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無能と呼ばれた灰属性の司書、禁書を読む力で幽閉王女を救い王宮の闇を暴く  作者: 関澤諭


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3/10

王宮秘匿記録と“見ているもの”

 ――見つけた。


 その声は、耳ではなく、頭の奥に直接響いた。


 ユイトの指先が、本の上で止まる。


「……今、聞こえましたか」


「ええ」


 リシェリアは迷いなく頷いた。


 表情は落ち着いているが、その瞳の奥にわずかな緊張が走っている。


「それ、普通じゃないわよね?」


「普通の本が喋るなら、この図書院はとっくに崩壊しています」


「それもそうね」


 軽口のようで、実際は笑えない状況だった。


 ユイトはゆっくりと本を開いた。


 ――王宮秘匿記録。


 古い紙の匂いが広がる。


 だが、それ以上に強いのは“視線”だった。


 見られている。


 本を開いた瞬間から、明確に。


 ページの奥から、何かがこちらを覗いている。


「……殿下、離れてください」


「嫌」


「即答しないでください」


「もう慣れてるもの」


 リシェリアはユイトの隣に立ったまま、ページを覗き込む。


 距離が近い。


 だが今は、それを気にしている余裕はなかった。


 ユイトはページをめくる。


 文字は古いが、読めないほどではない。


 ただし――


「……おかしい」


「なにが?」


「記録の形式が崩れています」


 通常、王宮の記録は厳密な書式で統一されている。


 日付、記録者、内容、署名。


 だがこの本は違った。


 文章が途中で途切れ、同じ言葉が何度も繰り返され、まるで誰かの“思考”がそのまま書き殴られているようだった。


「……読むわよ」


 リシェリアが小さく呟く。


 ユイトは頷いた。


 そして、声に出して読み上げる。


「――第七記録。対象、王族血統……異常なし」


 問題はない。


 普通の記録だ。


 だが、次の行。


「……“あれ”はまだ気づいていない」


 空気が変わる。


 ユイトの声が、わずかに低くなる。


「記録者、続行――王女の隔離は成功」


 リシェリアの肩がわずかに揺れた。


 だが彼女は何も言わない。


 ユイトは読み続ける。


「しかし、観測は継続する。“あれ”は必ず――」


 その瞬間。


 文字が、動いた。


「っ……!」


 ユイトは本を閉じようとした。


 だが、遅い。


 ページの文字が黒く滲み、形を変え、浮かび上がる。


 まるで、こちらを見ている“目”のように。


「ユイト!」


「離れてください!」


 黒い何かが、本から溢れ出す。


 煙のようで、影のようで、形を持たない存在。


 だが、それは確実に“意志”を持っていた。


 そして――


 こちらを、認識した。


 ――見つけた。


 再び、声が響く。


 今度ははっきりと。


 ユイトの頭の奥に、直接。


「来るな……!」


 思わず叫ぶ。


 だが、それは止まらない。


 黒い影が、ユイトへと伸びる。


 その時だった。


「――そこまでよ」


 リシェリアの声が、空気を切り裂いた。


 赤い瞳が、強く光る。


「王家の名において命じる。退きなさい」


 空間が、震えた。


 目に見えない圧力が、部屋全体を包み込む。


 黒い影が、わずかに揺れる。


 だが――


 止まらない。


「効かない……?」


 リシェリアの声に、初めて焦りが混じる。


 その瞬間。


 ユイトは理解した。


 これは“命令”では止まらない。


 なら――


「読むしかない……!」


「は?」


「これは、本です!」


 ユイトは再びページを開いた。


 黒い影が迫る中で。


 逃げるのではなく、向き合う。


 それが、司書のやり方だった。


「……続行します」


 声が震える。


 だが、止めない。


「“あれ”は王宮内部に存在する」


 影が、一瞬だけ止まった。


「正体不明。観測不可。だが確実に――」


 ユイトの灰色の魔力が、わずかに揺れる。


「“見ている”」


 その言葉と同時に。


 黒い影が、弾けた。


 まるで、言葉に反応したかのように。


 空間が静まる。


 影は消えた。


 本は、ただの紙の塊へと戻る。


「……終わった?」


 リシェリアが小さく呟く。


 ユイトはしばらく動けなかった。


 やがて、ゆっくりと息を吐く。


「……一時的に、です」


「一時的?」


「はい。これはまだ“続いている”」


 ユイトは本を見つめる。


 さっきまでの気配は消えている。


 だが、確実に“何か”が残っている。


「殿下」


「なに?」


「この本、危険です」


「知ってる」


「想像以上に」


「それも知ってる」


 リシェリアは微笑んだ。


 だが、その笑みは少しだけ強がっているようにも見えた。


「だから、あなたが必要なの」


 ユイトは言葉を失う。


 そして、静かに本を閉じた。


「……王宮の中に、何かいる」


「ええ」


「それが、あなたを見ている」


「ええ」


「そして、私も見られた」


 沈黙が落ちる。


 重く、冷たい沈黙。


 だがそれは、恐怖だけではなかった。


 確信だった。


 この物語は、もう後戻りできないところまで来ている。


 ユイトは顔を上げた。


 灰色の瞳が、まっすぐ前を向く。


「……読み続けます」


 リシェリアが、少しだけ驚いた顔をする。


「怖くないの?」


「怖いです」


「じゃあなんで」


 ユイトは答えた。


 迷いなく。


「司書なので」


 一瞬の沈黙。


 そして――


 リシェリアは、小さく笑った。


「本当に変な人」


「三回目です」


「じゃあ、もう慣れて」


 彼女は本棚に背を預けながら言った。


「ここからが本番よ、ユイト」


 その言葉は、予言のようだった。


 王宮の闇。


 見えない“何か”。


 そして、禁書に刻まれた真実。


 すべてが、少しずつ繋がり始めていた。


 灰の司書と、幽閉王女。


 二人の物語は――


 確実に、世界の核心へと近づいている。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


第3話では、ついに「王宮の闇」と“見ている存在”の気配が明確になりました。


ただの禁書ではなく、

・王宮内部に潜む“何か”

・王女の隔離の本当の理由

・ユイトの灰の力が通用する理由


すべてが少しずつ繋がり始めています。


次の第4話では

・“見ている存在”の正体にさらに踏み込み

・王宮側の動き

・二人に迫る危機


が一気に加速します。


物語が本格的に動き出す重要な回になりますので、ぜひ続きも読んでいただけると嬉しいです!


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