍惚とした意識の中で、千里は波が船体を叩きつける轟音を思い出していた。あの船の上で、舳先に片足を乗せ、潮風に髪を乱されるがままにしていた己の姿を。


――俺たちの掟は自由! 大海原で風に向かって立ち小便をするような豪快さだ!この海辺千里に命令を聞けってか? 俺のプライドはどうなる!


ちょうどその時、石鍋シチューを運ぶ店員が傍らを通り過ぎ、肉の香ばしい匂いが混じった熱風が漂ってきた。


千里は思わず生唾を飲み込み、すっかり軽くなった自分の懐を探って、みるみる顔を曇らせた。


――……いや、プライドで飯が食えるか?


――他人の金を使って化け物の縄張りを荒らす……これってむしろ、より高度な海賊行為じゃねぇか? 親父も知ったら泣いて喜ぶに決まってる!


――うーん……でも、今からロベルトの所に戻って、「やっぱり兵士になります」なんて言ったら、あいつ笑ってくるだろうか……?


その時になってようやく、海辺千里は気がついた。この隅っこの席の向かいに、もう一人座っている奴がいることに。


例の女だ。マントのフードをスッポリと深く被り、そこから深緑色の髪がはみ出している。


彼女の前には何もなかった。水もなければ食べ物もない。千里と全く同じように、虚ろな目でテーブルを凝視していた。


千里は目を細めた。


――なんだ、またあの緑頭か。確かアメイとかいう名前だったか? まさか、地面で拾った金片をもう使い果たしたんじゃ……?


アメイはついに視線に気づき、猛然と千里を睨み返してきた。


「何見てんの? 埋もれた天才を見るのは初めて?」


千里はポカンとした後、思わず声に出して笑ってしまった。


「いや、よく見てるぜ」千里は自分を指差した。


「毎日、鏡を見るたびにな」


「ハッ!」アメイは声を上げて笑い、被っていたフードを後ろに下ろした。


「あんた? あんた結構ウケるわね。でも、僕を断ったあいつらはもっと度し難いバカよ。人を見る目が欠片もないんだから」


「ああ、分かるぜ」千里は頷いた。


「俺もさっき断られたばかりだからな」


それを聞いたアメイの瞳がパッと明るくなったが、すぐに尊大な態度を取り繕った。彼女は「ふふん」と余裕ぶり、椅子の背もたれにふんぞり返る。


「運が良かったわね。ちょうど隊員が一人足りなかったところよ」


「それで?」千里は耳に手を当て、大げさに耳を傾ける素振りを見せた。


「だから、特・別・に」アメイは一言一言に力を込めた。


「僕の隊に入れてあげるって言ってるの。ただし、指揮に従うこと、勝手な真似はしないこと。それと……」


アメイは言葉を区切り、千里を値踏みするように眺めた。


「もし依頼をしくじったら、それは当然アンタの連帯責任だからね。僕と一緒に依頼人に土下座して謝りなさいよ!」


海辺千里はその掟を聞いて眉を吊り上げ、反射的に嘲笑を漏らした。


「指揮に従う?」


千里は背もたれにふんぞり返り、偉そうに脚を組む。


「悪いな、俺はガキの頃から人に指図する側に慣れてるんだ。同じ立場で雑用係は御免だぜ。隊長は俺がやる」


アメイはあからさまに苛立ちを見せた。


「はぁ? 自惚れ狂い! あんたが昔何様だったか知ったこっちゃないわよ。


新人の分際で、何も知らんのに、来たばかりで隊長になれると思うな!」


「なら、お前は詳しいのか?」千里は眉を上げる。


「そんなに詳しいなら、どうして一人寂しく座ってんだよ?」


アメイは一瞬言葉に詰まり、すぐに鼻を鳴らした。


「ふん! 状況をわかってないわね。あれはあいつらが、僕の優秀さを理解できなかっただけなんだから!」


千里は笑った。


「奇遇だな、俺もだ」


数秒見つめ合い、誰も譲らない。


最後にアメイが視線を外し、舌打ちした。


「もういい、隊長の件は一旦おあずけね」


彼女は煩わしそうに手を振った。


「行くわよ」アメイは背を向け、依頼の壁へ向かって歩き出す。


「ぐずぐずすると、美味しい依頼は奪われるわよ」


アメイの足早な背中は、一度も振り向かない。千里がついて来ることを端から疑っていないのだ。


千里はそんな彼女を見つめ、軽く肩をすくめて後を追った。


▽▽▽


【依頼:道中の脅威の排除、および巣の確認。】


千里は眉をひそめる。


「新参にはちょっと危険すぎる?」


「もちろん」アメイは紙を折りたたんで懐に収める。顔を少し横に傾け、悪意に満ちた笑みをこぼした。


「怖いなら、今のうちにアメイ隊長と呼ぶことね。僕が副手扱いしてあげなくもないわよ」


千里はくるりときびすを返し、立ち去ろうとした。


「ふっ、考えとくぜ……アメイ副手」


二人は前後に並び、賞金と獣肉の宿の扉を抜けた。


「あー……ところで、アメイ副手。毒消しは持ってるよな?」


「はぁ?」


▽▽▽


二人が道を進んでいくと、奥から吹きつける風が茂みを揺らし、葉の擦れ合う音が微かに響く。


アメイの歩みとともにマントが揺れる。その隙間から、脚に縛り付けた小型の弩と腰の短剣が時折覗いている。


「依頼の件、頭に入ってるわね?」前を向いたまま、アメイが声をかける。


「ああ、覚えてるぜ」千里は腰の刀に手を添えた。


「要するに、道端をうろついてる生物をぶっ殺すか追い払う。


巣を見つけたら場所を報告する。で、何もなけりゃさっさと帰って、ついでに金をもらう。だろ?」


「見事なまとめね」とアメイが頷く。


「少なくとも、人間の言葉は理解できるみたいで安心したわよ」


「まるで散歩だな」千里は片手で刀に触れながら笑った。


「そう言われると、全然危なそうに聞こえないぜ」


「黙れっ!」アメイが振り返り、千里をきつく睨みつける。


「急になんのつもりよ、なんでそんな不吉なこと言うのよ! こっちはもう、そういう言葉を聞きたくないほど不運が続いてるわよ」


「お前こそ急にどうしたよ?」千里は笑いながら、自分の胸を叩いてみせた。


「不運自慢なら負けねえよ。俺という不運男が隣にいりゃ、お前のちょっとした不運なんて可愛いもんだぜ」


「フッ……」とアメイが振り返った、まさにその直後。


側面の樹冠から太い木質の触手がすさまじい速度で弾け飛び、瞬時に彼女の首を絡め取った!


「どうなってんだ!? 畜生、上からか!」千里が軍刀をわずかに抜いた時には、すでに遅かった。


アメイの顔が苦痛に歪み、目から涙が溢れ出す。


腰の短剣に指が触れただけで、抜く暇すら与えられない。触手の爆発的な力が、彼女の身体を猛烈な勢いで上空へ引きずり上げていく!


千里は地面を蹴り上げ、高所の触手めがけて渾身の力で軍刀を振り上げた!


だが、引き戻される触手は予想を絶する速度で動きを修正し、斬撃がアメイの首ごと真っ二つにするよう、わざと彼女の体を刃の前にずらした。


――速えッ! 無理に斬りに行けば、間違いなくアメイの首を先に裂いちまう!


全身から冷や汗がどっと吹き出す。


千里は刃が彼女の肌に触れる寸前、歯を食いしばって斬撃を急停止させた。


その反動をもろに受け、着地した千里は体勢を崩して無様に地面へ転がった。


激しい葉擦れの音とともに、彼女の身体は漆黒の樹冠の奥深くへと一気に引きずり込まれていった。


幾重にも茂る葉が暴れるように揺れ、その奥から、アメイの息が詰まるような悲鳴が漏れ聞こえる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。