ごはんのために――ロバと師匠とお出かけ
翌朝。
ぐっすり眠れたおかげか、ぱっちり目が覚める。布団の中でのびをする。気持ちいい。
昨日はお風呂が猫足でテンションが上がった。
猫足!楽しい!
さて、朝ごはん。
今日はマッシュポテトのパンケーキでいいか。ビスケットも少しあるから砕いて混ぜて、バターで焼いたら、きっとおいしい。
あと、塩ミルクティー。りんごジュースもあったな。
おばちゃんの食材さまさまだ。持ってきた自分をほめたい。
リサさん、まだ起きてこないな。用意だけ先にしちゃお。
今日は食料調達しないとね。
いいお天気だし、良い一日がはじまりそう。
階段を降りて、さっそくキッチンへ行く。
水道があって便利なんだけど、あれ、蛇口増えてる?
昨日は一つだった。不思議に思いながら蛇口をひねる。
「うわぁ、お湯だ!」
すごい。なんなの、このおうち。至れり尽くせり。すごすぎる!
思わず、蛇口をなでちゃった。
テーブルにはブルーベリーとラズベリーが入ったお皿がひとつ。トロムさんだ!
朝ごはんにぴったり。
「トロムさん、おはよう!果物ありがとう!」
ぐるっと部屋を見回して、挨拶とお礼。
「朝ごはんはポテトパンケーキと塩ミルクティーです。よかったら、お皿とカップ置いといてくださいね〜」
見えない人とのやりとりもおもしろい。
さて、マッシュポテトのパウダーをボールに入れて、ビスケットをガシガシ砕いて、それもボールに入れる。ほんとは卵とかミルクとかもあるといいんだけど、なきゃないでいいや。
こういう調理器具もちゃんとそろっているのは、助かる。お鍋もフライパンもちゃんとあるし。
水を入れて、おいしくな〜れと言いながら、混ぜ混ぜ。あとは焼くだけだ。簡単。
テーブルを見ると、小さな木のお皿とカップがあった。トロムさんも同じメニューね。
先にトロムさんの分、作っちゃおうか。
モチモチと、薄めでカリカリの二枚にしてみる。楽しい。
塩ミルクティーはお湯で溶くだけ。
「パントリーに置いておきま〜す」
わたしはお湯にレモンエッセンスを垂らして一口。さっぱり、おいしい。
小さい時からの習慣だ。
まだリサさん起きてこなそうだし……待ちきれなかったら、先に食べちゃお。
リサさんは思ったより早く、ブツブツ言いながら起きてきた。
「おはようございます」
「おー。家に起こされた」
ん?どういうこと?
ふわぁ〜とあくびをして、首をコキコキ動かしながら
「朝飯の用意たのむ。りんごジュースならあるだろ」とリサさん。
「ポテトパンケーキ、食べます?」
「……食べる。……お前、ほんと、すごいな」
言いながら、キッチンの椅子に座ると、ぐたーっとテーブルに身体を倒した。
「弟子のお仕事ですからね〜。ポテトパンケーキと塩ミルクティー。あと、トロムさんからの果物もありますよ。トロムさん、やさしいですね〜」
パンケーキはもう焼いてあるから、魔法で温めるだけ。
二枚のお皿に、パンケーキとブルーベリーとラズベリーを添える。
ついでに白湯にレモンエッセンスのカップもつける。起き抜けさっぱりするから、わたしは好きなの。
「……へぇ。あいつ、そんなことするのか。ヒュリ、トロムにも家にも気に入られたな」
「なんですか、それ?」
「床が波打ってたら、寝てられないだろ。おおかた、ヒュリが起きてるから、お前も起きろって言いたいんだろ」
「おうちが?」
「そ」
「すごい。なにそれ。すごすぎる」
「よかったな。正直、こっちもびっくりだ」
「お湯の蛇口が増えてるんですよ。それもおうちが作ってくれたとか?」
「だろ」
「うわぁ、やさしい!なんていいおうち!」
「まぁ、そういうとこなんだろなぁ。……うまいな、これ」
「今日は外カリ、中モチにしてみました〜。塩ミルクティーもおいしいですよ。お砂糖、いれます?」
「砂糖なしでいいな」
ポットからコポコポ注ぐ。
「うまい」
よかった。わたしもおいしい朝ごはんに満足です。
食事は作ったし、次は買い物。あとは掃除と洗濯か。魔法修行開始まで、あと少しだ。
買い出し
お隣さんはヴァルトさんご夫妻。ベルンさん、エルナさんというやさしそうなおじいさんとおばあさんだった。
リサさんといっしょに伺って、ご挨拶をしてロバをお借りする。
ロバを借りる代わりにいつもリサさんが作ったポーションを渡しているそうだ。これから、頻繁にお借りするかもしれないから、とリサさんが、ポーションを数本渡していた。
リサさんがちゃんとした大人に見える。初めてかもしれない。ちょっと感動した。
「ロバを貸すだけで、こんな貴重なポーションをたくさんはいただけない」というエルナさんに
「赤ちゃんロバいますよね。こいつ、多分、用がなくても見にきますよ」というリサさん。
赤ちゃんロバ!?見に行っていいなら、ちょこちょこ行っちゃうかもしれない。
ロバのベルとリサさんと、町に向かう途中。お天気もよいし、買い物日和だ。
リサさんが作ったポーションもベルさんに乗せている。いつもは買い取りに家まで来てもらうけど、今日は買い物ついでに卸しに行くらしい。
家に来てもらうと手数料としてその分ひかれる。意外にしっかりしているリサさん。
これからは、買い出しと卸しがわたしの仕事ね。
ベルさんもかわいいが、赤ちゃんロバのヨルちゃんがものすごくかわいかった。
ふわもこ。なんとなくおぼつかない足取り。遊んでもらえると思ったのか、ちょこちょこ近づいてくる。
ああ、遊びたかった!
町までの道は一本道で、迷いようがない。ベルもトコトコ、勝手知ったる様子で町へ向かっている。道中半分を過ぎると川があり、橋を渡って少し歩くと町に着く。
ヴァリセアと比べて、こじんまりとした町だ。
「まずはポーション売りに行くぞー」
「はーい」
リサさんについて行ったところは小さな薬局だった。
「あれ、リサさま。何かあったんですか!?」
ものすごいびっくりしている支配人みたいなおじさん。
「あ〜、弟子をとったんだ。こいつ、ヒュリ。弟子の間、買い出しと卸しを担当するから。
しばらくはうちに来なくて大丈夫だ」
……その紹介はどうなのよ。
リサさまって呼ばれてるんだ。とりあえず、挨拶しよ。
「はじめまして。ヒュリア・カーディルです。これから、定期的に伺いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
最初が肝心。丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ!セルジュ・ベルティエと申します。リサさまとは長くお付き合いをさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
……リサさま!どうしたんですか?弟子とるなんて!しかも弟子に付き合ってこんなところまでくるなんて!まともじゃないですか!」
おじさん、わたしに頭を下げると、リサさんに向き直り、一気に畳み掛ける。
「んだよ。失礼だな。泣くことないだろ」
ほんとだ。おじさん、うるうるしてる。
「ん……カーディル?」
セルジュさんが首をかしげた。
「もしかして、ご実家は医療品問屋では……?」
「あ、ご存知ですか?実家です」
そういうと、セルジュさんの目の色が変わった。
「なるほど。ご実家の伝手でリサさまのところにいらっしゃったのですね」
「いえいえ、実家は関係ありません。たまたまです。よくご存知でしたね」
「カーディルといえば、良い品を良心的に扱うと言う評判は届いておりますよ。あいにく、少し距離があり、お付き合いしたことはございませんが、そのうちご縁をいただきたいと思っておりました。そのお嬢様がリサさまのもとにいらっしゃるとは……!」
「カーディル、聞いたことあるな。ヒュリの実家だったのか」
「このような日がくるとは……。不肖、セルジュ・ベルティエ、このまま命尽きても本望でございますっ」
うわ、重〜い。
リサさん、どんだけ心配されてたの?
「いや、そんなたいしたもんではないです……。地方の小さい問屋ですよ……」
聞いてない。
涙目のままのおじさんに手を取られる。
「リサさまを、お願いいたしますね!」
「……いや、リサさん、師匠……」
「セルジュ、それ、セクハラだぞ」
セルジュさんが落ち着いたところで、ポーションの買い取りが済んだ。
薬局は高価なものから日用品まで幅広く置いてある。リサさんのポーションは高級品で店頭に並ばずに奥に保管される。
薬局は入口こそ小さいが奥に長い造りだった。奥まですすむと別の通りに抜けられるんだって。
面白い造り。
「これからどうされるのですか?」
「買い出しだ」
「リサさま、お店などご存じないでしょう!店のものを付き添わせますので、少々お待ちください」
「……お前、バカにしてるのか?」
「いえ、まさか。詳しい者に案内させたほうが早いでしょうし、ヒュリアさまにもその方がよろしいかと」
はい。非常にその方が良い気がする。そして、わたしにも「さま」をつけてくれるんですね。
「リサさん、お言葉に甘えましょうよ。ベルもヨルのところに早く戻さないとかわいそうだし」
「う〜ん、じゃあ、そうするか。では、セルジュ、よろしく頼む」
「はい!少々お待ちください」
そういって、セルジュさんは奥に下がると、ほどなく小さな男の子を連れてきた。赤毛でそばかす、メガネをかけた賢そうな男の子だ。
「リサさま、ヒュリアさま。下働きのエミルでございます。この者がご案内いたしますので、何なりとお申し付けください」
「エミルです。ご要望の場所へご案内させていただきます」
そういいながら、頭を下げる。
「よろしくな」「ヒュリです。よろしくね」
「はい、よろしくお願いいたします。さっそくですが、まずはどちらにいらっしゃいますか?」
「まずは食料品をいろいろ購入したいですね。野菜とかお肉とか。あと豆とか乾物も。あ、あと日用品もほしいです」
「かしこまりました。では、ご案内いたしますね」
エミルくんがおすすめのお店を案内してくれたので、効率よく昼前には無事にほしいものが手に入った。まとめて買ったので、結構嵩張っている。ついでに洗濯石鹸も薬局で買えたのでよかった。
これで洗濯がいつでもできる。
エミルくんがさりげなく町の説明もしてくれたので、次から一人でもどうにかなりそうだ。
最悪、この薬局に来ればどうにかなる。
うちから徒歩三十分なら身体を動かすついでに毎日往復するのもいいかも。
サボると後がきつくなる。……やろ。
帰宅して、ベルさんをヴァルトご夫妻にお返しする。
いつでも遊びに来て、ヨルちゃんと遊んでよいとお許しをいただいた。感じのよいご夫婦だ。
お昼の用意をしないとだけど、ちょっとだけ。
エルナさんにヨルちゃんのところに連れていってもらう。
しゃがんで呼ぶと、よちよちとこちらにきて顔を擦り付けてくる。
小さい尻尾、ふりふり。かわいい。抱っこしちゃう。ふわもこ。なんか笑ってる赤ちゃんロバ、ヨルちゃん。
「うわ、毎日会いたい」つぶやくと、
エルナさんが笑いながら、
「直接ここに遊びに来ていいわよ」と言ってくれた。
わたし、ほんとに来ますよ。
お昼ごはんは簡単にサンドイッチとスープ、それにりんご。
リサさんは家事をしないので、こちらが適当に作っても文句がない。ありがたい。
買い出しで食料が十分となったせいか、トロムさんの差し入れはなかった。木のお皿もでてこなかった。
なんとなく、トロムさんのルールがわかった気がする。
昼食後、リサさんはお仕事。今日中に終わらせたいことがあるそうで、それが終わったら今後の修行について話し合うことになっている。
わたしはまずは掃除をすることにした。掃除は普段は適当に目についたところだけやるタイプだけど、お礼のつもりで丁寧にする。
まぁ、わたしの中の丁寧基準だけど。
時間が空いたら、図書室で自習。読んでおくべき本のリストはもらっている。けっこうリスト、長いぞ。
洗濯は明日やる。掃除している途中で、洗濯機を発見した。これを使うと楽そう。ただ、だいぶ放置されていたみたいだから動くかな……。とりあえず、明日、使ってみよう。
分離魔法を考えていたけど、確かにクリーニング魔法もできる方がいいかもね。
今のわたしの魔法でやるなら、シールドと水魔法かな。お湯でやったら綺麗に落ちそう。
……でも、効率悪そうだな。
なんだかんだ、掃除が終わるころにはけっこういい時間になっていた。
このおうち、あまり余分なものがなく、掃除はしやすい。窓はピッカピカにしたし、床もほうきとモップをかけた。
一瞬、風魔法でいいかも、とよぎったけど、なんとなくちゃんとほうきで掃いた方がおうちが喜ぶような気がしたから。
さて、リサさんにお茶でもいれようか。
夕食はご飯を炊いた。お米は町で買ったもの。
おかずは、めんつゆを使い、玉ねぎとチキンを煮て、卵でとじたもの。ご飯と合う。
かぶっちゃうけど、簡単だからかきたま汁。あと、キュウリとセージのマリネでさっぱりさせる。
実家は東の国の料理がよく出ていて、これもその一つ。おばちゃんのめんつゆを使うので簡単。持ってきてよかった。だいぶ助けられてるなぁ。
本当は味噌汁を作りたかったけど、味噌がない。持って来るのを忘れたから、今度探しに行かなくては。醤油は売ってるけど、味噌はあるかなぁ。……微妙だな。
でも、リサさんも気に入ってくれてよかった。
夕食の後、まったりお茶を飲んでいる時にリサさんから修行についての話があった。
「さて、今後の修行についてだが」
「はい」
「分離魔法の前に、基礎だ。ま、学校で習ってるだろうから、確認だな。その後、分離魔法に行くか、その前に別の魔法にするかはこちらの判断とする」
「はい」
「どうだ、今日一日やってみてどんな感じだった?」
「えーと、今日は食事作りとお掃除をやりました。明日はお洗濯をしようと思います。洗濯機を見つけましたが、使えますかね?
掃除も洗濯も必要なら毎日します。でも、掃除も洗濯も毎日しなくてもよいですかね。
あと、身体がなまるのはまずいので、毎朝町まで走るようにします。庭とかで薙刀の練習とか身体動かしていいですか?残り時間は自習と……ヨルちゃんのとこにもちょこっと行っちゃうかもです。あ、朝ごはんは何時頃までに用意すればいいですか?その時間によっては、走るのは空いてる時間を見つけてやります。前の日に時間確認にします?」
「お、おぅ。お前、しっかり主張するな」
「身体動かせるようにしておかないと、後で自分がきついんですよ〜。ちょっとずつでも毎日やる方が楽ということを冒険者生活で学びました」
「なるほどなぁ。さすが、新米とはいえ冒険者だな」
「まだ一年も経ってないですけどね」
「いや、いい心がけだ。明日から楽しみだな」
「はい!あ、明日の朝ごはん、何時くらいにします?」




