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無能と呼ばれた灰属性の司書、禁書を読む力で幽閉王女を救い王宮の闇を暴く  作者: 関澤諭


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1/10

灰色の本棚と、眠らない王女

無能と呼ばれた少年は、王都の地下で禁書を管理する司書として生きていた。


誰にも期待されず、誰にも必要とされない場所で――

ただ本を読むだけの毎日。


しかしある夜、幽閉された王女と出会ったことで、

彼の運命は大きく動き出す。


これは、禁書を読む力を持つ“灰属性”の司書が、

王宮の闇と世界の秘密に踏み込んでいく物語です。

 雨は、王都の石畳を静かに叩いていた。


 夜の街は濡れ、魔石灯の光が揺れている。通りを行く人々の足音も、どこか遠く感じられるほど、この時間の王都は静かだった。


 だが、その静寂とは無縁の場所がある。


 王立魔導図書院――その地下三階。


 そこは、王都でもっとも“触れてはならないもの”が集められた場所だった。


 壁一面に並ぶ書架。そのすべてに収められているのは、ただの本ではない。

 禁書。呪い。失われた術式。狂った思想。


 人が忘れるべきだと判断したものだけが、ここには存在している。


「……第七書架、封印状態正常」


 小さな灯りの下で、淡々と記録を書き込む少年がいた。


 ユイト・アルゼン。


 名門貴族アルゼン家の三男にして、“落ちこぼれ”。


 彼の髪と瞳は灰色だった。


 炎でもなく、水でもなく、光でも闇でもない。

 魔法属性として認められない「灰」。


 それは、才能なしを意味する色だった。


 だから彼はここにいる。


 誰にも期待されず、誰にも必要とされない地下で、

 誰にも読まれない本を管理する仕事を与えられて。


 だがユイトは、この場所が嫌いではなかった。


 人よりも、本のほうが正直だからだ。


 人は平気で嘘をつく。笑いながら裏切る。

 だが本は違う。書かれた言葉は、たとえ歪んでいても“本音”だ。


 狂気も、絶望も、願いも。


 すべて隠さずそこにある。


 だからユイトは今日も、一人で地下を歩いていた。


 灯りを片手に、静かな通路を進む。


 その時だった。


 ――ちりん。


 鈴の音がした。


 ユイトは足を止めた。


 この地下に、鈴など存在しない。


 もう一度、音が鳴る。


 今度ははっきりと、奥から。


 ユイトはゆっくりと視線を向けた。


 地下最奥――王族禁書区画。


 本来ならば、厳重に封じられているはずの扉が。


 わずかに、開いていた。


「……ありえない」


 思わず呟く。


 ここは王族しか入れない場所だ。


 だが――


 焦げた匂いがした。


 ユイトの表情が変わる。


 禁書庫において、火は最悪の災厄だ。


 彼は迷わなかった。


 扉を押し開け、奥へ踏み込む。


 そして、見た。


 炎の中に立つ、一人の少女を。


 銀の髪。白い肌。赤い瞳。


 その足元で、一冊の本が黒い炎を噴き上げている。


 少女は、その本を押さえつけていた。


「離れてください!」


 ユイトは叫ぶ。


 少女がこちらを見る。


「……あなた、誰?」


「図書院の司書です! その本から手を離してください!」


「だめ」


 即答だった。


「これが逃げたら、王都が終わる」


 ユイトは本を見る。


 黒い炎の中で、文字が蠢いていた。


 ただの火ではない。


 これは――“夢を侵食する呪い”。


「……禁書、最上位」


 理解した瞬間、背筋が冷える。


 少女の腕には、黒い文字が焼き付いていた。


 それでも彼女は手を離さない。


「……王女だから」


 その一言で、すべてが変わった。


 ユイトは息を呑む。


 目の前の少女は、この国の――


 第一王女、リシェリア。


「殿下……!」


「触らないで。あなたも食われる」


 黒い炎が揺れる。


 確かに、このままでは王女は死ぬ。


 だが、離せばもっと大きな被害が出る。


 ユイトは歯を食いしばった。


 そして、手を伸ばす。


「……私の魔力を使ってください」


「は?」


「灰でも、役に立つかもしれません」


 少女が驚いた顔をする。


「灰って……無能属性じゃないの?」


「そのはずです」


「じゃあなんで来たの」


「本が燃えてるので」


 少女は一瞬、呆れたように笑った。


「変な人」


「よく言われます」


 ユイトの手が、本に触れる。


 黒い炎が、指を舐める。


 記憶が削られる感覚。


 だが彼は離さない。


「灰は、燃え残りです」


 静かに言う。


「全部を消すことはできない。でも、残すことはできる」


 灰色の魔力が、炎に触れる。


 すると、炎がわずかに弱まった。


「……嘘」


 王女が呟く。


 ユイトは本を読みながら、魔力を流し込む。


 炎を消すのではない。


 記録する。


 受け止める。


 それが、灰の力だった。


「今です、閉じてください!」


 王女が本を閉じる。


 重い音が響く。


 炎は消えた。


 静寂が戻る。


 ユイトはその場に崩れ落ちた。


 王女もまた、膝をつく。


 しばらくの沈黙のあと。


 彼女が口を開いた。


「ユイト」


「……はい」


「あなた、私の司書になりなさい」


「……え?」


「一人だと死ぬから」


 あまりにも率直な理由だった。


 ユイトは苦笑する。


「私は無能ですよ」


「でも助けた」


「偶然です」


「その偶然が必要なの」


 王女は、まっすぐ彼を見る。


「一緒に、本を読んで」


 その言葉は、命令の形をした願いだった。


 ユイトは少しだけ考えて。


 そして、答えた。


「……本を読むだけなら」


 王女が、初めて笑った。


 それはどこか楽しそうで、少し危うい笑みだった。


 その夜。


 誰にも知られず。


 一人の司書と、一人の王女の物語が始まった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


第1話は導入として、世界観と主人公・王女の出会いを中心に描いています。


この先は

・灰属性の本当の力

・幽閉王女の秘密

・王宮に隠された闇

が少しずつ明らかになっていきます。


第2話から物語が一気に動き出すので、ぜひ続きも読んでいただけると嬉しいです。


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