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黒い空

相変わらず、うちのメロンパンは人気だ。

今度はガレンがまとめ買いをしはじめた。一度に二十個とか注文してくる。しかも三日ごとに。

しかもここ一ヶ月ずっとだ。そんなに好きだったっけ? 


この街、メロンパン好きが多すぎる。 


ガレンの顔をジィ〜ッと見つめて

「そういえばさ、また、カーディさんに会ったよ」と報告すると

「…あぁ、あの人、前に言ったワイバーン討伐のきっかけをくれた人だよ」と教えてくれた。


「えー、あの人が! もっと師匠的な人に言われたのかと思ってた」というと

「まぁ…普通そう思うよな…」と呟いていた。


ガレンが気合入れないと会えないって言ってた人が、あの人かぁ…。

確かに気合いいれないと会えないかも。思いっきり不意打ちくらってたけどね。笑える。


「なんかお話あったみたいだね」というと

「まーな」と

そして、続けて、「これから新しい仕事が入ったから、ギルドになかなか顔を出さないかも」と言うことだった。いや、それは別にいいんだけど。


「ねぇ、なんでこんなにメロンパン買うの? そんな好きだったっけ?」と聞くと

「あ〜、頼まれてさ」とポツリ。

なんか、変。


「なんか、あやしい」とジィーーーーーッとガレンを凝視すると

「実は天馬騎乗の訓練をしてる」と顔をそむけながら小さい声で呟くのが聞こえた。


「天馬? 空飛ぶ馬? なにそれ? 普通乗れないでしょ?」と思わず突っ込むと

「カーディ関連で。とりあえず、あんまり人に言うなよ」というので

「いわないよ!」と答える。


確か天馬とか騎乗できる妖獣って、人工飼育が難しくて、すごく希少なものじゃなかったっけ?

そして、メロンパンのこと聞いたんだけど、答えになってないよね?




こんなやりとりがあった後、しばらくして。


空が、黒かった。

麦畑を見回っていた農家の男が、ふと空を見上げた。

イナゴだ。

「……多すぎないか?」

大量のイナゴの群れが、男の頭上をざっと飛んでいった。





街に鐘の音が響いた。ギルドの警鐘だ。まだ朝八時だよ。いったい何事?

いつもは邪魔だから持ち歩かない薙刀と短剣を持ち、ギルドに向かった。


ギルドに着くと人がいっぱい。おなじみの受付のお姉さんに声をかけると、麦畑で魔獣化したイナゴの大群が見つかったらしい。


このところ魔力のゆらぎが観測されていて、ギルドも騎士団も調査と警戒をしていたそうだ。

王都にも救援を要請しているとのこと。ギルドは慌ただしく動き始めていた。



その頃、神殿では魔法陣の発動に備え、王都からの救援の到着準備に追われていた。

魔法陣による移動は大量の魔力量を消費し、連続では使えない。運べる人数や荷も限られるため、

王都からの救援は少数精鋭だ。


暗い神殿の地下で、転移陣が淡く光り始め、次第に光を増していく。魔力の震えが空気を揺らす。

次の瞬間、光が弾け、魔法陣の中央に複数の影が見えた。


「状況は」

その中の影が問う。

カーディ・オーだった。


その後からエルフの女と天馬使いの男が、二頭の天馬をゆっくり引いて出てきた。そのうちの一頭の天馬の背に、男がくたりと横抱きに乗せられていた。顔は伏せているので表情は見えない。


神官が慌てて「意識を失っていらっしゃるのですか?」と聞くと

「四時間後に起きる」


神官は言葉を失った。

…寝ているのか。





周りの冒険者の話に耳を傾けていると、少しずつ状況がみえてくる。

ギルドから冒険者に向けて全員に出動指示が出ている。騎士団も当然、総出で対応だ。


早朝にイナゴの大群が確認され、すでに一部の畑に被害がでているという。

しかも、ただのイナゴではない。


魔獣だ。


騎士団とギルドは蝗害の初期と判断し、王都に応援要請を出したらしい。

ただ、早期対応が必須となるため、時間的に大規模な援軍は期待できない。


魔法陣を使った援軍になるため、来るとしても少数精鋭となるそうだ。


基本、この場にいる者たちで対応することになる。

周囲に緊張感が走り、胸の鼓動だけがいやに速くなった。



すでに先発組が始動しているらしいが、一般の冒険者にもイナゴの性質と今後の作戦について説明があった。


今回は、群れを郊外の盆地へ誘導し、そこで一気に殲滅する。

最終殲滅は、王都から来る魔法使い――通称「トップ」が担当する。

ただし彼の魔法は起動までに時間がかかるらしい。

そのため、作戦完了までの時間はおよそ四時間と設定された。


それまでの間、現地の騎士団と冒険者が協力し、群れの誘導と被害の抑制を行う。

現場の指揮はカーディが担当する。

高台から全体を俯瞰し、状況を見ながら指示を出していくらしい。


さらに、ガレンと王都から来た天馬使いは天馬に騎乗し、一人がフェロモンで誘導、もう一人が群れに変態抑制剤を散布しつつ、まとめていく役目となる。

いわば――空の羊飼いだ。


なお、このフェロモンと抑制剤は、王都から同行してきたヒーラーが調合したものらしい。

イナゴは群れが密集すると変態し、より凶暴で大型の個体へ変化する性質を持っている。

そのため群れをまとめつつも過度な密集を避け、可能な限り数を減らしながら殲滅地点へ誘導していく。

同時に風魔法使いが補助し、騎士と馬に乗って並走する。


殲滅地点へ群れを誘導した後、駆除を行う。

群れの到着からトップ起動まで、約一時間。

短時間での決着となる。



確認されている個体は、小・中・大の三種類。

中型および大型の対応は、騎士団とC+ランク以上の冒険者が担当することになった。

また、街と畑の防衛も同時に行う。

群れから落ちてきた個体や逸れたものは、その場にいる者が対処する。

殲滅地点は郊外の盆地だ。

そこには魔法使いや冒険者、騎士が集結、待機し、最終殲滅の準備を整える。


殲滅地点へは馬車で移動する。

道中で群れに遭遇した場合は、可能な範囲で数を削る。

到着後は、土魔法で簡易的なドームを待機場所として複数設置する。

僧侶が待機するそこに水やポーション、医療品を用意し、補給兼退避兼医療地点として使用する。

誘導された群れが到着後、トップが起動するまで持ちこたえる。


ちなみにわたしは四大属性の魔法を扱えるが、魔力量が少ない新人だ。そのため体力を温存し、殲滅地点での待機と現地対応を担当することになった。

殺虫剤も散布予定だが、魔獣化しているので、弱体化のみで殺虫まではいかないだろうとの予測。変態を防ぐために、落ちてきたイナゴを駆除するという泥臭い任務。

つまり、わたしはイナゴの大群が集結する場所にいることになるってこと。最悪。


虫が大嫌いなのに、魔獣のイナゴ退治。どうしてこうなった。

トボトボと馬車に向かおうとしたところで、受付のお姉さんズに呼び止められた。新人はみんな捕まっているみたいだ。


「ヒュリちゃん、そのまま行っちゃだめ」

「え?」

「備品渡すから。イナゴ甘く見ちゃだめ。肌をだしてると傷がつくわ」

そういって白い帽子を差し出される。


「首も目も守らないと」

今度はゴーグル。


「靴から入らないようにしないと」

レッグカバー。


「ポーションキャンディ、多めに持っていきなさい」

小袋を渡される。中には一つずつ紙に包まれたキャンディが入っていた。手袋のまま、紙をしごいて食べられるやつ。


「はい、まず先にこれ食べちゃいなさい」

ころんとしたボンボンタイプをポンと口にいれてくれる。

砂糖衣を噛むとシャリ。甘くてちょっとスーッとするシロップがとろっと出てくる。


「…おいし」


そして、渡された白い帽子を広げると目出し帽だった。口もあいてるやつ。右目の穴の下に赤字で「サンプル」とある。


「……」

「サイズ的にこれしかないんだけど。サンプルってあるけど、品質はちゃんとしてるから。被ってみて」


口の部分が空いてる目出し帽、レッグカバー、ゴーグルを身につける。そこに手持ちの手袋と皮のジャケット、薙刀と短剣。

…なんていうか、まぬけな銀行強盗? めちゃくちゃ、怪しいんですけど。


「ほら、ぴったり」「イナゴ入らない」「大丈夫大丈夫」と、お姉さんたちはうんうんと満足そうに頷いている。


「気休めでも虫除けスプレーかけるからね」

シュパシュパ、スプレーをかけてくれた。


「気をつけてね」「これが終わったらみんなでおいしいご飯食べに行こうね」

…なんとなくだけど、ちょっとだけ、元気がでた。



ギルドを出て、馬車に乗って移動する。遠くからゴォォォ…という音。風がうなっている。

みんなが空を見る。


……黒い帯。遠くの空を横切るように、黒いものがうねっていた。イナゴだ。

一体どれだけの数なんだろう。こわい。


黒いうねりの周りを、白い点が旋回している。時々きらりと光る。

天馬だ。ガレンだ。ガレンたちが、群れを誘導している。

黒い帯がうねりながら動いていく。


空の羊飼い。その小さな白い点は黒い帯の中に小さく埋もれそうになっていたけれど、確かな成果をあげているようだった。



馬車の中でイナゴのレクチャーを受ける。

群れの大半は小型。中型、大型は騎士団と中堅冒険者が担当。

私たちは群れを密集させないため小型を削る。

弱点は触覚、腹部、関節、目、低温にも弱い。

トップが起動するまで約一時間。

それまで持ちこたえる。



携帯食をもそもそ齧っていると、「ヒュリ」と声をかけられた。

振りかえると、カヤだ。受付のお姉さんに止められてた新人の一人。


「チーム別だったね」

「ま、新人だからね。バラすよね」

「うん、ルカも向こうの方にいたよ」

「ねぇねぇ、姉さんたちにもらった帽子、色違いだよ。わたし、黒」

「わたし、白」


お互いに見せ合う。

二人で、ふっと笑って、同時に帽子を被って、笑い出す。

どう見ても、まぬけな銀行強盗。

目の下の赤字のサンプルがいい仕事をしているよ。


群れが来るまであと三十分。

……もうなんでも使ってやる

それまでリラックスして待ってやる。






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