言葉でなくても通じる…時もある
なんとなく、本当になんとなくなんだけど、中でなく外でおうちに話しかけたかった。
庭にでて、おうちに向き合い、話しかける。
「あのさ、わたしに言いたいことあるの?屋根にあがったらわかるかな?あげてくれる?無理ならはしご使うけど」
次の瞬間、屋根にいた。わかっててもびっくりするね。高所恐怖症じゃなくてよかった。
まずは見渡す。今まで焦りすぎてよく見ていなかったけど、茅葺きがちょっと薄くなってる?上の方がちょっと薄い……かな?
おっかなびっくり歩いてみるが、それ以外はわからないな。
「ありがと。一旦おろしてもらってもいい?」
伝えた瞬間、地面の上。ほんとに、すごい。
今の感じだと屋根の茅かな。あ〜、そういう目で見ると、トロムさんのあのジェスチャー、屋根の茅問題を伝えたかったと読めなくもない。……いや、あれは初見でわかんないわ。と今でも思うよ。
ここまで話が通じるなら、直接聞いちゃうのがいいね。
「おうちさん、屋根の茅が薄くなってるみたいだけど、言いたいことって茅のこと?」
ポトン、と茅が少し落ちてきた。
イエスということかしら?
「じゃあ、イエスなら、また茅ちょっとだけ落としてね。OK?」
ポトン。
よし!意思疎通確保!
「茅の葺き替えがご希望?」
ポトン。
「緊急?」
反応無し。
「急ぎではないけど、茅交換はしてってこと?」
ポトン。
「茅の交換ね。了解」
ポトン。
「他にやったほうがいいことある?」
反応無し。
「じゃあ、まずはリサさんに伝えて、交換してもらえるようにするね」
ポトポトポトン。あ、すごい。反応してる。
茅、けっこう溜まったな。
「これ、戻す?」とつい、笑って確認しちゃった。
ポトン。
「だよね。じゃ、もう一度屋根にあげてくれる?」といいつつ、茅を掴む。
一瞬で屋根の上。なんか慣れるもんだね。
もうなんとも感じなくなってる。我ながら、笑える。
「はい」と茅を置くと、パパッと茅は屋根に組み込まれていった。
これ、茅を屋根に置くだけで、おうちが自分でできるんじゃない?後で確認してみよう。
リサさんには夕ご飯の時に報告する。それまでに図書室で茅葺きの本があるか見てみよう。あと、お隣さんに茅葺きについて教えてもらえばいいかな。
あそこも茅葺きだから、いろいろと詳しそうだ。
楽しみになってきた。
図書室にはこの地方の家の資料の中に茅葺き屋根の記述があった。茅葺き自体は数十年の寿命。でも棟だけは十年ちょっとで交換することが多いそうだ。茅葺きの寿命が意外に長くてびっくり。前の葺き替えをいつやったのかも確認しなくちゃ。
茅で飾り棟作ったり、屋根登頂の細長いところに動物とか飾ることもあるとか。いろいろ考えますねぇ、感心しながら本を見ていると、ピ!とぐりちゃんが来た。
「ぐりちゃ〜ん。わかったよ」
「ピピ」
「おかげさまで、おうちとのやりとり、だいぶ出来たかも」
ん?ぐりちゃんが積み上がった本を見ている。
ぐりちゃんはやれやれという感じに肩をすくめ、「ジィーーー」と低い声。
「なにか気になるの?」と見ると、本の影からトロムさんがこっちを伺っていた。
姿が見えている事に気がついていないらしい。
ぐりちゃん、なにかやったな。
目があって、ハッとしてる。あ、挙動不審。
と、今度はぐりちゃんが「ジャーッ!」とトロムさんに声をかける。
翻訳するなら「お前、いい加減にしろ!」かな。
トロムさんは気をつけの姿勢になってるよ。喝入った。ぐりちゃん、軍曹だわ。
じゃ、ここはぐりちゃんに任せましょうかね。
「トロムさん、いろいろありがとね。ちょっとお隣に情報収集に行ってきます。
ぐりちゃんに指導してもらって〜。またね〜」
あ、トロムさん、また顔芸入った。おもしろいな。
そして、今、お隣でお茶をいただきながら、茅葺き情報を教えてもらってます。
「……それでね、茅葺き交換が必要なようで。こちらも茅葺きだから、いろいろと教えていただきたくって」
「ヒュリちゃん、偉いわねぇ。……確かにリサさんがここに来る前に茅葺きしてた気がするわ。ねぇ、あなた、覚えてる?」
「あ〜、リサさんが来たのが十年前?もうちょっと前かな。確かに新しい人が来る前に茅葺きしたんだな、と思った記憶があるなぁ」
お二人が記憶を手繰ってくれている間に、エルナさん手作りのお菓子を一口。茶葉入りシフォンケーキがおいしい。いつもおいしい手作りお菓子があるの、すごいよね。
「ってことは全面葺き替えじゃなくて、上の方だけ替えればいいのかな?」
「期間だけで考えればそうなるわねぇ」
「どうせ、茅も購入しないといけないんだし、うちでやってもらった職人さん紹介しようか?そこで茅購入すればいいし、状態をみてもらって、どれくらい必要か確認してもらえるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、リサさんに相談してみます。もし、紹介が必要となったら、お願いします」
「うん。いい職人さんだから。必要なければ、必要ないってちゃんと言うよ」
「うちもまだ大丈夫っていわれて、ちょこっと直してもらっただけってこともあったわねぇ」
「それは、ほんと、いい人ですねぇ」
お隣からいろいろと教えてもらった後、ヨルちゃんのところにより、おうちに戻る。
ヨルちゃんも相変わらずかわいかったし、ここのところのモヤモヤがすっきりして、気分がよい。ロバの赤ちゃんってあんなにかわいいのに、世の中で認知されていないのが不思議だわ。
夕飯時にリサさんに報告した。
おうちが茅葺きの葺き替えを希望していること、お隣さんによるとリサさんがここにくる少し前に全面吹き替えしていたらしいこと。耐久年数を考えると上の方だけの葺き替えで良さそうなこと。ただ、職人さんに見てもらったほうがよさそうなこと。お隣さんに頼めば職人さんを紹介してくれること。
「へぇ。よくそこまでたどり着いたな。段取りまでよく考えてる。褒めて遣わす」
ご飯もりもり食べながら言われると、あんまりありがたみってないわぁ。
「トロムさんもフォローしてくれましたよ」
「へぇ〜、トロムが?どうやって?」
「……パントマイムで?」
「なんで疑問形で終わるんだよ」
「いや〜、ジェスチャーだったから。最初わけわからなくって。それ伝えたらトロムさん透明になって消えちゃって」
「あいつ、昔からそうなんだよなぁ。おやじのくせにガラスの心臓なんだよ」
「今日、ぐりちゃんに喝いれられてましたよ」
「お、いいんじゃないか。やれやれ。甘やかすな」
「ぐりちゃん、軍曹みたいでした」
「ぐりからみたら別に小さいわけじゃないから、あいつ、かわいくもなんともないからな」
「やめて〜。ひどいこといってるけど、笑っちゃうじゃないですか!」
「ま、あいつのことはいいや。茅葺き、やるか。まずは職人に見てもらうか」
「そうですね。おうち、そこまで緊急じゃないってことでしたよ。あと、茅置けばおうちが自分で茅葺きしそうでした。リサさんがおうちに確認した方がいいかもですよ」
「茅葺きのお願いもお前にいったんだからお前が確認でいいんじゃないか?」
「いいんですか?」
「弟子を信じるのが師匠だ」
……絶対、めんどくさいからだな。
翌日、さっそく、職人さんを紹介していただいた。
お名前はバルクさん。四角いお顔のがっちりした人。無口で口を開くとバリトンボイス。なんだか、かっこいい人だった。
まずは診断を早目に設定、葺き替えはまた別の日となった。見積りはリサさんに確認、了承をもらう。
バルクさん、腕がいいせいでひっぱりだこ。そのせいでけっこう時間は空いちゃうが、まぁ、急ぎではないので問題ない。
そして、おうちはやはり自分で葺き替えできると言っている。ここらへんの情報はオープンにしちゃっていいらしい。
その方がこちらもやりやすいので、よかったです。
人間チームは新しい茅を用意して屋根にあげることと、古い茅の処理をすればいいみたい。
ということで、バルクさんには茅の手配、茅を屋根にあげること、古い茅の引取り、茅葺きの仕上がりを確認してもらうことになりました。
あともう少し男手があった方がいいね、ということになり、バルクさんに手配をお願いするつもりでいた時、ガレンがまた訓練後に寄ってくれて。
その時に世間話で葺き替えのことを話すと、なんと手伝いに来てくれるという。茅をあげるだけなら、自分でも出来ると。本当にこの人は聖人か。
王都からここまで来るだけでもけっこう大変だと思うけど、さすが、ガレン。
「問題ない」の一言でした。
あと、もしかしたら、もう1人助っ人が手配できるかもしれないと。
さすが。
もちろん、遠慮なくお願いしました。フフフ。




