アヴェロン家へようこそ
ゆったりとお風呂に入り、ご用意いただいた服に着替え、お迎えにきてくれたメイドさんに先導されて夕食に向かいます。
ほんとにストンと憑き物が落ちた感じ。なんであんなにテンパっていたんだろ?我ながら不思議だ。
そして、ご用意いただいた服がとってもかわいい。立襟、長袖のくるぶしまであるワンピース。上半身はクリーム色、袖とスカートがピンク。お花とか葉っぱの模様がアクセント。ウェストには緑色のリボン。
生地の手触りも気持ちいい。触ると眠くなっちゃいそうななめらかさなのだ。
楽しくなって、ウキウキしながらメイドさんの後をついていく。ついついキョロキョロと周りをみてしまう。緊張していた時は全然見ちゃいなかったけど、とても素敵なお宅でした。
豪奢ではない、シンプルでセンスを感じさせるインテリア。ふと貴族になるとめんどくさくなるから断ったというマルクさんのお話を思い出した。うまくいえないけど、そういう一族の気質と通じるものを感じるなぁ。すごく好きかも。
食堂に着くとすでにみなさまお集まりでしたが、席に座るわけではなく立ち話をしている。あ、さっきより人数が増えてる。そっか、旦那様たちと従兄さんたちですね。
ぺこりと会釈をしている間に、
「ヒュリちゃん!かわいい〜」
「やっぱり女の子ってたのしい〜」
「ピンクがよく似合うわぁ」
……といきなり美女たちに褒められました。
「ありがとうございます?」
「おー、スカートはいてるの初めて見たかもなー」と師匠。
なんですか、その男子っぽい発言は。
「おいおい、女性陣だけ独占反対!」と笑いながら、男性参戦。深い低い声がかっこいい。
「はじめまして。キャンディの夫のアルフ・ヴォルクです。こっちが息子たち」
「ヒュリア・カーディルです。はじめまして。お世話になります」と頭を下げた。
ああ、息子さんたちがマルクさんがいっていた同じ年代の男の子か。
「ジルです。よろしくねー。僕はヒュリちゃんの一つ上だよ」
「ルークです。よろしく、ヒュリちゃん。同い年だよ」
ふむふむ。ジルさんはえんじ色の髪、青目でガッチリ、ルークさんは黒髪、緑目、細身筋肉質とみた。キャンディスさんとアルフさん、それぞれの特徴が入り混じっている感じだ。
「そして、ぼくがセレスティーナの旦那をやってるピーターです。よろしくね」
おお、なんか自由人来た!
「ヒュリア・カーディルです。どうぞよろしくお願いします」
もう全部まとめて挨拶だ。
……と、
「ヒュリちゃん、ピンクかわいい〜」
テオくん、登場。最後に締めてくれました。かわいいな!
テオくんにほっこりしていたら、「みんな、そろったからお食事はじめましょうか」とお母様。
「はーい、エルが遅刻なので、座席変えますよ〜。はい、まずピーターはここね」とお母様がどんどんと席を指示していく。おっとりとしたお母様と思ったけど、てきぱきしていらっしゃる。
お父様からも「ほら、みんな、ママの言う事聞いて。座って座って」とお声がけもあり、お母様からは「ヒュリちゃんはこっちね」と席を勧めてくれました。
お母様とリサさんの間の席だ。なんか、ほっ。
お兄さまを待たなくていいの?という疑問が顔にでていたらしく、お母様は笑いながら教えてくれた。
「エルヴィンはねぇ、冒険者なのよ。どうせ遅れてくるから始めちゃうわ」
「え!冒険者なんですか!?」
「植物ハンターなの。だから冒険者だと何かと便利なのよね」
びっくり。そんな情報全然知らなかった!
「わたしも昔、植物ハンターをしてたからよくわかるわ」
「えーーーっ、お母様も?わたしの先輩じゃないですか!」
「びっくりしたか?」リサさんはにやにや。
アヴェロン家、恐るべし。深すぎる。
「まぁ、冒険者と遅刻はなんの関係もないけどね。大体、エルは冒険者っていうより、旅人って感じよね〜。ふらっとどっか行っちゃうし」
セレスティーナさんがそういうと、ピーターさんも笑いながら付け加えてくる。
「ヒュリちゃん、ここの家族、ほんとにおもしろいよ」
「あら、あなたに変人に囲まれたわたしの苦労がわかるのかしら?」
「わかるわかる。でも、文句いいながらも好きでしょ」
うん。ピーターさんもかなりおもしろそうな方ですよね!
「さて、みんな、用意はいいね?では、あらためて。ヒュリちゃん、アヴェロン家へようこそ。歓迎するよ。リサもおかえり!では、新しい出会いを祝して乾杯!」というお父様のお言葉にみんなで乾杯。
「かんぱ〜い!」「ようこそ!」「よろしくね」と口々にわたしに向かってグラスを上げて挨拶してくれる。
本当にお兄様のエルヴィンさんの到着を待たずにお食事がはじまりました。みんな、全く気にしていない。まぁ、そういうとこなんだな。わかってきた。
最初は、自家製チーズとトマトのハーブオイルサラダと葉物野菜とナッツのサラダ。
この自家製チーズが、ミルキーでツルンプルンでとってもおいしい。トマトとハーブオイルといっしょにいただいても単品で食べてもどちらもおいしい!丼いっぱい食べれそうです。いえ、食べたい。これ、自家製なの?作るの難しいのかな。おうちでも食べたい。
サラダは金色のツタの模様がきれいな白いお皿で供されて、鮮やかな緑が金色の模様でより引き立っている。素敵。
そして、葉物野菜はシャクシャク、ナッツが香ばしく歯ごたえあり、ドレッシングはフルーティ。これもおいし〜い。
「お気に召したかしら?」とお母様が微笑みながら聞いてくる。
「はい。とってもおいしいです!自家製チーズなんですね。もう作り方を教えていただきたいくらいです」と答える。
「ヒュリ、本気だな。ヒュリはまめに料理するんだよ」
「だから、リサちゃん、元気そうなのね」
「それはあるな。おまけに家に気に入られてるからさ。朝練とかでこいつ朝早いんだよ。こっちはおかげで家に強制的に起こされて、ちゃんと朝飯食ってるんだ」
「まぁぁ、すてき!」
「なになに、朝練してるの?」
「大したことはしていないです。身体がなまらないように、朝ちょっと走って、薙刀を振るうくらいです」
「あれやるじゃん。橋の欄干走って飛び移るとか、壁駆け上がってくるっと回転するとか」
「えー、なになに、すごいじゃん」
「料理もして薙刀も?」
「見たい!」
「かわいいだけじゃないのね!」
「かっこいい!」
「じゃあ、海賊ぴったりじゃない!」
「うわぁ、いいねぇ」
リサさんの言葉にすごい反響。海賊ぴったりってなんかよくわからないフレーズがでてきたぞ。
「いや、ほんとに大したことはしてないです。もっとすごい人たくさんいますから」
「でもさ、ばあちゃんに護身術とかも習ってたんだろ?」
リサさん、ぶっこんでくる。
「えー、護身術知りたい!」
「どんなことするの?」
「あ、これはけっこう知っていて損はないかもです。後ろから抱きつかれた時とか首を締められた時の外し方とか」
「えー、教えてほしーい!」
一斉に声があがった。美女の他、ジルさん、ルークさん、ピーターさんも反応するんかい。
「簡単なことしかできないですけど、いつでも。祖母はちゃんと声を出すこと。声は落ち着いた声で、間違っても『キャー』とか怖がった声を出しちゃだめ、毅然とした態度が大事と言ってました。あと、あくまでも逃げる時間を作るためのものだから、戦って勝とうとしちゃだめっていわれました」
「なるほどー」
「納得」
「ためになる」
「まずは心構えね」
「いや〜、役に立つわ〜」
「おばあちゃん、かっこいいね」
「はい。自慢のおばあちゃんなんです」
「いいだろ、うちの弟子」
なぜかリサさんが得意そうに胸を張っているが、それはちょっとうれしいな。
でも、全然弟子としての話じゃないんだけどね。
話が一段落ついたところで、ポタージュがきました。かぼちゃと栗のポタージュ。秋のご馳走です。
こくんと一口。ゆっくりと味わいながらいただきます。自然な甘さのやさしい味。
これもとってもおいしいです。
「おいしいね」
「おいしいね」
テオくんが話しかけてきます。一生懸命にスプーンでポタージュを口に運んでいる姿がかわいい。四才か。
リアちゃんの1つ上だな、とヴァリセアで子守をした子を思い出す。リアちゃん、ぐりちゃんと会ってすごい喜んでたんだよね。興奮してほっぺたがまっかっかになってたっけ。
テオくんも、ぐりちゃんと会ったら喜んでくれそう。そのうち、ぐりちゃんを紹介しよう。
密かにそんなことを思いながら、味わっているうちに、お皿はすっかりきれいになってしまいました。
それを見計らっていたように、あ、見計らってたのか、次のお料理はお魚の香草焼きです。
白身のお魚にハーブの緑が映えています。いい香り。ナイフを入れると皮がぱりっと身はふわっとしています。焼き目は香ばしく、身はやわらかく、味付けが絶妙。こういうシンプルな料理って一番むずかしいんだよね。味付けとか火加減とか。
と、味わっていると、「コンコン」とノックする音とともに「こんばんは〜」という声がしました。
声がした方をみると、窓に寄っかかっている美形が一人。あ、これが旅人か!
……なんていうか、クセあり美形って寄っかかって登場するルールがあるの?
すっごいカーディを思い出しちゃうんだけど。
「遅いよー」と皆からツッコミをうけている。
「ごめんごめん。でもちゃんと来たじゃん。あ、ヒュリちゃん、はじめまして」
そのまま窓から中に入ろうとしているところに、すかさずお母様から一声。
「エル、窓は入口じゃありませんよ。ちゃんと扉から出入りして下さいな」
「あ、やっぱだめ?」
「だめです」
「はいはい。申し訳ありません。回ってきまーす」と手を振りながら行っちゃった。
さすが、旅人。ここにも自由人がいる。
「相変わらずだね〜、エル兄」
「ほんと、誰に似たのかしらねぇ」
「思い当たる人が沢山いすぎてわかんないね」
あ、そうなんだ。まぁ、なんとなくそれはわかる。
「お待たせしました〜」とエルさん再登場です。
やっぱり、リサさんに似ています。サラサラロングヘアの美形です。植物ハンターとか冒険者というより、なんだろ、物語に出てくる騎士様っぽいです。乙女の理想の騎士様って感じ。
……見た目は。実際は窓から出入りしようとするけど。
エルさんはにっこりと笑いながら、ご挨拶をしてくれました。
うわぁ、この笑顔に騙される女子、多そうだなぁ。
「ヒュリちゃん、はじめまして。遅くなってごめんね。エルヴィンです。エルって呼んでね。そして、ようこそ、我が家へ」
「はじめまして。ヒュリア・カーディルです。今日からしばらくよろしくお願いいたします」
「ヒュリちゃんは冒険者なんでしょ。いろいろお話聞きたいなぁ」
「まだまだ駆け出しです。こちらこそお話うかがいたいところです」
「じゃ、後でお互いに情報交換しよっか」
「エル兄だけ抜け駆けはさせないよ」
「朝練と護身術みせてもらうんだから」
「え、なにそれ。ヒュリちゃんの?」
「そうだよ」
「へー。ますます、お話聞きたくなったな」
「とりあえず、席に座りなさい。もうお魚まで行っちゃったわよ。最初からにする?」
「いや、みんなと一緒で大丈夫。パイまだでしょ。パイは外せないからね」
「これからグラニテよ。今回は天鈴果のグラニテだから外してないわよ」
「あ、天鈴果のグラニテなの?やった!お気に入りなんだ」
「てんれいか?」とつぶやくと、エルさんが答えてくれた。
「東の国の果物なんだ。天鈴という女神が授けたものという言い伝えがあってね。東から苗木を持ち帰って、ここの果樹園で育ててもらってるんだよ」
「え!天鈴様の!?」
「あ、天鈴様知ってるの?珍しいね」
「はい!ギルドに登録する時に立ち寄った街にお社があって。お社にお参りしました」
「そりゃあ、いいご縁をいただいたね。天鈴様はご縁をいただくとお守りしてくれるやさしい女神様らしいよ」
「はい。お社もそんな感じでした」
「天鈴果はピンク色のお花が一斉に咲いてきれいだし、その後の果実もきれいなの。ふわっといい香りがするのよ」
「エルのおかげで毎年楽しめているんだよ」
「植物ハンターって素敵なお仕事ですね」
「うれしいこといってくれるねぇ。今度一緒に探しに行く?」
そんなおしゃべりの中、グラニテが配られます。ふわっと爽やかで甘い香り。果肉が入っているのか少しとろみがあって、口に入れると、ふわりと溶けてしまいます。
おいしいけど、もっと味わいたい!これも丼いっぱい食べれるやつです。
「楽しそうですね!」
「楽しいよぉ。今度行こうね!でさ、みんなは聞いてるんだろうけど、そもそもリサとはどうやって知り合ったの?」
「あ」
「あ」
「あ」
今、みんなで気が付きました。
全員がきれいに「あ」の口になってます。もちろん、わたしも。
そういえば、そこら辺、全然話してませんでしたね!
「え、なに、その顔。もしかして聞いてなかったの?」
「すっかり」
「忘れてた」
「なんか初めて会った気がしなくなってきてて」
「ヒュリちゃんの話、おもしろくてさ」
「氷もっとほしい!」
「テオ、お腹痛くなっちゃうよ」
一斉にみんなが話し始めます。テオくん、グラニテほしいか。うん、おいしいもんね。わたしもほしいよ。
わたしがテオくんに心のなかで賛同していると、リサさんが話し出しました。
「まぁ、最初はヒュリに拾われたって感じかなぁ〜」と普通に話してます。
――流石です。師匠。
もう、見栄とかなんとか、全然ないんですね。喋っちゃうんだ。
「ちょっと気になることがあると聞いて現地調査したんだけど、全然わからなくてさ、腹も減ったし、めんどくせぇと思って地面に寝っ転がってたら、手を踏まれてさ。発見されたわけ」
うわ。正直すぎて、手を踏んだことまで報告してますよ、この人!
「で、昼飯ご馳走になって、その後楽しく三人でピクニックして別れたのが最初だよな」
「そうですね。一言目にうっせぇと言われた時はどんなやつかと思いましたけど、その後楽しくランチしましたね」
「ヒュリちゃん、地味に命の恩人じゃん…」
「三人て?あと一人は?」
「あー、三人ていうより一羽と二人?ぐりっていう小鳥の精霊がヒュリのツレでそいつが行き倒れの我を見つけたってわけだ」
「なに、精霊〜!?」
「ヒュリちゃん、どんだけ引き出し持ってんの?」
「あんたもよく師匠やってるわね……」
「ことり!見たい!」
「うん、今度、ぐりちゃんが来たら、テオくんのところに行くね」
「うん!」
「え、僕も会いたい!」
「俺も!」
お、少年組も参加ですか。確かに、わたしは身近だけど、精霊っていうとなんかこう特別感あるよね。
リサさんは大人組への説明を続けています。
「……ま、それで、一旦は別れたんだが、この前のイナゴ騒動で再会して、今に至るって感じか」
うわ、途中でめんどくさくなってる。めちゃくちゃ省略してる!
「天鈴さまのお導きだね〜」
「ヒュリちゃんに足を向けて寝れないわ」
「……リサ、あんた、この出会いに感謝しなさいよ」
「ヒュリちゃん、こんなのでいいの!?」
「まぁまぁ、リサちゃんも業界ではすごいんだから……」
すごい盛り上がってる。リサさん、平然としている。ほんと、ぶれないわ、この人。
「自由にやらせてもらってるので、修行な感じがあんまりしないくらい、毎日楽しくしてますよ」
いや、ほんとに。楽しいからご心配なくです。もしかしたら、修行していないかもしれない。
「そうなの?無理しないで嫌ならここに来てね!」
「はい!」
「それより、植物ハント行こうよ〜」
エルさんもぶれませんね。
「はーい。みなさん、料理長のパイ料理が来ましたよ〜。今日は「庭園仕立てのパイ」ですよ〜」
お母様が締めます。さすがです。
しずしずと眼の前に置かれたお皿を見てびっくり!思ってたのと違う!
平たいパイ生地を丸いリング状にして、お皿の上に立ててあり、リングの三分の一くらいに粗挽きのお肉がきっちり盛られています。そして、その上にハーブ、小さな白いキノコ、赤いスグリがちょこんと乗っています。お肉が土でハーブが草むらなんですね。白いきのことスグリの赤がアクセント。
うわ〜、こんなの初めてみた!
植木鉢を縦にスライスしたみたいな感じ……ああ、植木鉢っていうより籠かな。
パイ生地の網目模様がすごいです。籠で言う取っ手の継ぎ目にあたるところにどんぐりがパイで作ってあり、リングの一番上には葉っぱの形のパイ。
そして、お皿には、ソースが二種。赤いソースと白いソースが美しい線を描き、その横に赤いベリーが三個ほど、あと白いソースが丸くポンと絞られています。
なに、これ、綺麗!すごい!楽しい!こんなお料理初めてみた!まさに秋のご馳走だ!
「いかが?うちの料理長のパイは絶品なのよ。土のところはお肉とキノコね。もう手でパイを折って、地面のっけて食べちゃって」
「こんなお料理初めてみました!すごく素敵!崩したくないですね!」
「そう言わず、思いっきり崩しちゃって。ベリーは潰すとソースになるの。単品ソースでもよし、白と混ぜても良し。自分でいろいろ試してみてね」
「テオは?」
あ、テオくんが不満そうですが、もちろん時間をおかず、ちゃんとお料理は届きます。
「お待たせしました。特別なお料理ですよ〜」と係のお兄さんがうやうやしく置いたお料理に目を輝かせるところがめちゃくちゃかわいいです。
「見て!リスさんがいる!」
「リスのポットパイですよ。テオ様だけの特別料理です」
「わぁ〜。ありがとう!」
「リスさん、いいなぁ〜」
「うらやましいなぁ〜」
うまい。みんなの声に、テオくんはすっかりご機嫌です。ほんと、かわいいな!
きれいにリスさんを残して蓋を取ろうとスプーン片手にがんばってます。あっついからお父さんが器を押さえて、お母さんにリスさん救出を手伝ってもらってる。家族総出でがんばってます。
なごむわ。かわいいわ。見てるだけでも飽きないわ。ふと横をみると、師匠は気にせず、籠の取っ手を味わっていました。うん。ぶれない人だ。
わたしも師匠を見習って、籠の取っ手をぱきっと折ります。うわ、サクサク!まずは何もつけずに一口。うーん、バターの香りがたまりません。詰め物のお肉も一口。うんまいです。
えーと、今度はソースつけようかな。いろんな食べ方があって、楽しい。この白いソースは何?と思って、味を見ると、お芋とクリーム?おいしい。ちょっとネットリした食感が面白いです。
「あ、その白いソースは白芋だよ」
「お芋!」
「そう、その芋もかつて誰かが別の地域から持ってきたものなんだよ。ロマンだよねぇ」
「そうなんですか。そういう風に聞くと、より美味しく感じますね」
「ヒュリちゃん、見どころあるじゃない。いいよ〜。未知のモノを探す旅」
「まだ修行中なんだからな。変な引き抜きやめろ」
「そうよ。リサの一番弟子なんだから。貴重な人材なんだからね!」
「ヒュリちゃん、人気者だ」
「スカウトだ」
「アイドルじゃーん」
お芋ひとつで、いろんなセリフが飛び交っています。お芋からアイドル、飛躍がすごくて笑います。
パイ料理は絶品でした。取っ手のどんぐりは何もつけずにそれだけで楽しみます。ソースをどう組み合わせるか考えるのも楽しい。ゆっくりと味わって食べていたつもりでしたが、あっという間にお皿が空になりました。残念。お腹がいっぱいだけど、目がほしい。だって、おいしいんだもの!
ふぅ〜、と満足のため息を聞きつけて、
「まだデザートがあるからね」とお父様に笑いながら言われました。
「大丈夫よ。女の子は甘いものは別腹なんです。ね?」とお母様。
「もちろんです!」力強く返答しました。どんとこいです。
そして、最後の一皿をゆっくり味わうために、心を落ち着けます。
心頭滅却。無念無想。明鏡止水。あれ、ちょっと違うか。そんなわたしの前に置かれたお皿はやはりとてもきれいでした。
デザートは三種の盛り合わせ。ケーキはルバーブを使ったもの。トップにはピンクのルバーブがまっすぐ整然と並んでいます。ツヤツヤしたきれいなピンク色に小さな緑が散らしてあるのが素敵です。甘酸っぱいルバーブとヨーグルトムースの組み合わせは間違いなし。あ、ちょっと色合いが今のわたしのドレスに似ている感じです。
あと、オレンジ風味のホワイトチョコの小枝のような短めのスティックが数本。薄くのばしたホワイトチョコをくるりと巻いてあって、繊細な口当たり。口の中で柔らかく溶けて、オレンジの香りがふわっと広がります。ちょっとオレンジピールが入っているのがポイントです。
そして、二種のお菓子の傍らに丸いカルダモンアイスの小さなボールがみっつ。口に入れて噛むと薄い氷膜がパリッと砕けて、ふわっとバニラとカルダモンの香りが広がります。
満足。いえ、大満足。全てのお料理が最高に美味しかったです。
手を合わせて深々と頭をさげて、心から感謝。
ご馳走様でした!
バフッ。ベッドに再び倒れ込みます。でも今回は仰向けなところがポイントです。
「今日は疲れたでしょ」と女性陣からお気遣いいただき、少年組からは残念そうな「また明日ね!」という念押しを聞きながら、わたしは早めに部屋へ戻ったところです。
あ〜、楽しかった。美味しかった!我ながら笑っちゃうくらい、リラックスしてます。
そして、天蓋付きのベッドって楽しい。
デザートの後は奥の部屋に移動して、食後のコーヒーや紅茶をそれぞれ好きなものをいただきました。
奥のお部屋は大の大人が何人も寝転がれるほどのソファがあり、真ん中に大きなテーブル。勝手気ままに過ごせる感じです。クッションもふんだんに置いてあり、リサさんやエルさんはすでに寝っ転がっていました。あの二人、似てる。まぁ、兄妹だからな。
しばらくベッドでゴロゴロしていたけれど、「夜景が綺麗だから楽しんでね」という言葉を思い出し、えいやっと起き上がり、ベランダに向かい、外に出ました。街の光がキラキラしていてとても綺麗です。普段なかなか見られないし、これは確かに飽きないかも。ひんやりとした夜の空気が心地よいです。
今朝からの流れを考えると、やっぱり不思議。というか、考えてみると冒険者になってから、リサさんの弟子になって、今、アヴェロン家で王都の夜景を見ているなんて数か月前には想像もしていなかったもんね。
「ピィ」
しみじみしていると、いつの間にかぐりちゃん。
「ぐりちゃん!来てくれたの!ここ、リサさんの実家だよ。夜景綺麗だねぇ」
「ピィ〜…」
その後、しばらく二人で夜景を飽きずに眺めていました。




