魔法修行は問診から
「さてと……まずは基礎確認からいくか」
「はい。よろしくお願いします」
「まず、魔法ってなんだ?」
「……魔力を使って、目的を実行すること?」
「そうだな。魔力を使って、現象を起こす手段。魔力でイメージを現実化する技術とでもいえばいいかな」
「魔力とはなんだ」
「魔法を使える力」
「属性はなんだ」
「使える魔法の系統?」
「ふむ」
といいながら、椅子からのけぞり、伸びをするリサさん。
「あれ、どうしました?」
あ、リサさん、戻ってきたと思ったら、頬杖ついた。
「……飽きた」
「えーっ、飽きたぁ?早い!師匠なのに!」
「あ〜、悪い悪い。基礎確認するのに飽きた」
「うわぁ、びっくりしたぁ。焦らせないで下さいよ〜」
さすが、リサさん。驚かせてくれる。
「まず、自分の特性をちゃんと把握したほうがいいな。自分の特性は何だと思う?」
「えーと、四大元素、光魔法は使えます。シールドも張れます。魔力量は少ないですけど、細かい魔力操作は得意です」
「例えばどんなことができる?」
「えーと、前にサンドウィッチの中身はそのまま、パンだけ温めたらそんなことできるやつは見たことないといわれました」
「確かになぁ。あんまりそういうことやるやつ、いないよなぁ」
といいながら、お茶を一口。
「変なやつに利用される可能性があるから、気をつけろって注意されましたけど、そうなんですかね?」
「悪いやつはいるからな。その忠告は正しいと思うぞ」
「あんまり危ない力って感じしないんですけどねぇ」
「まぁ、そんな感じが却ってよかったのかもな。……細かい魔力操作は昔からできたのか?」
「今考えると、小さい時からぐりちゃんと遊んで魔法を使っているうちに細かく設定できるようになったんだと思います」
「ほぉ。そもそも、ぐりとはいつ、どこで知り合ったんだ?」
「……五、六才くらいかな。うちの庭に倒れていて、それを助けたのが始まりですね。あ、リサさんと一緒だ!」
「……自分で言うのもなんだが、お前、変なもん拾うクセあるな……」
「あははは。でも、いいもの拾ってますよ。ね?」
「……まーなー。家族はどうだ?家系的な属性などがあるが」
「う〜ん、おばあちゃんは肉体強化ですかね、行商の際に役に立ったといってました。あとは、みんな普通かな。わたしも属性は多めだけど魔力量は少ないし、家族みんな似たりよったりです。特に家系でこの属性とかないと思います」
「そうか。そういえば、今日の夕飯は東の方の料理だったよな。そっちの方に縁があるのか?」
「あ、はい。ひいおじいちゃんが東の島国出身です。ひいおじいちゃんが国を出てから九十九年後にわたしが生まれたんですよ。あと一年遅かったら生誕百年だったのに」
「九十九年前か。それくらいだと確か政変があったな。それでか」
「あ〜、なんかそんな話はおばあちゃんからちらっと聞きました。色々苦労はあったみたいですけど…」
「魔法もな、文化圏で微妙に変わるんだよ。お前のちょっと変わった感じはそこら辺から来てるのかもな」
「変わってます?」
「変わってる。ま、そこらへんは、おいおいだな」
「はい。なんかワクワクしてきますね。おもしろい!」
リサさんの質問は続く。
「魔力量を最近使い果たしたのはどういう時だ?」
「イナゴの時は一応動けてたから……、友人と採集行って、魔獣に魔力当てた時かな。ヘタって動けなくなって、背負われました」
「吐き気とか気絶とか貧血とか?」
「う〜ん、一瞬気が遠くなりましたけど、背負われてるうちにそこまでではなくなりましたね。時間を置いてですけど、二回目に襲われそうになった時にまた魔力当たられたし。あ、でもその後またへたりましたけど」
「一回目と二回目の魔力放出した間の時間は?」
「う〜ん……二十分ちょっとくらい?」
「なるほど」
リサさんがふむふむと頷いている。
「まだなんともいえないが、お前、けっこう特殊な体質かもな。通常の魔力枯渇から回復が早い気がする。
魔力はマナ由来のもの。自分の魔力の他、外部からの利用もできる。マナはそこら中にあるんだ。この周りのマナを使えれば問題は解決する……理論上はな。
ぐりが年少期からいたことで無意識にある程度やっているのかもしれん。魔力量が少ないということは自分の中のタンクが小さいということだ。例えて言うなら、胃が小さいみたいなもんか。たくさん食うとある程度は大きくなる。だが、限界はある。そして限界を超えると身体に響く」
「さすが師匠!すっごいわかりやすいです!じゃあ、タンクが小さくても空いたら食べて満たせばいいってことですよね」
「理論上はな。だが、なんでもかんでもいれればいいってもんじゃないだろ」
「あ〜、確かに」
「ま、ここらへんも修行しながら見極めだな。いまのは推論で、確証じゃない」
「なるほど」
「あとな、まずなんでも奥が深いが……分離魔法はどこまでやりたいんだ? もともとイナゴの汚れが嫌で分離魔法だろ。初級でも最初の目的の汚れを取ることは十分できる。中級になると専門知識が必須になる。
深く学ぶのもいいが、それが一概にいいともいえない。
ひとつを極めるのもいいが、広くある程度いろんな魔法を使えるというのもいいと思うぞ。
深く極めるとその分、他のことはできないからな。今すぐ決めなくていい。自分のやりたい方向を考えるようにしておけよ」
「……はい」
そうか、単純に習えばいいやと思っていたけど、言われたことはもっともだ。
ちょっと見栄をはって、深堀りすると言おうかと思ったが、自分をシミュレーションして、違うな、となった。
でも、もうちょっと時間を掛けて考えよう。
◆おまけ_朝から濃い時もあります
三日目。朝からいいお天気で町まで気持ちよく走れた。
訓練をかねて、石橋の欄干に乗って走ったり端から端に飛び移ったりする。他の人がみたら怪しい動きだけど、早朝だから誰もいない。大丈夫。
さすがに、リサさん、まだ起きていないだろうなぁと思いながら、戻る。
扉を開けて、リビングへ。
ん?と違和感を感じたのと同時に声をかけられた。
「おはよ〜。ヒュリちゃん」
ばっと振り向くと、カーディ!
「うわぁぁぁ!なんでここにいるの!」
思わず、叫ぶ。なんで、ここでくつろいでんの!?
「んー、様子見?ほら、一応、師弟関係橋渡ししたからさ」
ドキドキしすぎて、胸を押さえる。心臓に悪いな!
「橋渡ししたぁ?ギルドマスターは動いてたけど!?」
「陰ながらしてるわけよ。あ、そういえば、ヒュリちゃんのおばあさまに会ったよ」
「なにそれ!?こわっ」
「ちょっと出かけたついでにね。偶然にね。かっこいいね。ファンになっちゃったよ」
「怖すぎて、何もいえない」
「えー、怖くないって。たまたまだから。世間って狭いよねー。で、おばあさまからの預かりもの。はい」
受け取ったのは、おばあちゃんからの一筆書き。
『いいご縁がつながっているようで何より。たまには帰れ』だって。
うん、おばあちゃんぽいな。
そんなやり取りをしていると、リサさんが起きてきた。
「カーディ、お前、朝早いよ」ブツブツ言ってる。
きっとおうちに起こされたんだ。おうちはカーディをお気に入りか。
「うちがちゃんと上げてくれたからさ。でもほら、大人しくリビングで待機してるの偉いでしょ」
「まー、いいけどな」
あ、いいんだ。この関係もなぞだな。
気を取り直して、声掛けする。お腹すいちゃったよ。
「では、お二人とも朝ごはん食べます?」
「えー、いいの?じゃ、遠慮なく」とカーディ。
「顔洗ってくる」とリサさん。
ベーコン、トマト焼いて、フレンチトーストでいっか。
お湯を沸かしてお茶をいれる。
昨日、買い物しておいてよかった。ふと見ると、キッチンテーブルにはまたフルーツ。ブルーベリーとラズベリーの他にオレンジ。トロムさんがお客様用に差し入れしてくれたんだ。やさしい。
「トロムさん、ありがとうございます!フレンチトーストつくるので置いときますね〜」
適当に声掛けする。
ぱぱっと焼いて、3枚のお皿に分ける。果物も一緒に乗っけちゃう。メープルシロップは瓶のまま。はい、出来上がり。
トロムさん用にはどれくらい切ればいいかわからないので、1枚パントリーに置いておいた。
リビングにいる二人に、「できました〜」と声を掛けると、キッチンテーブルに移動してくる。
「すごいねぇ。ヒュリちゃん。リサの家で朝ごはんなんて、想像もしなかったよ」
「トロムが差し入れとかしてくるんだぞ。信じられるか」
「うわ。ほんとヒュリちゃん、人たらしだわ。あー、人じゃないか。人外たらし?」
「人外たらしって言葉、初めて聞きました」
「うん、初めて言った。なかなか言えないでしょ」
「自分で言ったんだろ」
濃いメンバーと思うけど、なんだろ、この不思議な空間。
でも、嫌じゃないな。
まだ三日なのに。意外に濃い毎日です。




