お屋敷案内と壁画デスマッチ
「ここから二階に行きますよ〜」
お母様の先導で階段を登るのですが、シンプルな白い壁。それを横に階段を上がって踊り場で方向転換。
すると白壁に絵が出現しました。絵画とかじゃなくて、絵なの。正統派の絵じゃなくて、味がある。薬草の絵がシンプルに黒いチョークでおおらかに描いてある。それがずっと続いてる。
種から芽吹いて、双葉になって、どんどん大きくなって、雨に降られたり虫がきたりして、お花が咲いて種が出来て、鳥がついばんで、鳥が飛んでいって、あ、誰かに採集されて、ポーションができて、笑ってる。なにこれ、おもしろい!
「わぁぁ♪」
すっごく好き!
「ふふふ。おもしろいでしょ」
「こっちはポーションのレシピですか?これは、何かの数式?」
おおらかに堂々と壁に書いてあって、時に色がつき、時に猫が歩いてたり、鳥が飛んでたり、ドラゴンとか何かわからないものの絵とか数式とか、レシピの横には「めっちゃまずい」とか誰かが書き足してるし!
壁だけじゃなくて、天井にも絵が描いてあります。この絵描いた人、いいなぁ。
こんなの初めて。唯一無二の空間だ。かわいい!楽しすぎる!なぜかおしゃれ!
「二階、三階は家族の空間なのよ。だから好き放題。先祖の落書きもあるし、今いる誰かが書いたものもあるし」
「すっごくすてき!」
「気に入ってくれた?じゃあ、この部屋見てみて」
セレスティーナさんが扉を開けてくれます。目に入ったそこは――
ほのかなピンク色のお部屋だった。柔らかな色合いのエメラルドグリーンの家具には金色の曲線があしらわれている。グリーンがアクセントになっていて、スイート過ぎない。
ベッドを置いてある壁には天使がやさしく見下ろしている。
「はぁ〜」
素敵すぎてため息しかでてきません。
「気に入った?」
「もちろん!」
「昨日は疲れてるだろうから、夜景がきれいな部屋に泊まってもらったけど、ヒュリちゃんが泊まりたい部屋を選んでほしいの。その方が楽しいでしょ?今の部屋でもいいし、この部屋とあと2つあるから、お好きな部屋を選んでね」
「えーーーっ、そんなことできるんですか!うれしい!……うれしいけど、どっちの部屋もすてきで選べません!」
「あとふたつあるからね〜。ここは中庭も楽しめるお部屋ね」
アヴェロン家、どんだけおもてなし上手なの!
「じゃ、次、どんどん行っちゃいましょう!」
「はい!」
「よし!いいお返事!」
「じゃあ、お泊まり候補のお部屋に行く前に、リビングにいきますよ〜」
「はーい!」
リビングとな!またびっくりするんだろうな。楽しみ!
……そして。
はい。またしてもびっくりさせられました。なんで?だって、靴を脱いでゴロゴロ出来るんだよ!
「ほら、ゴロゴロしてみて〜」というお言葉に甘えてゴロゴロしてます。ふかふか〜。気持ちいい。
ふかふかの絨毯。真ん中に丸い大きなテーブル。テーブルの中央がくり抜かれていて、そこに寄せ植えの植物が植えられている。
テーブルにそって低めのソファが置いてあるけど、床にも色とりどりのクッションがあちこちにたくさん置かれていて、そのままごろりと寝転んでもいい。テオくんの小さな木馬もある。テオくん、ここで遊ぶんだね。
そして、一番目を引くのは、やはり壁いっぱいに描かれた大きな木。生命の木かな。その周りには花や動物、人間、よくわからない生き物も描かれている。
人になでられてうれしそうな犬、枝からぶら下がって何か食べてる猿、カエルはうさぎに柄杓で水をかけてもらってうれしそう。
石に動物の足としっぽがついてるヘンな生き物も発見。変なところに変なもんが隠れているので、ついつい探しちゃう。
ゴロゴロ移動してたら、セレスティーナさんとキャンディスさんに挟まれた。三人で手を伸ばして寝転がって、目が合って吹き出しちゃう。
「ヒュリさんや、どうですかね?」
キャラ変わってますよ、キャンディスさん。もう、笑っちゃうから〜。
三人でクスクス笑っていると、お母様が
「はーい。ちゃっちゃと次、行きますよ〜。三人ともこっち来て〜」
さすが、締める時は締めるお母様。
「はーい」と言いながら三人でゴロゴロと移動します。もう、おもしろすぎ。
「次はお泊まり候補の部屋ですよ〜」
お母様が指し示してくれたお部屋の扉は丸みを帯びていて、少し小さめ。扉の周りに手書きで黒と金の細い線で飾りが描かれています。またここもちょっと違うお部屋なのね。
扉を開けると、温かみのあるベージュの壁。よーく見ると白い線で幾何学模様。大きさの違う絵がいくつも掛けられています。トランプの女王様がウィンク、王様は親指をたててます。あと、なぜか猫の絵。
それに合わせたのか、トランプ模様みたいな生地の一人用ソファにターコイズの長いソファ。真ん中の小さなテーブルには、鮮やかなお花が生けてある花瓶。暖炉の上にはちょっとブサイクな緑のカバの置物とかキャンドルとか。こじんまりとした一人部屋って感じ。
「ここはね、小さなお部屋でね、ロフトで横にある階段を登ってベッドに行くの」
「うわぁ、楽しそう!」
「登ってみてきて」
「はい!」
ワクワクしながら階段を登ります。秘密基地みたいで楽しい。この小ささも落ち着くわぁ。
ロフトに到着。本当に小さなスペースで、ラグの上にベッドとサイドテーブルがあるだけ。天井が斜めに低いのが、屋根裏感があってまたいい感じです。サイドテーブルの上のライトスタンドはタキシードを着たウサギでした。かわいい!
まだもう一つ、お泊まり候補のお部屋があるんだよ。アヴェロン家、最高。
階段を降りて、ため息。
「どうだった?」
「最高すぎて、ため息が出ます」
美女三人、とっても嬉しそうに笑ってくれました。うん。それも最高。
「はい。じゃあ、次は三階にいきましょうか。二階は図書室もあるの。ま、そこはリサのとことそう変わらないから。ヒュリちゃん、好きに出入りしていいからね」
「ありがとうございます!」
そして、最後のお部屋は角のない丸いお部屋で、天井から空が見えました。
扉を開けたら、青空に白い雲。天井からは光が差し込んでいる。まるで空の上にいるみたいなの。そう、魔法使いの部屋だ!
お部屋は白をメインに、ほんの少しの金・銀・群青色が使われている。部屋の真ん中には白い天蓋付きのベッド。部屋の中心がゆるやかに少し高くなっていて、そこにベッドが置かれている。
部屋の壁は時間や天気によって変わるのだという。朝はあけぼの、晴れの時は青空と白い雲、夕方は茜色から紫色へ変わっていき、夜は星座と魔法陣が光りながら現れる。そして、曇りの日は霧深い森が現れるそう。なんて幻想的!
そんな説明されたら……夜明けも夕焼けも星座も魔法陣も霧の中の森も全て見てみたくなっちゃうよー!
天窓から差し込む光に反応する特殊な魔法塗料を使っているから出来ることなんだって。でも、曇りの日は難しくて、昼でも夜の景色になったり、夕焼けの景色になったりすることがあるそう。でも、そこもまた面白いでしょ、と三人がクスクス笑いながら教えてくれました。
4つのお部屋を全部見終わりました。ああ、楽しかった。
「どうだった?」といたずらっぽく聞かれても、もう、全部が違って、全部いい。
うわ〜ん、困った。選べないよぉ。
「大丈夫よぉ。ゆっくり考えてね」
「さ〜て、”収穫祭の間”に行きますか。そこ見終わったら、とりあえずは終わりにしましょ」
ということで、やってきました。収穫祭の間。
一体何があるの?と思っていたら――壁画の間でした。あ、でもね、今までの壁画とは違うの。もっと、ガチンコです。壁に隣り合うふたつの絵。あと、なぜか白く塗りつぶされているところ。なんか違和感。
ひとつの絵は、壁の真ん中に描かれていてかなり古そう。
かぼちゃの扮装をする男。これはきっと、アヴェロン家の方なのでしょう。無駄に顔がいいです。美形です。真面目な顔でかぼちゃを模したパンツと帽子を着用。かぼちゃ色のマントをはためかせつつ、片足を大きなかぼちゃの上へ、その膝に腕を置き、ポーズをとってます。無駄に色気があります。なんだこれ。
見た途端に爆笑してしまいました。
三人の嬉しそうな顔。そうだよね。この一族、そういう人たちですよね!笑いすぎて、お腹痛い。腹筋鍛えられる!
「……なんなんですか。これ」
ひぃひぃ息も絶え絶えとなりつつ、質問します。あ、これ呼ばわりしちゃった。
「これねぇ。五代前の先祖。うちは収穫祭に仮装をするのが伝統なのよ。っていうかみんな好きでやってるんだけどね」
「で、いつの間にか壁画デスマッチがはじまりまして」
「壁画デスマッチ??」
「生存枠が三枠しかないわけ」
意味がわからない説明になってきた!
「もう一つの生き残りがこちら、美女と野獣です」
と、セレスティーナさんはかぼちゃの右隣にある絵を指さします。
えーと、美女と野獣?美女は昔風の大きなカツラをかぶってる。ボンキュッボンの美女が扇子で口元を隠し、流し目。
で、後ろには野獣……じゃなくて、ゾンビじゃん。ちょっとかわいい。ウィンクして、投げキスしてるよ。
「そして、この白い部分は、今年の敗者の場所でした……」
「え、説明がなんか怖い!」
「ふふふふ……」
「怖い、怖い!」
「アハハ。怖がっていただけたら何より。毎年、テーマを決めて仮装してるの。でね、この白い部分に今年の仮装の絵が入るのよ」
「来年はまたどれを残すのかをみんなで投票して決めるの」
「今のところ、このかぼちゃと美女と野獣が二強」
「今年こそ、打倒二大巨頭!を目指してるの」
「……はぁ」
「今年のテーマは、”海賊と姫君”。ヒュリちゃんにも協力していただきますので、よろしくお願いします!」
「えっ、協力って?」
「アヴェロンのやつらの役作りはもう面白みがないので、新たな血をいれて心機一転よ!」
「新しい血って?一体何をするんですか!?」
「ニューヒーローとヒロインよ!」
「えー、意味がわからない!」
「わたしたちもやるけど、ヒュリちゃんには海賊と姫君になってもらいます。OK?」
「お、おーけー……」
はい。やはり、美女のお願いには逆らえないです。




