いざ、王都へ
ヴァリセアから帰ってすでに一週間がたった。あっという間だ。久しぶりにいろんな人達と会えてとっても楽しかった。快く送り出してくれた師匠に感謝である。
クエストも無事完了して、資格も継続できた。でも三ヶ月ってあっという間なんだよね、そうそうヴァリセアに帰れないので、次は王都ギルドで依頼を探さないと。
そして、わたしが不在の間はおうちが起こさなかったせいか、リサさんは遅寝遅起きの生活だったようである。ただ、お隣のエルナさんから一日置きくらいで差し入れがあったので、リサさんの食生活のクオリティはぎりぎり保たれていた。多分。
エルナさんが毎回持っていくのはちょっとご迷惑かな、と思ってと言ってました。わたしの作り置きもあり、どうにかなっていたようだ、というのはお隣さんにお土産を持っていった時に判明した。
リサさんは問題なかったといっていたが、それは正しい認識なのか。甚だ疑わしい。
まぁ、これで言えることは持つべきものは優しいお隣さん、である。
そして、あと二週間ちょっとで収穫祭だ。この日に参加するようにと、リサさんのところにはご実家から連絡が入っているらしい。
リサさんがとった初弟子も連れてこいとのお達しだそうで、リサさんは「絶対にいろんなところに連れ回されるからな。ヒュリは贄だ。弟子として師匠の代わりに同行しろよ」という恐ろしいことを平然と言っている。
ひどい。
「でな、収穫祭の用意があるとかで、明日、実家から迎えが来る」
夕ごはんの時にわたしのお土産のお酒を飲みながら、さらっと伝えてくる。
「え!明日!?何も用意してませんけど!」
「別に用意するもんないだろ。パンツくらいでいいんじゃないか」
「もう、この師匠やだぁ。パンツだけで師匠の実家にいけるわけないでしょーが!」
「じゃあ、着替えだけ用意しとけ。でも絶対に着せ替え人形になるけどな。断言する」
「とりあえず、着替えは用意しておきます。おうちは……特にやることなさそうですね」
「だろ」
「手土産とかないですよ。明日はお店お休みだし、ヴァリセアのお菓子食べちゃったし、お酒は今手を付けちゃったし」
「いい、いい。わたしらが土産だって」
「……師匠の実家で第一印象悪くなったらどうするんですか?」
「大丈夫だって。わたしの実家だぞ。そんなもん気にせん」
「まぁ、それは説得力ありますけど」
「だろ。パンツだけで大丈夫だ」
「それはやだ」
つい、論破されてしまった。まぁ、でも、ほんとになんにもないからなぁ。
ヴァリセアから帰ってすぐに教えてくれたら、どうにかなったのに。
あるのは――あれだ、レモン味アリンコチョコ。
ガレンにあげようと思ってたんだけど。
まぁ、一応、持ってくか、と鞄の中に入れた。
翌朝、早目に起きて、一応お掃除する。自分の家だったらまずやらない行動だ。やはり弟子ってだけで、少しはちゃんとしようとする意識が生まれるらしい。
まぁ、おうちはしっかりしているから、何かこっちでやり忘れたことがあっても大丈夫そう。茅猫ちゃんが足元にきたので、なでなでしてしばらくリサさんのご実家に行くことを伝えた。
どこにいるかわからないトロムさんにも声がけしておく。トロムさん、茅猫ちゃんもいるから淋しくないでしょう。
お迎えの馬車は昼過ぎに来る予定なので、ゆったり。
エルナさんたちにも王都に行くこと伝えておこう。
あとはガレン。寄ってくれても誰もいなかったら心配するかも。
「リサさん、万が一、ガレンが来た時のためにドアに王都にいるとメモはっておいてもいいですか?」
「ああ、大丈夫だ。実家の方でリオ…トップにわたしらが王都にいくと伝えているからそこから話が伝わる」
「え、リサさんのご実家はトップとやりとりしてるんですか!?」
「ああ。王宮にも行くしな。ガレンに会えるぞ」
「えっ。王宮に行くんですか!?」
「多分な」
「わたしも?」
「多分な」
「天馬にも会えますか?」
「多分な」
「うわ〜、楽しみですね!」
もう、お土産がなくても気にしない。
最悪、アリンコチョコをプレゼンしながら渡そうと思う。
お昼すぎにお迎えの馬車が来るというので、そわそわと待っています。
わたしの用意なんて簡単なものだ。鞄一つで事足りる。リサさんはその上を行く身軽さ。そう、身一つです。あ、ノート1冊、ペン1本。清々しい。世捨て人か。
この人、ほんとにすごいよな、と横目で見ていると、馬車の音がして、止まった。
来た!と慌てて扉を開けて確認する。
と、二頭立ての馬車が停まっていた。御者の方がお一人、御者台から降りてこちらに背を向けて馬に話しかけている。
「こんにちは!」と挨拶すると、振り返り、帽子を脱ぎ、頭をさげてくれた。髪が白くなりはじめているお年頃の穏やかそうなおじさんだ。
「こんにちは!お初にお目にかかります。アヴェロン家よりお迎えにあがりました。マルクと申します。ヒュリア様でいらっしゃいますか?」
「はい。はじめまして。ヒュリア・カーディルと申します。本日はお迎えありがとうございます。一度、中にいらっしゃいますか?」
「いえいえ、お気遣いなく。お二人がご用意できるまでこちらでお待ちしております」
二人でやりとりしているところに、リサさんがのそりと顔を出した。
「おーーーー、マルク。久しぶりだなー。今日はお迎えありがとなー」
「お久しぶりです。お元気そうでなによりでございます」
「弟子をとったおかげで健康的な生活してるからな」
「おお、それはなにより」
「生き物飼うと健康にいいとかいうしな。確かに一理ある」
「アハハ!相変わらずのリサ様だ。……ヒュリア様、まーったく悪気ないんですよ。昔からこういう方でして。言葉足らずなだけなので、許してやってくださいね」
「フフフ。大丈夫です。楽しくやっております」
「ああ、よかった。はじめてのお弟子さんがどんな方かと思っていたんですよ。安心しました」
マルクさんはとても気さくな感じの良い方でした。
「じゃあ、出かけるかぁ〜。あ、馬車で寝るから」とリサさん。
「はい、どうぞ」
あ、マルクさんと被りました。気が合いますね。
すやぁーーーーーっと座席に寝転び、師匠は気持ちよさそうに寝ております。
座席は向かい合わせ。どうせ寝るからこっちでいいとリサさんは進行方向を背にした座席で優雅に横になり、秒で眠りの国に旅立たれました。
ちゃんとクッションとブランケットまで用意してあるのが、マルクさん、さすがです。
馬車はあまり飾りなく簡素な設えが落ち着きます。そして、やはり座り心地が違う。座席はほどよい弾力あり、腰とお尻に優しいです。素敵。
馬車の中から見る風景は新鮮で、ついつい左右移動しながら風景に見入ってしまいます。馬車は町を通り過ぎ、今は緑の平原、一本道を進んでいます。お天気もよく、御者台も気持ちいいだろうな。ちょっと外に出たくなってウズウズしてきました。
マルクさんに声をかけるべきかどうかを逡巡していると、マルクさんから次の町で少し休憩しましょうと声をかけてくれました。半日ほどの道のりなので、お気遣い痛み入ります。
休憩後、マルクさんに御者台にご一緒しても良いかを聞いてみたところ、「もちろん」と快諾をいただいたので、遠慮なく御者台に移動しました。
御者台から見る景色はやはりよい。ぐるっと見渡せるのが、最高。
王都には行ったことがないので、はじめての風景ばかり。ついついあれこれとマルクさんに質問するが、マルクさんは笑いながらすぐに答えてくれる。専属のガイドさん、最高。
そのうちに、これから伺うアヴェロン家のことやリサさんのことに話題が移っていきました。
アヴェロン家は建国時から功績をあげた一族で、初代国王から貴族、叙勲の申し出があったものの、「めんどくさくなる」との理由で辞退した一族であるとのこと。
それを聞いた途端に「うわぁ、さすが、リサさんのご先祖!」と言ったら、マルクさんは爆笑。
「ほんとそうですね。でもアヴェロンのみなさまはみんな似たりよったりです」と笑いながら教えてくれました。
「ヒュリア様もリサ様がはじめてお弟子に選んだ方です。一族のみなさまにもきっと気に入られますよ」との優しいお言葉。
「う〜ん、でも弟子になる流れがちょっと適当というかなんというか。なんとなくの流れに乗ったと言うか。あ、あと、ヒュリでけっこうですよ。ヒュリア様なんてもんではないです」
「では、せめてヒュリ様で…。リサ様は流れだろうとなんだろうと嫌なものは嫌ですからね。アヴェロンのみなさまはかなりヒュリ様に興味津々ですよ」
あ、ヒュリア様からヒュリ様になった!一歩前進だ。
「ちょっと怖いですね。普通すぎてがっかりさせちゃうかも」
「いやいや、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。ヒュリ様は十分素敵です。リサ様を見ればわかりますよ。大変楽しそうでいらっしゃる」
「まぁ、おかげさまで楽しいです。でも、ひどいんですよ!お迎えがあるのを昨日の夜に知りました!特に用意は必要ない。パンツだけ持っていけって!」
「あっははは!」マルクさん、爆笑です。
「おかげでみなさんにお土産を用意する時間もなく……、お土産は友人に渡そうと思っていたレモン味蟻入りチョコレートしかなくって……一応、持ってきましたけど……。おいしいんですよ!でもでも、初対面で昆虫入りのお菓子を渡す弟子ってないですよねぇ?」
「あっははは!」マルクさん、再び爆笑です。なんなら、泣いてます。
しばらく笑いが止まらず、お腹をおさえていたけれど、復活。
「いや、失礼しました。……大丈夫です。アヴェロン家のみなさま、喜びそうですよ」
涙を拭きながら、慰めてくれました。
「まぁ、最悪渡すことになったら、プレゼンしながらお渡ししようと思います」
真剣に言ったのに、また爆笑してる。そして、またお腹をおさえているところを見ると、かなり腹筋が酷使されているようです。この笑い上戸め。




