ガレン、リサの家へ
「ヒュリちゃん、元気だったよ」とカーディから声をかけられた。
久しぶりと思ったら、ヒュリの話だ。
「え。いつの話ですか?」
「今朝。僕は鷲使ったけど、ここからだと馬飛ばして三時間くらいかな。ちょっとかかるから、メロンパンの帰りにでも寄ってくれば?リオも許可してくれるでしょ。
ヒュリちゃん、おばさんのところの食材がどうの、とか言ってたからついでに持ってってあげるのもいいかもよ?」
そういうと、「はい」とメモを渡された。
メモを開くと地図。
鷲か。相変わらず、フットワークの軽い人だ。そして、妙にいろんなことに詳しい。
……ヒュリ、驚いただろうな。
イナゴ駆除からメロンパン訓練は三日ごとから週一回に減っている。行くとしたら四日後か。
なかなかトップに言い出せず、とうとう訓練前日だ。今許可をとらないと一週間後か。
意を決し、話しかけようとしたトップの朝食の席で、トップがのんびりと声をかけてきた。
「ねぇ、ガレン、何かいいたいことあるの?ここのところ、ずーっと何かいいたげで気になるんだけど」
そんなにわかりやすかったか、とドキリとする。
「あの……出来たらでよいのですが、明日の訓練の帰りに私用で途中立ち寄りしてもよろしいでしょうか?」
「え、別にいいけど。どこ行くの?」
……そりゃ、確認するよな。
「リサ・アヴェロン氏のところに弟子入りした友人へ食材を届けようかと思いまして」
「リサのとこ?……あ〜、メロンパンネちゃんね。なんだ、気になってるならもっと早く言えばいいのに。あれ、いつ、紹介してくれるんだっけ?」
「いえ、トップに紹介するほどのことでは……」
「ダメダメ。カーディのお気に入りでしょ。気になるもん」
「では、おいおい。王都に来ることがあったらということで…」
「うん、そうだね。ちょうど、フィンが妊娠したから、リサに知らせようと思ってたんだよね。リサ、絶対に観察したがるから。その時にメロンパンネちゃんにも来てもらおうか。収穫祭に合わせてきてもらえば、きっと楽しいよ」
うん、そうしよう、とトップが勝手に話を進めていく。咳払いが聞こえ、その方向をみるとロークが笑いを堪えていた。
なんとなく、面映ゆいような、言い訳したいような、ただ、ここで何か説明すると却って面倒なことになりそうな気がして、言葉を飲み込んだ。
ヒュリのおばさんのパン屋はメロンパン訓練のおかげで常連だ。客足が途絶えたこともあり、気安く声をかけてくれた。
「ガレンくん、いつもありがとうね。今日はメロンパンだけじゃないのね。トップへくれぐれもよろしくとお伝え下さいね」
「はい。……今日、帰りにヒュリのところに寄って様子を見てきます。これはヒュリに持っていこうと思って。別に包んでいただけますか。
あと、他にも土産を持っていこうと思いますが、何がいいですか?」
「あら!ありがとう。このドライフルーツのパン、あの子好きなのよ。よくご存知ね。喜ぶと思うわぁ。ここからだとなかなか行けないからねぇ。もしよかったら、たまに様子みてくれると助かるわ。ちょっと待ってね」
というと、商品棚のところに歩いていった。
「はい。そんなことなら、訓練の帰りにたまに様子見するようにします」
おばさんの背中に向かって声をかける。
「あの子もね〜、図太いんだけど、ぼーっとしてるから、心配なのよねぇ。ギルマスには悪いことしちゃったわ」
ああ、弟子入りの際に、けっこうな騒動があったみたいだからな。
ギルドマスターが出張ったと聞いて、耳を疑った。まぁ、普通じゃないよな。
「はい。これ持っていってくれるかしら?瓶とかちょっとかさばっても大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。おいくらですか?」
「ダメよ、そうしたら、今度頼みづらくなっちゃうじゃない」
といって、渡されたのは味噌と醤油と昆布。渋いな。
他にもお礼だからと、俺の好きなものも持っていってというおばさんの申し出に断りきれず、インスタントスープの素をありがたく、いただいた。
これ、うまいし、便利なんだよな。
ヒュリの住む家は町から少し離れた緑の多い地区だった。この地方独特の石造りの茅葺き屋根。町の家々とは違う、昔ながらの造りの家だ。
ブレーを門の前に待機させ、微妙に緊張しながら、扉のノッカーを鳴らした。
ガチャリと扉が開くと、「はい」といいながら、ヒュリが顔を出した。
「あれ!ガレン!どうしたの!?」
相変わらず、軽いな。
「カーディさんから連絡を受けて、食材持ってきた」
「えー、びっくり。食材ほしいなんていったかな?」
びっくりするの、そこか。
「どうやってきたの?」
「天馬訓練の帰り道だよ。はい。調味料はおばさんから。パンは俺から。おばさんにはこれからたまに様子見に行ってくれと頼まれたよ」
土産を見せると、袋を覗き込んだヒュリは嬉しそうに声をあげた。
「わぁ、うれしい!ちょうど欲しかったの!さすが、おばさん!パンもわたしの好きなやつだ。ありがとう!」
と、ブレーに気がつく。
「ガレンの相棒の天馬さんだね。お庭にどうぞ。ガレン、時間ある? リサさんに紹介したいな」
「じゃあ、できるなら挨拶だけさせていただく」
「うん。リサさんに確認してくるからちょっと待ってて」
「ああ、無理しないでいいぞ」
「わかった。天馬さんはそこでいい?」
「大丈夫。ブレー、ちょっとだけ待っててくれ」
庭を見回していたが、大した時間もかからずに再び扉が空いた。
「おまたせ」と言いながら、ヒュリが出てきた。
「ブレーはちょっとまっててね」と怖がることなく、ブレーに近づき、鼻面をなでた。
ブレーも大人しく、撫でられるままだ。
……こいつ、男にだけ厳しいタイプか?
「やさしいね。待ってるって」
また適当に言ってるな。
「じゃ、こちらにどうぞ〜」と扉を開けたヒュリに続く。
明るい玄関ホール。と、なぜか固まっているヒュリ。
「ヒュリ?」と声を掛けると、驚いたようにこちらを見た。
「ああ、ごめん。ちょっとびっくりしたから。こちらにどうぞ」
ん?びっくりするようなことがあったか?
玄関ホールを抜け、リビングに通された。思ったよりかなり広い。天井も高い。
外観より内部が大きいのか。さすが、魔法使いの家ということか。
だが、キッチンも見え、温かみのある居心地のよい部屋だった。
ほっそりとした背の高い女性がキッチン・テーブルにいた。きれいな人だ。イナゴの際に遠目に見たヒーラーだ。でも、かなりあの時と感じが違うな。まぁ、非常時だったから当たり前か。
「リサ・オルディナ・アヴェロンだ。リオの付き人だろ。リオから聞いているよ。わざわざ遠いところをご苦労さま」
テーブルに肘をついたまま、挨拶されるが、嫌な感じはない。どちらかというとおおらかな人柄を感じさせる。
「ガレン・ダルクレストです。急にお伺いして申し訳ありません」
「いや、別にいいぞ。みんな、気になってるみたいだしなぁ。立ってるのもなんだから好きなところに座ってくれ」
「あ、いえ、実は訓練途中なんです。立ち寄り許可をもらったので、伺いました。ご挨拶もすみましたので、今日は失礼させていただきます」
「そうなのか? せっかく来たのに」
「ありがとうございます。ヒュリのおばさんからたまに様子を見てくれと頼まれているので、たまに顔を出しますが、お許しください」
「あ〜、別に許すも何もない。いつでも来てくれて構わないぞ」
「ありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」
まともな人じゃないか。
頭を下げて、帰ろうとする。ヒュリを見ると、なにか考え込んでいる。
「……ヒュリ?」
「ああ、ごめん。もうお帰り?」
「訓練中の立ち寄りだから」
「そっか。じゃあ、また来てね。そこまで送るね」
「助かる。……では、失礼いたします」
「また、来いよ」
「ありがとうございます」
庭にでると、ブレーは大人しく待っていた。
そのまま手綱をとり、道へ出て、ブレーにまたがる。
「ガレン、今日はどうもありがとう。おばさんたちにも元気にしているから心配なくってお伝え下さい。……って、まだ七日だけどね。また来てね」
「ああ、また訓練の時にでも寄るよ」
「うん。気をつけて帰ってね」
「じゃ、またな」
そういうと、ブレーに合図して空に飛び立つ。
空の上から見るヒュリはまっすぐにこちらを見て、手を振っている。
こちらも手を上げて挨拶をして、ブレーに「じゃあ、帰るか」と声をかけた。
楽しそうに過ごしていて安心した。おばさんにもいい報告ができる。
あとはトップの質問を躱せば、問題ないな、と思いつつ、帰路を急いだ。
ガレンを見送ると、リビングに戻る。
うん、やっぱり、玄関を開けるとすぐにリビング。
「リサさ〜ん」
「何だぁ」
はは。だらっとしてるなぁ。さっきと違うぞ。
リサさんなりに気を使ってたのかな。
「ガレンを案内した時は、玄関ホールがありました。これもおうちの魔法ですか?」
「あ〜。大抵は玄関ホールがでるぞ。リビング直行はまれだ。気に入らないやつはそもそも入れないけどな」
「気に入らないやつって、おうちがですか?」
「そうだ。ま、こっちもその判断をあてにしてる。内に入れないやつは要注意ってことだ」
「ご先祖様、すごいですね」
「ひまだったんだろ」
そんな一言ですませていいもんですかね。




