三人の調査と、封じられた階層
動き出すことに、迷いはなかった。
王宮内部に潜む“何か”。
それを放置すれば、いずれ取り返しのつかない事態になる。
「まず、どこから調べる?」
リシェリアが腕を組んで言う。
セリアは即答した。
「地下です」
「やっぱり」
ユイトが小さく呟く。
あの黒い存在は、禁書に関係している。
ならば起点は地下――王立魔導図書院か、あるいはそれに近い場所。
「ただし、普通の地下ではありません」
セリアの視線がわずかに鋭くなる。
「王宮には“存在しない階層”があります」
「……存在しない?」
「記録上、削除されている階層です」
リシェリアが眉をひそめる。
「そんなもの、あるの?」
「あります。そして――」
セリアは一拍置いた。
「今回の異常、その階層と繋がっている可能性が高い」
沈黙。
空気が重くなる。
「……つまり」
ユイトが口を開く。
「意図的に隠された場所に、“あれ”がいる」
「はい」
短い肯定。
だが、その意味は重い。
「行きましょう」
リシェリアが言う。
「今すぐ」
「殿下、危険です」
「最初からよ」
いつものやり取り。
だが、今回は止める理由がなかった。
「……同行します」
ユイトは頷く。
セリアも小さく息を吐いた。
「では、こちらへ」
三人は部屋を出た。
塔の廊下は静まり返っている。
普段から人の出入りがない場所だ。
足音だけが響く。
「この塔の地下に、入口があります」
セリアが先導する。
やがて、古い扉の前で立ち止まった。
見た目はただの倉庫扉。
だが――
「……封印されてる」
ユイトが呟く。
目には見えないが、確かに“閉じられている”。
「通常の鍵では開きません」
「じゃあどうやって?」
リシェリアが聞く。
セリアはユイトを見た。
「彼の出番です」
「……私ですか」
「灰の力。封印の“記録”を読むことができるなら、開けることもできるはずです」
ユイトは扉に手を当てた。
冷たい。
そして――
流れ込んでくる。
封印の記録。
誰が、いつ、何のために閉じたのか。
「……読めます」
「いける?」
「はい。ただし――」
ユイトは一瞬だけ目を細めた。
「これ、普通の封印じゃない」
「どう違うの?」
「“開けられないようにする”封印じゃない」
違和感。
強い違和感。
「“外に出さないための封印”です」
リシェリアの表情が変わる。
「中に、いるってこと?」
「はい」
確信だった。
ユイトは深く息を吸う。
「開けます」
「待って」
リシェリアが止める。
「準備、する」
赤い瞳が強く光る。
セリアもまた、一歩前に出た。
「私も前に出ます」
「頼もしいですね」
ユイトは小さく呟く。
そして。
灰色の魔力を、扉へ流し込んだ。
「……解除」
音はしなかった。
だが、確かに“何か”が外れる感覚があった。
次の瞬間。
扉が、ゆっくりと開いた。
冷たい空気が流れ出す。
地下の、さらに下。
光の届かない階層。
「……行くわよ」
リシェリアが一歩踏み出す。
ユイトとセリアも続く。
階段は暗い。
だが、ただ暗いだけではなかった。
“気配”がある。
無数の。
視線のようなものが、三人を包む。
「……多いですね」
ユイトが呟く。
セリアが短く答える。
「ええ。予想以上です」
リシェリアが小さく笑う。
「退屈しなさそうね」
その言葉は、強がりではなかった。
むしろ――
楽しんでいるようにも見えた。
やがて、階段の終わりが見えた。
広い空間。
そして――
そこにあったのは。
“並んでいる人影”だった。
「……あれ、全部?」
リシェリアが呟く。
ユイトは息を呑む。
人の形をしている。
だが、動かない。
整然と並び、まるで“待機している”かのように。
「……観測体」
セリアが低く言う。
「これが……」
ユイトは理解した。
あの男と同じ存在。
それが――
数十体。
いや、それ以上。
静かに、こちらを見ている。
次の瞬間。
――一斉に、動いた。
空気が爆ぜる。
視線が、意志へ変わる。
そして。
襲いかかってきた。
灰の司書と、幽閉王女。
そして王宮監察官。
三人の戦いは――
新たな段階へと突入する。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
第7話では、ついに“封じられた階層”へと踏み込み、
観測体の存在が明確になりました。
しかも、その数は一体ではなく――複数。
そしてすでに、戦闘は避けられない状況です。
第8話では
・三人での本格的な連携バトル
・灰の力の新たな使い方
・観測体の正体に関わる重要なヒント
が描かれます。
一気に盛り上がる回になりますので、ぜひ続きも読んでいただけると嬉しいです!
ブックマーク・評価も励みになります。応援よろしくお願いします!




