はじめましてはテンパりまくり
「ほら、ヒュリちゃん、王都の塔がみえてきましたよ」とマルクさんが指さしてくれる。
ようやっと、高い塔らしき影が見えてきた。うっすらと見える青い影。王都は塔の街としても知られている。最初に見る王都のシンボルだ。
もう爆笑したマルクさんはすっかりヒュリ様と呼ぶ気力がなくなったようだ。
一応、公私混同せず、必要な時はヒュリ様と呼びますね、と厳かに宣言されました。
こちらとしても、ヒュリ様という器ではないので、異論はありません。
だって、もともと駆け出しの冒険者で下っ端の下っ端です。リサさんの弟子になっただけで、偉くもなんともないからね。
「さすが王都。大きい!あとどれくらいで着きますか?」
「あと、一時間くらいかな。みなさん、到着を楽しみにお待ちしていますよ」
「ドキドキしますね。……そういえばご家族の皆様のことを伺うのをスッポ抜けていました!どんな方たちなんですか?」
「そうですねぇ、お待ちになっているのは、ご両親、お姉様ご夫婦、お兄様、お姉様のお子様、叔母様ご夫婦と従兄弟様お二人ですね」
聞きながら、指を折って数えて、人数の多さに緊張する。
「え、そんなに?十人も!?」
「みなさん、興味津津なんですよ。だって、あのリサ様のはじめてのお弟子さんなんですから」
「うわぁ。勝手にハードルが上がっていく。こわいわー」
「ふふふ。大丈夫ですよ。いつもの調子で問題なしです。大体、まずは質問に答えるだけで十分です。お姉様のお子様は四才の男の子。従兄弟様方はヒュリちゃんと同じ年代の男の子ですよ」
「男の子ばっかりなんですね」
「そうですね、ヒュリちゃんと同じ位の年代の女の子はいませんねぇ」
「ドキドキしてきました!」
「わたしはちょっと楽しみですよ」
「え、なんでマルクさんが楽しみなの?」
「なんででしょうねぇ」とマルクさんはいたずらっぽい顔でふふっと笑い、
「ほら、また別の塔が見えてきましたよ。あの塔は……」と徐々に姿を現す建物についていろいろと説明をしてくれたのだった。
一度、塔が見えだすと、どんどん王都がくっきりと見えてくる。遠くに塔がいくつもそびえ立っているのが見える。昔の城塞を利用して新しく塔として作り直したものも多いらしい。あと、高台に見える建物は、やはり王宮だった。
そして、王都に入ろうとする商隊やら、冒険者と思しきパーティや騎士さんたちが続々と連なっている。この列に並ぶのか、と思っていたら、マルクさんは列に向かわず、別の方向へと馬車を進ませた。前方をみると、別の衛兵さんたちが立つ入口があった。いくつかの馬車も同じ方向に向かっている。
衛兵さんたちは姿勢を正して立っている。マルクさんが軽く会釈すると、衛兵さんたちも慣れた様子で会釈を返す。わたしもつられてぺこりと頭を下げた。
と、マルクさんは通行証を提示することもなく、そのまま門を通り過ぎ、街の中に入っていく。
あれ、そのまま入っちゃっていいんだ。
「マルクさん、通行証とか見せないんですね」
「一般と貴族、王宮関係と入口が違うんですよ。アヴェロン家は貴族ではないですが、同格の扱いをいただいているんです」
「なるほど」
そんなことを聞くと、今更ながらドキドキしてくる。
街の中に入ると、一気に人も馬車も多くなった。わかってたけど、やっぱり圧倒される。ちょっと前まで緑の平原の一本道を進んでいたのにね。おもしろいなぁ。
「王都の名所にお連れしたいところですが、皆様お待ちなのでこのままアヴェロンへ向かいますね。中に戻られますか?」
「いえ、このままでいいです。リサさん、熟睡中ですよね」
「はい。前も到着するまでぐっすりお眠りでしたから……。ヒュリちゃんはあと少し、がんばってくださいね」
「はい!ここに座ってるだけですけどね。がんばります」
そう言ったら、マルクさんはフフッと笑ってから、前方を指差し
「あそこに王城が見えるでしょう?アヴェロン家はそこの手前なんですよ」と教えてくれたのだった。
王都リトウィンは塔の街といわれるだけあり、本当に塔が多い。城壁には少し丸みを帯びた赤い三角屋根の塔がくっついている。昔の塔を転用して見張り台などに使われているそうだ。ちょっとお話にでてきそうで、可愛らしい。
街の奥に進むにつれて、壮麗な塔が多くなる。そういった様々な塔のさらに上の高台に王宮がある。あそこがガレンが今住んでいるところなのか。すごいなぁ。
天馬が飛んでたりして、なんて空を探してみたが、飛ぶ鳥さえ見えず。まぁ、まだ明るいけど、もうすぐ夕方になるし、そろそろねぐらにいる時間なのかな。
どんどんと馬車は進んでいき、街を通り抜け、落ち着いた通りからゆるやかな坂道を進んで、高台へと向かっていった。王城ほどではないが、見晴らしの良い場所だ。緊張する。口数が少なくなったところに、やがて大きな門が見えてきた。
「着きましたよ」
マルクさんの声とともに馬車は門を抜け、バラが咲き乱れる広い庭を進み、大きな館の正面で止まった。とうとう、着いた。
なぜか建物の前にはすでに執事さんやメイドさんたちが並び、こちらを待ち構えていた。壮観だ。
そして、今更ながら、己の失敗に気付いた。
やっちゃった!馬車の中にいたら、リサさんの後ろについて外に出れたのに!
今、思いっきり御者台で皆さんの注目を浴びちゃったじゃん!
流石にみなさん、こちらを注目したのは一瞬、あとは凝視することはせず、目を伏せ、佇んでいらっしゃいますが、失敗した!完全に失敗した!
マルクさんが馬車を降り、わたしに手を貸してくれたので、何食わぬ顔をして馬車を降りると、ぺこりと頭をさげ、そのままスススとマルクさんの横に移動する。
マルクさんは扉の前でリサさんにお声がけ、到着を知らせています。
よし!リサさんが降りてきたら、後ろを死守だ。間違えないぞ。
扉が開いて、リサさんが身体を伸ばしながら、あくびしながら出てくる。
「おー、よく寝た〜。ありがとな〜」
扉を締めるふりをして、後ろについた。
よし、うまくいった!成功だ。
「あ、ヒュリ様、お荷物を」とマルクさんが再び扉を開けて、わたしの鞄を取り出す。
あーーー、忘れてた!受け取ろうとすると、「いえ」と近づいてきた執事さんに渡すじゃありませんか。
あ〜〜、と声にならない心の叫び声を上げたけれども、誰も気付かず、そんなことをしているうちにリサさんはさっさと館の方に向かっていた。そう、ご家族がお迎えにいらしているではありませんか!
「うーーっす」敬礼もどきの挨拶をしているリサさん。
もう、やだ、この師匠、こっち気にせず、どんどん歩いてる。置いてかれた!
マルクさん!と振り向くと、「馬車をまわしてきますね。ヒュリ様はどうぞ、みなさまのところへ」とさわやかに退場してしまわれました。
え、えーーーーーー!一人アウェイじゃん!
マルクさんについていきたいところをぐっと堪え、振り返ると、優しそうな執事さんが「ヒュリア様、こちらへ」と言ってくれました。この方、私のこと、ずっと見守ってくれてたんですね。はずかしい!
一人ワタワタしていると、リサさんが振り返り「ヒュリー!こっちこーい」と雑に呼んでくれました。
執事さんに会釈して、「お先に失礼しますっ!」
ちょっと声が上ずっていたけどしょうがない。お先に失礼しますってなんなんだよ、と自分で突っ込みながら、師匠のもとに小走りで向かいます。
小走り、スササササ……と階段も急いであがる。繊細さを理解しない人とはいえ、師匠。今は師匠の背後が心の平安の場所。早く行かないと!
「お待たせしましたっ」
短い距離なのになぜか息を切らしているわたし。うわ、ご家族が近いです。とりあえず、ペコリ。
年配の男性はお父様でしょうか。女性は三名、お母様、おばさま、お姉様と思われます。みんなリサさんに似てる。ちょっとお年を召したリサさん、深い紅の髪のリサさん、ゆるい巻き毛のリサさんです。あと、可愛い男の子。
そして、リサさんはこちらの緊張を全く気にも留めず、ご家族を指差す。
「うちの家族。父、母、おば、姉、この坊主は姉の子。あ、こいつ、ヒュリね。よろしく頼むわ」
……流石です、師匠。ここに心の平安なんてなかった。まったく役に立ちませんでした。
「あんたね、もうちょっとなんかあるでしょうがっ!」
あ、巻き毛の美女がツッコミを入れてくれた!
「え、十分だろ。後はお互いに名乗ればいいじゃん」
「本当よ。ヒュリちゃん、困ってるじゃない」
「リサは相変わらずだなぁ」
「そうよ、こんなんだと、そのうち弟子に逃げられるわよ!」
「はい、テオくんはおばちゃんとご挨拶〜。ヒュリちゃん、こんにちは〜」
「こんにちはー。でしってなーに」
一気にきた!
えーと、今、自己紹介しちゃえばいいか。と息を吸ったら、「ま、こんなところじゃなんだし、中に入って」といわれ、ちびっこに「いっしょー」と手を取られ、奥に連れて行かれています。
あ、執事さんとかメイドさんにも挨拶せねば!と振り返り、会釈するのが精一杯でした。
……つ、疲れる。
コポポポポ……ポットからお茶を注ぐ音が疲れた心と頭に心地よく響きます。
客間らしきところに通されて、お茶をご馳走になるところです。
「はい、ヒュリちゃん、どうぞ」
巻き毛の美女が手ずからお茶を入れてくださいました。
「ありがとうございます。いただきます」
……ってまだ自己紹介してないんだよ。
もう、女は度胸だ。早くすませよ。
「あの……申し遅れましたが、わたくし、ヒュリア・カーディルと申します。この度はお招きありがとうございました」
はー、一気に言ったぞ。もうこれで満足だ。思い残すことはない。と、無意識にお茶をごくり。
あ、ヤバ。気が楽になって、お茶飲んじゃったよ。返事を待つべきだった!
口元にカップを当てたまま固まっているわたしを見て、みなさんは優しく微笑んでくれた。
「そんなに固くならなくて大丈夫だよ。あらためて自己紹介しようかね。リサの父のアルヴィン・オルディス・アヴェロンです。よろしくね」とイケオジのお父様。
「あのリサの紹介だと、こまっちゃうわよね。気が利かない子でごめんなさいね。リサの母のミレイアです」と優雅なお母様。
「おばのキャンディスよ。もう疲れちゃったでしょ」と豪華な叔母様。
「姉のセレスティーナです。ほんとに気が利かない師匠だけど、大丈夫?あ、おちびはテオね」と端麗なお姉様。
「テオです」うん。美少年。
「このお茶、うまいなー」
師匠です。ぶれないね。わたしは味がわからなかったよ。
「ほら、こういうやつだから気にするだけ、無駄よ」
さすがお姉様、わかってらっしゃる。
「もうね、こういうのが家族だから。みんな雑なのよ。ヒュリちゃんも慣れてね」
「はい。よろしくお願いします」
はぁぁ、いい人たちだ。なんか一気に力がぬけました。
バフッ。あ〜〜、疲れた〜。案内された部屋のベッドにダイビング。しばらくそのままでいた。
ふわぁ〜、落ち着く〜。
まずは長旅の疲れをお風呂に入って洗い流して、夕食までゆっくりしてね、とお気遣いいただきました。
ありがたいです。
いや〜、完全に気疲れ。想定外続きでテンパりまくりだった。
でも、考えてみたらあのリサさんのご家族である。あのぶっ飛んだ人が家族なんだからね。あれに慣れていたら、わたしなんてとっても普通で礼儀正しくないか?というすごく説得力のある仮説に行き着いた。
まぁ、そんなことを考えられるようになったのもご家族がとっても優しかったからだな。なんか、急に落ち着いて余裕がでてきました。
その落ち着いた気分で改めてお部屋をみると、お菓子とかも部屋にあるし、お部屋はゆったりと広く、お姫様っぽいお部屋です。
お姉様いわく、はじめての王都なんだから、最初は夜景がきれいに見える部屋がよいでしょ、ということで選んだお部屋だそうです。
王都の夜景、綺麗なんだろうなぁ。
お部屋の説明の後、着替えを後で持っていくのでよかったら着てくれる?と可愛く美女三人にお願いされ、一も二もなく頷きました。
美女のお願いってなんで聞かないといけない気になるんだろう。不思議だ。
そして、同じ顔の造りなのに個性によって印象は変わるんだ、と三人の美女をみて認識する。隣には同じ顔の師匠もいるからね。
いや、うちの師匠もちゃんとすれば美女なんですよ。やる時はやる。ただ、やる気になることがほとんどないだけなんです。
……内面って外見にでるんですね。
本日の発見です。




