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16/21

空の羊飼い1

青い空。強い日差しの蒸し暑い日だった。

山のような綿菓子のような雲が大きく空を覆い始めている。天馬が数頭、空を駆け抜けていた。

流れるようなその姿は力強く、優美だ。

隊長と並び、その場で見上げていた。


――あれに乗るのか。

改めて気を引き締める。希少な天馬に乗る機会を与えられたのだ。滅多にないチャンスだ。


やがて、空を駆けていた騎士と天馬たちが、次々と地上へ戻ってくる。

その中の一頭が、軽く高度を落とし、着地した直後に背の騎士を振り落とした。

騎士は受け身を取り、すぐに立ち上がる。天馬は何事もなかったかのように首を振った。


――なるほど。飼いならされているわけではないのか。


天馬隊は隊長を含め十一人。さすがに見目が整ってる騎士ばかりだ。

簡単な紹介を受けた後、さっそく俺が騎乗することになる天馬に引き合わされた。


ブレーという名の芦毛の天馬。

さきほどの天馬たちよりひと回り大きい。白馬が多い天馬の中で芦毛とはいえ、色があるので、なおさら目立つ。翼の存在感がすごい。白にちかい灰色の翼だ。

仔馬の時に密猟者に攫われたのを保護され、そのまま騎士団で養育されたそうだ。

そのせいか野生の部分が他の天馬より濃い。

結果、優秀だがクセがあるらしい。


――おもしろい。


「これからトップに挨拶すると聞いた。天気が崩れそうだ。今日は地上で軽く試乗するだけでよいだろう」

「承知した」


ブレーに挨拶し、馬場を軽く周る。そろそろ終わりにするか、と思った時、

ふっと浮いたと感じた次の瞬間、ブレーはそのまま高度を上げていく。

みるみる地上が遠ざかった。


――試されているのか。

空気が変わる。冷たい風が吹き抜けた。

天気が崩れる兆しだ。

ガレンは手綱を強く引くのをやめた。

無理に抑えれば落とされる。


――任せるか。

次の瞬間、急降下。

重力が一気にのしかかる。

息が詰まりそうになるが、体幹に力を入れ、ブレーに身体を添わせる。前に飛び出そうになるところを 脚で挟み込み、落ちるのを防ぐ。


――落ちれば死ぬぞ。

実質、五秒程だったのかもしれない。ふっと身体が浮き上がり、ふわりと着地。


――死なずにすんだな。


「ダルクレスト!」

焦った隊長の声に目を向けた、その瞬間にブレーが身体をゆすり、まんまと振り落とされた。

先ほどの騎士と同じだ。

おかしくなって、地面に仰向けに寝転んだまま、笑う。


そう来たか。こいつ、本当に面白い。


ひとしきり笑うと、起き上がってブレーを見る。

鼻をひくつかせ、こちらの様子をうかがっているようだった。

近づいていくが、ブレーはそのまま動かない。

つい、鼻面をなで、ぽんぽんと首をたたく。


「お前、おもしろいな。今日はお前の勝ちだ。明日からよろしく頼むな」


そういうと、ブレーは鼻をならして、耳を前後に動かした。

いつの間にか、雨が降り出していた。



演習場から王城へ向かううちに雨はあがっていた。

街からみる王城は高台にあり、いざという時は城塞としての機能も果たす。


無駄がない。そして静かだ。

元は都市国家だった小国をまとめ上げた王国だ。そのせいか、質実剛健というか自由な気風の王家といわれている。

石造りの建物は複数の塔が立つ。重厚さの中に優美さも感じられ、近づくほどにその規模に圧倒された。


カーディの導きでここまで来たのか。数ヶ月前には想像もしていなかった。

案内役の騎士の後ろを歩きながら、周囲を観察する。



「ここから先は居住区になる」

短く告げられる。


「ダルクレストは本日より王城勤務だ。付き人としての業務にあたる」

「承知した」


歩きながら、簡単な説明が続く。

付き人業務は多岐にわたる。

連絡、調整、護衛、雑務。


「雑務、と言っても軽視するな。ここではすべてが仕事だ」

「承知」


優先順位の見極めが必要か。

居住区に入り、部屋に案内される。必要最低限だが、不足はない。

制服も支給される。

騎士団のものとは違う。天馬隊服に近い、ネイビーに金と白がアクセントになっている。簡素で動きやすそうだ。


「規則は後でまとめて渡す。目を通しておけ。着替えて待機していてくれ」

「承知した。短期間となるが、よろしく頼みます」

「こちらこそ、よろしく願う」




着替えたあとしばらくすると、再び呼び出された。


「トップがお待ちだ」

通された部屋は、意外なほど気配が軽かった。


「いらっしゃい」


振り返った男が、親しげに笑う。

金髪碧眼。華やかな美貌。王子と言われれば誰もが納得するだろう。

柔和な笑み。

第一印象はそれだった。


「ガレン・ダルクレスト、だよね」

「はい」

「そんなに固くならなくていいよ。楽にして」


そう言いながらも、視線は外れない。


「これからよろしくね。ガレンって呼んでいいかな」

「はい」

「ありがと。僕、人の名前覚えるのが苦手でさ。ダルクレストよりガレンの方が呼びやすい」

「どちらでも」

「僕のこともリオネルでいいよ」

「いや、それはちょっと」

「じゃあ、トップ呼び?リオネルでいいっていうとリオネル様としか呼べないってみんないうからさ〜、じゃあ、トップでいいよ、っていったら、もうそれが正式な言い方になっちゃってさ。だから、ガレンには、リオネルって呼んでもらおうかと思ってたんだけど」


勘弁してくれ。


「いえ、皆と同じにトップで。 リオネル様よりトップの方が言いやすいですし…」

「リオネルでいいよ」

「いえ、さすがにそれは」

「そう?長いっていうなら、リオでも別にいいけどね」

「それは無理です。トップで」

「そっかー。了解。じゃあ、リオって呼べるようになるくらい頑張ってね。僕、けっこうめんどくさいからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「そういえば、天馬に乗ったんだって?」

「はい、試乗をしました」

「どうだった?」

「一瞬、死ぬかと思いました」


一瞬、男の目が細くなった。

「へえ」


――何かを測られたか。


「いいね。その答え」

軽く笑う。


「じゃあ、天馬騎乗は基礎からはじめて。その後は」

少しだけ間を置いて、続けた。

「メロンパン訓練だね」

「……メロンパン訓練?」

「そ。いろいろ考えたんだよ。楽しみだね」

にこっと笑う。

「今日はこれで終わりでいいよ。お疲れ様」

そう言って、背を向けた。


さすが、カーディの紹介だ。一筋縄ではいかない。

礼をして、退出する。


……メロンパン訓練ってなんだ?


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