表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた灰属性の司書、禁書を読む力で幽閉王女を救い王宮の闇を暴く  作者: 関澤諭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

幽閉王女と灰の司書

 ――目が覚めた時、最初に感じたのは、見慣れない柔らかさだった。


 地下の石床ではない。硬い木の椅子でもない。沈み込むような感触に、ユイトはゆっくりと瞼を開いた。


 天井は白かった。


 いや、正確には白すぎた。


 装飾は少ないのに、圧倒的に整っている。無駄がない。人が暮らす場所というより、何かを“収める”ための空間だと直感する。


「……起きた?」


 声がした。


 横を向くと、窓際に少女が立っていた。


 銀の髪。赤い瞳。


 第一王女、リシェリア。


 昨夜、禁書を押さえつけていた少女が、そこにいた。


「……ここは?」


「私の部屋。正確には、私が閉じ込められている塔の中」


 あっさりと言う。


 ユイトはゆっくりと身体を起こした。


 寝かされていたのは簡素な寝台だったが、シーツは異様に上質だった。触れるだけでわかる。地下の湿った布とは別世界だ。


「勝手に運びました。問題ありましたか?」


「大ありよ。本来ならあなた、地下で倒れたままでもおかしくなかった」


「それは困りますね」


「本当に困ってる?」


「少しだけ」


 リシェリアが小さく笑う。


 その笑い方は昨夜より自然だった。


「……あなた、変わってるわね」


「よく言われます」


「二回目ね、それ」


 ユイトは周囲を見渡した。


 部屋は広いが、驚くほど物が少ない。本棚はあるが、半分以上が空いている。机、椅子、寝台。それだけだ。


 王女の部屋とは思えない。


 むしろ、牢に近い。


「幽閉、というのは本当だったんですね」


「ええ。本当よ」


 リシェリアは窓の外を見たまま言った。


「外には出られない。誰にも会えない。決められた本だけ読んで、決められた食事をして、決められた時間に眠る」


 淡々とした口調だった。


 だがその言葉の一つ一つが、重かった。


「……なぜ、あんな場所に?」


「禁書を読んでたから」


 ユイトは眉をひそめた。


「理由になっていません」


「なるのよ、この国では」


 リシェリアが振り返る。


「私の魔力、強すぎるの」


 その言葉は軽かったが、意味は重かった。


「普通の魔術師なら扱えない本でも、私は読める。でもその代わり、本の影響も全部受ける」


「だから隔離された」


「正解」


 ユイトは少し考えた。


 そして、言った。


「なら、読まなければいいのでは?」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、リシェリアは笑った。


 今度は、はっきりと。


「それができたら苦労しないわ」


「……?」


「本が、呼ぶの」


 空気が変わった。


 静かな部屋の中で、その言葉だけが異質だった。


「夢に出てくる。囁いてくる。読めって。開けって。私なら理解できるって」


 ユイトは息を止めた。


 禁書は人を選ぶ。


 だが、ここまで強く干渉するのは異常だ。


「……それで地下に?」


「ええ。昨夜は特に強かった。止めないとまずいってわかったから」


 結果があれだ。


 ユイトは苦笑する。


「死ぬところでしたね」


「実際、あと少し遅かったら死んでた」


「では、運が良かった」


「違う」


 リシェリアは首を振る。


「あなたが来たから助かったの」


 まっすぐな視線だった。


 逃げ場がないほどに。


「灰の魔力。あれ、初めて見た」


「私も初めて使いました」


「適当すぎない?」


「本が燃えていたので」


「そればっかりね」


 リシェリアは小さく息を吐いた。


 そして、ゆっくりとユイトの前まで歩いてくる。


「ねえ」


「はい」


「やっぱり、あなた必要」


 距離が近い。


 赤い瞳が、まっすぐユイトを射抜く。


「私の司書になりなさい」


「昨夜も聞きました」


「今も言ってる」


「正式な手続きは?」


「無視」


「権力の使い方が雑ですね」


「王女だから」


 またそれだった。


 だが、今度は少しだけ誇らしげだった。


 ユイトはしばらく考えた。


 地下に戻れば、安全ではある。だが、何も変わらない。


 ここにいれば、確実に危険だ。


 だが――


「……一つ条件があります」


「言って」


「禁書は、勝手に開かないでください」


「無理」


「即答ですね」


「でも、我慢はする」


 リシェリアは少しだけ視線を逸らした。


「あなたがいる時だけ開く」


 それは譲歩だった。


 王女なりの。


 ユイトは小さく息を吐く。


「では、その条件で」


「本当?」


「はい。本を読むだけなら」


 リシェリアの顔が明るくなる。


 その変化は、あまりにも分かりやすかった。


「決まりね」


「まだ契約書はありませんが」


「そんなの後でいい」


 彼女はくるりと背を向け、本棚の前に立った。


 そして、一冊の本を手に取る。


「じゃあ、最初の仕事」


「……嫌な予感しかしません」


「これ、読んで」


 ユイトは本を見た。


 古びた装丁。だが、昨夜のものほどの危険な気配はない。


 ただ――


 表紙に書かれたタイトルを見て、固まった。


「……王宮秘匿記録?」


「そう」


「なぜそれがここに?」


「盗んだから」


「堂々と言いましたね」


「王女だから」


 ユイトは頭を押さえた。


 理解が追いつかない。


 だが一つだけ、はっきりしている。


 この場所は安全ではない。


 そして――


 ここにいれば、退屈はしない。


「……読みます」


 ユイトは本を受け取った。


 ページを開く。


 その瞬間。


 空気が、変わった。


 静かな部屋の奥で、何かが動いた気がした。


 見えない何かが。


 確実に。


 こちらを見ている。


「……殿下」


「なに?」


「これ、普通の本ではありません」


「知ってる」


 リシェリアは微笑んだ。


「だからあなたを呼んだの」


 その言葉と同時に。


 本の中から、低い声がした。


 ――見つけた。


 ユイトの背筋に、冷たいものが走った。


 物語は、もう始まっている。


 後戻りはできない。


 灰の司書と、幽閉王女。


 二人の物語は、さらに深い闇へと踏み込んでいく。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


第2話では、王女リシェリアとの関係と、

ユイトが「専属司書」として関わる流れを描きました。


そして最後に登場した「王宮秘匿記録」。

ここから物語は一気に核心へと近づいていきます。


第3話では

・王宮の闇の一端

・禁書の“本当の危険性”

・灰の力の新たな側面

が明らかになります。


もし少しでも続きが気になったら、ぜひ第3話も読んでいただけると嬉しいです!


ブックマークや評価もとても励みになります。

応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ