アヴェロン家の朝
翌朝、気持ちよい目覚め。
ふとんの中で、う〜んと手を伸ばして、左右交互に身体を伸ばす。
「ピー」という声に頭の上を見ると、ぐりちゃんがベッドに止まっていました。昨日そのまま、お泊りになったようです。やった!テオくんにぐりちゃん紹介できるじゃん!
「おはよー。ぐりちゃん。あのね、ぐりちゃんに会いたいって人たちがいるの。仲良くしてくれる?」
「ピー」
「ありがとー」ぐりちゃんって、やっぱり性格いい。
今日は朝練はなし。昨日、話がはずんでいろんなこと聞けなかったので、後で朝練してもよい場所とか確認しないとな。あと、外に出て走ってもいいし、庭の一角で薙刀振るのも許してくれるかな。
さてと、とベッドを降りて、まずはベランダに行き、朝の風景をぐりちゃんと見ていると、ノック。
「はい、どうぞ」と答えると、昨日のメイドさんが入ってきました。にっこり素敵な笑顔のお姉さんです。しまった。お名前を忘れてしまった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「お早いですが、よくお眠りになられましたか? 」
「ピ!」
「え?小鳥?」
お姉さんがびっくりしています。ちゃんと、ぐりちゃんも紹介しなければ。
「あ、紹介しますね。仲良くしている精霊なんです。ぐりちゃんといいます。仲良くしてあげてください」
そう、最近めんどくさいので精霊で紹介してます。
「ピ!」
「まぁ!なんてかわいらしい!こちらこそ、仲良くしていただけたら光栄です。メリーと申します。ぐりさま、どうぞよろしくお願いいたします」
あら、お姉さんの名前、確認できちゃった。朝からラッキー。でも、珍しいお名前でもないのにどうして覚えていないんだ自分!
メリーさんは丁寧にぐりちゃんにお辞儀をした後、わたしの方を振り返り、
「よろしければ朝のお召し替えのお手伝いをさせていただきます。」とおっしゃるので、びっくり。
いやいや、庶民は自分で着替えますよ。
「ありがとうございます。着替えのお手伝いは、大丈夫です。……あ、食堂まではご案内していただけますか?」
「ご遠慮なさらなくても……。お召し物は奥様よりお申し付けいただいておりますので……」といいながら、メリーさんはチェストを開きます。
見ると、いろいろな服が用意されています。なにこれ。すごくない?
「え?これは?」
「全てヒュリア様にご用意したものでございます」
「こんなに!?何故!?」
「奥様のご趣味といいますか……」
そういえば、リサさんが着せ替え人形になる、パンツだけ持っていけばいいって言ってたな!これか!
「まだお早いので、お好みのものをごゆっくりとお選びいただけますよ!」
「はぁ。じゃあ、選んでいただけたら……。とりあえず、顔洗ってきます。あ、そうだ、なんでわたしが起きてること、わかったんですか?」
「昨日はお疲れでしたでしょう? ゆっくりお休みいただきたくて、朝食の時間をお伝えしておりませんでした。その代わりに床を歩くとこちらにお知らせが届くように設定していたのでございますよ。ああ、もちろん、お食事はご都合に合わせてご用意できますので、ご心配なさらないでくださいね」
「お気遣いありがとうございます。……なんか、すごいですね。……顔洗ってきます」
やっぱ、なんか、尋常じゃない。すごいわ。
そして、洗面をしているうちに、白湯を用意してくれていたので、ありがたくいただきました。もしかして、白湯を最初に飲むこともリサさんから聞いてるのかしら。
毎日の習慣で白湯にレモンエッセンスを垂らして飲んでいると、「ああ、レモンが良い香りですね」とメリーさん。
「はい。小さい時からの習慣なんです。よろしければどうぞ」
と小びんを渡すとうれしそうに香りを楽しんでいるのを見て、わたしもうれしくなりました。
メリーさんが選んだ服はうすい草色のプリントワンピースに少し濃い青緑のクロップドベスト。ベストの朱色のパイピングが効いています。
昨日に引き続き、こんなにしていただいていいんでしょうかね。
冒険者になってからは、一に動きやすいこと、二に肌を守ること、三に汚れが目立たないこと、四に破れないこと、を条件に服を選んでいたからなぁ。
冒険者でもおしゃれな人はおしゃれなんだけどね。わたしはそこまでの余裕なし。
だから、昨日から久しぶりのおしゃれです。楽しい〜。
髪も梳かしていただき、まるでお嬢様のような扱いです。少し編み込みなどを入れましょうか?と言われましたが、遠慮しておきました。庶民なので、こういう扱いは慣れません。
なんというか、分不相応とでもいいますか。もっと雑で全然いいんですけど。
「メリーさん、わたし、お嬢様じゃないので、様づけいりません!」とお願いしましたが、
「ふふふ。マルクから聞いておりますよ。でも、だめです」
笑いながら、却下されてしまいました。残念。
メリーさんの先導のもと、ぐりちゃんもいっしょに食堂へ向かいます。あ、朝ごはんの場所はまた別なんですね。すごーい。
そして、朝にぴったり、朝日が差し込んでいる明るいお部屋です。
みなさん、だいたいそろっていらっしゃいましたが、やはり、リサさんは……まだ寝てますね。
「おはようございます」と挨拶をすると「おはよう」と口々にご挨拶いただけたものの、
あれ? みなさんが少しざわめいている?
「精霊?」
ああ、ぐりちゃんか!テオくん、目がキラキラです。
「ああ、昨日お話したぐりちゃんです。昨日の夜に遊びに来てくれたんです。ぐりちゃん、アヴェロン家のみなさまですよ。どうぞ、よろしくお願いします」
「ピ!」
さすが、ぐりちゃん、いいご挨拶です。
みなさん、ぞろぞろとぐりちゃんに挨拶するために集まってきます。みなさんのお目々がキラキラです。そして、テオくん、一番乗り。
「ぐりちゃん、テオくんです。仲良くしてね」というと、ぐりちゃんはテオくんの手のひらに乗り、顔を擦り付けた後、腕からトントンと肩に上がっていきます。テオくん、うれしそう。よかった。
二番手、三番手は少年組。ワクワクした顔で自己紹介をはじめ、ぐりちゃんもちゃんとご挨拶しています。
結局、みなさん、一人ずつぐりちゃんへ挨拶をしていました。そして、ぐりちゃんもちゃんと挨拶を返しています。
一通り挨拶が終わると、ぴこんと頭をさげ、「ピィ〜」と一声、その後、ふっと姿を消してしまいました。
「ヒュリをよろしく」とか多分、そんな感じのことを言ってたんだと思うけど。
……もしかして、これは保護者の挨拶なのでは。なに、王都ってそんな怖いところなの?
みなさんにはピィ〜としか聞こえてないと思うけど、お気持ちはありがたくいただくよ。
さてさて、落ち着いたところで朝ごはんです。
「朝食はいかがなさいますか?」と丁寧に確認され、目玉焼き、焼きトマト、ベーコン、サラダ、トースト、ヨーグルトとブルーベリーと紅茶を選びました。目玉焼きは半熟で。
もう、ここはカフェですか?みなさん、それぞれお好みのモーニングプレートです。すごいなー。
そして、ふと、まだ寝ているであろう師匠を思い出します。小さい頃からこんな生活してて、よく地面に転がってたなー。ほんと、すごいわ。あの人。いろんな意味で尊敬できる。
朝ごはんはあっという間に目の前に現れました。おいしそう。さっそく、手を合わせて
「いただきます」
「ヒュリちゃん、昨日も手を合わせていたわよね」
「ああ、食事の前の『いただきます』と食事の後の『ごちそうさまでした』はうちの習慣なんです。曽祖父が東の島国の出身で、そこの習慣なんだそうです。小さい頃からやっているので、もう無意識ですね。わたしは特に美味しいものをいただくと頭の下がり方が深くなるみたいです」
「わかりやすっ」
「素敵な習慣だね」
「ほんと」
「じゃあ、東の国で植物ハントしようよ〜」
「ヒュリちゃんを引き抜いたら、リサ激怒」
「血の雨が降る〜」
「降っちゃうか」
「降っちゃうね」
「うーん、じゃ、三人で行こうか」
「めげないねぇ」
「うん、意外にしつこいの」
「知ってる」
言いたい放題で笑っちゃいます。ゆっくり朝ごはんを楽しんでいると、少年組は「遅刻する!」と慌てだし、「週末、蚤の市に行こう」と手を振って、急ぎ足で席を立っていきました。
なんで週末かというと、キャンディスさんご一家は別のお家があるそうです。
一族みんながこちらのお屋敷というわけではないんですね。なるほど。
王都の蚤の市、どんなものがあるのか楽しみです。なにか変わったものがあるといいな。
朝ごはんもおいしくいただき、ごちそうさまです。
みなさんもわたしにつきあい、手を合わせて、「ごちそうさま」
やさしいなぁ。
旦那様方はそのままお仕事に、テオくんも幼年対象の習い事に行くそうでセレスティーナさんがお見送りにいきました。
残ったのはお母様とキャンディスさんとエルさん。
「ヒュリちゃん、今日はわたしたちに付き合ってもらってよいかしら?」とお母様。
「もちろんです」
「じゃあ、今日はまずうちの中を案内して、その後に王都観光なんてどお?セレスティーナもテオを送ったらすぐ戻ってくるから」
「ぜひ!」
「どこに行くの?」とエルさんがお母様に尋ねます。
「まぁ、まずは王道なところから攻めるわよ。聖堂と広場とリトウィン大橋でしょ。あと旧市街地もいいわね。一緒に行きたいところが沢山あるのよ」
「でも詰め込まないでゆっくりしましょう。まだ収穫祭まで時間があるもの」
お母様、アグレッシブ、キャンディスさんはおっとり、なんですね。
「カフェでお茶もしましょ!」
「いいわね!」
「じゃあ、今日はぼくは遠慮しよーっと。今度、僕のおすすめのとこ、案内するよ。ちょっとヘンな旅先案内。おもしろそうでしょ」
「えっ、すっごく興味あります!」
エルさん、さらっと発言。ヘンなとこって一体なに?めっちゃ興味ある。
「あ、そだ。王都のギルドにも顔出しといたほうがよくない?付き合おうか?」
「えーっ、いいんですか!ありがたいです!ぜひ!」
なんて気が利く人なんだ!すばらしいな!
セレスティーナさんが戻ってきて、お屋敷をご案内していただけることになりました。
美女三人の案内なんて、豪華豪華。
昨日はテンパっていて、お部屋と食堂くらいしか記憶にないので楽しみです。
そうなの。わたし、考えてみたら由緒正しいお屋敷って初めてなのです。庶民生まれ、庶民育ちですからね。
「まずは最初からがいいかしらね。昨日は門から入って前庭通って本館前にきたでしょ。本館一階でお茶して、客用離れにご案内したのよ。離れの奥に研究棟と使用人棟があってね」
「中庭と温室、菜園、果樹園、薬草園、東屋がそのまた奥ね」
「そして、最後に裏庭ね」
「果樹園も!あ、天鈴果もとれるんですもんね。いいなぁ。奥に行くほどプライベートな感じなんですね」
話をしながら歩いているうちに、本館の玄関前へ着きました。昨日と逆戻り。うん。見覚えがある。えーと、このお屋敷は品があるけど、大人しくはない。一言で言うとセンスがいい、です。
「ヒュリちゃん、昨日はいっぱいいっぱいであんまり周りを見てなかったでしょう?」
キャンディスさんの優しいツッコミが入りました。
「うっ。お見通しですね。なんであんなに焦っていたのか、自分でも謎ですが、おっしゃるとおりです」
「ふふふ。そうだと思った。じゃあ、復習と予習です。まず本館は地下一階で地上三階建てなの」
「二階、三階は家族が日常使うところってとこかしらね。図書室も二階にあるわよ」
「地下は倉庫、食料庫ね」
お母様とセレスティーナさんも続いて教えてくださいます。
「地下も!すごい!」
「ふふふ。でもね、我が一族のおすすめは二階、三階なのよ」
キャンディスさんがいたずらっぽく微笑みます。
「気に入ってくれるとうれしいわ」
セレスティーナさんはウィンク。
「ではでは、姫さま、ご案内いたしますね」
お母様からまさかの姫呼び。
違う世界の扉が開きそうです。




