恐怖を刻まれた地下生物
千里はまた何度か血を咳き込み、ようやく言葉を発した。
「死ぬ時ってのは、ずいぶんと長く感じるもんだな……地竜の動きが止まったなんて幻覚を見ちまうくらいにはな」
「違う……本当に止まってるみたいよ」アメイは顔を上げた。
地竜はその巨大な体を地べたに押し付けるように低くしている。
「これ……土に潜るつもりなの?!」アメイは呆然と叫んだ。
直後、地竜は凄まじい音を立てて地面をぶち破り、地底へと頭を突っ込んだ。
岩の破片と土が吹き飛び、まるで渦のような陥没穴が形成される。奴はもう周囲に構う余裕もないのか、荒々しく地中へと逃げ込んでいく。
「地中へ……? あいつ、ここへ来て逃げるのか?」千里は困惑して地竜を見つめた。
二人が状況を呑み込めずにいると、突然、遠方から爆音が轟いた!
流星のごとき光の筋が、鋭く空気を引き裂く音を引き連れて猛スピードで飛来する。
ドゴォォン!!
光の筋は、まだ完全に潜りきっていなかった地竜の胴体を貫いた。
千里が目を凝らすと、それは赤熱した鉄の矢だった。
矢は地竜の体の半分以上まで深く突き刺さり、矢羽の部分がまだ激しく振動している。傷口から噴き出す血が、夕日に照らされて赤黒く光っていた。
「ゲホッ、あれは……あの流星の正体は、赤く焼け焦げた鉄の矢だったってのか?」
アメイは口をポカンと開けたまま、地竜からドクドクと流れる血を凝視していた。
「嘘でしょ……こんなの、金属が肉に刺さる音じゃない。まるで雷が直接肉体で爆発したみたいな音よ」
地竜は短く低く吼え、ビクッと体を痙攣させる。まるで背後の恐ろしい何かに追い立てられるように、強引に体を捻って潜り続けた。
めくれた土が穴を埋め戻し、最終的に地竜は鉄の矢と共に地表から完全に姿を消した。
そして、すべてが静まり返った。
アメイと千里は顔を見合わせ、同時に鉄の矢が飛んできた方向へと首を向けた。
森の暗がりから馬に乗った三つの姿を現し、猛然とこちらへ駆け寄ってくる。
先頭を走るのはロベルトだった。彼の腰にはメイスが斜めに掛けられている。
そしてロベルトの背後には、もう一人が同乗していた。あの触角の女だ。完全武装の兵士たちとは打って変わり、彼女は鉄鎧を身につけず、身軽な革の鎧を着ているだけだ。
手綱を引いて馬を止めると、残りの二騎に乗っていた兵士たちが素早く下馬し、左右から駆け寄って救護を始める。
一人の男性兵士が、倒れ伏して動けない千里の傍らに片膝をつき、両手で素早く体を触りながら骨の損傷具合を確認し始めた。
「理解、理解……」男の兵士は頷くと金片を取り出し、手探りで二枚だけを指の間に挟み、残りは素早く鎧の隙間へと隠し込む。
彼は千里の傷口に金片の一枚をぐさりと押し当てた。血に触れた途端、金片は溶け崩れ、黄金の流光と化して肉へと染み込む。
傷口が蠢き、肉が編み込まれるように急速に癒着していった。
兵士はさらに千里の顎を掴んで上を向かせ、もう一枚の金片を口の奥へと押し込んだ。
処置を終えて一息ついた兵士は、千里が鋭い目で自分を睨みつけていることに気づいた。
「おっ、やるな! ぎゃあぎゃあ喚き散らすかと思ってたぜ」
一方、女性兵士は包帯と水を取り出し、アメイの擦り傷を手早く清浄し、簡素な止血処置を施していた。
「生き残ったのは、君たち二人だけ?」
「この隊は、最初からずっと二人だけよ……」アメイは弱々しく首を振った。
女性兵士は驚いたように顔を上げ、アメイを凝視した。
「二人ですって? たった二人であの地竜と遭遇して、生き延びたというの!」
アメイの目に暗い影が落ちた。
「でも……別の隊がいたの。僕たちより先に地竜に遭遇したチームが。そっちは全滅、死体すら残ってないわよ……」
女性兵士は鉄面を着けており、その表情は窺い知れない。
「全滅……大食要塞では毎日誰かが森で消えていく。どうやら今日もまた、見慣れた名前をいくつか線で消すことになりそうね」
馬に似た生物が鼻を鳴らす音と共に、ロベルトがようやく騎獣を寄せてきた。二人を見下ろすと、千里の顔に気づき、面白そうに口角を上げた。
「まさかこんな形で再会するとはな。泣くべきか笑うべきか迷うな」
千里は芽血にむせて激しく咳き込んでから、顔を上げた。
「ゴホッ……ってことは、さっき地竜が逃げたのは……あんたらの音を聞いたからってことか?」
「ああ」ロベルトは手甲を着けた拳で、自身の胸当てを軽く叩いた。
「あの地下生物の先祖は、昔は地上で好き放題に暴れ回っていたんだが、
最初の兵団に徹底的にやられて恐怖を骨の髄まで刻み込まれたのさ。だから、似たような音を聞くだけで無意識に退避するんだよ。
そのせいで厄介なことにもなってる。あいつら、ずっと地中に引きこもるようになっちまったからな」
千里の目尻がピクッと引きつった。
「こんなことなら、出かける時に首からデカい銅鑼でもぶら下げてくればよかったぜ。そのまま地竜をビビらせてやれたのにな」
ロベルトはくぐもった笑い声を漏らした。
「そいつは逆効果だ。地竜は異常に執念深い。あいつらは陰湿に地中へ潜り込み、土をかき回して大崩落を仕掛けてくる。
君らを地上でからかって遊ぶ代わりに、土の中に生き埋めにして窒息させるのさ!」
千里は顎に手を当てた。
「うーん……そいつは、生き残った喜びが全部吹っ飛ぶくらい屈辱的な事実だな。俺は、化け物のお遊びに命を拾われたってことか」
安堵の息を吐こうとした直後、千里の表情が硬直した、そして猛然と足元の地面を見下ろした。
「いや、おかしいだろ! その地竜、今まさに土の中にいるじゃねえか!
ってことは俺たち、いつでも生き埋めにされる大ピンチってことだろ、おいどうすんだ!」
ロベルトは深く頷き、彼の恐怖を肯定してみせた。
「ご名答。だから、足元の土地が崩壊する前に、さっさとここを離れるぞ!」
千里は顔中に冷や汗を浮かべ、慌てて両手を伸ばした。
「なら何を待ってんだよ、早く俺を引っぱり上げてくれ! 今の俺は、地面に足が触れるだけでも恐怖でちびりそうなんだからな!」
二人の兵士の動きは迅速だった。千里とアメイを引っ張り上げると、手早く騎獣の背へと乗せる。
二人が安全な態勢になったことを確認すると、部隊はすぐさま秩序立った緩やかな歩みで移動を開始した。
千里は前に乗る男性兵士にがっしりと抱きつき、焦燥のあまり再び冷や汗を滴らせた。
「なんなんだこの速度は、景色でも楽しんでるのか。
ロベルトさんよ、俺たちは今、化け物のお皿の上に盛り付けられてる状態なんだぜ!
なんでこんなに遅いんだ、走らせられないのかよ!」
ロベルトは手を伸ばし、自分の髪型をいじった。
「そう急かすな。速く走らせると風が強すぎて、せっかくセットした髪型が崩れちまうだろうが。
誇り高き兵士たるもの、首が飛ぼうとも髪の乱れは許されないのさ」
千里にがっしり抱きつかれている男性兵士も、笑いながら頷いた。
「へっ、その通り。それに俺の馬はスピード酔いする体質でね。速く走らせすぎると吐いちまうんだよ。
鞍の掃除代でまた何百枚も金片が飛んでいくのは御免だからな」
千里は目尻をピクピクと激しく引きつらせた。
「はぁあ!? 首が飛んでも髪の乱れは許さない……? お前ら兵士の選抜基準って、頭おかしいやつじゃないと受からないようになってんのか!?」




