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受付ディアナの日常

「ですから、こちらの領収書は認められません」


この男は何度同じことを言わせるのか。


「おかしいじゃないか!イナゴの駆除に参加して、怪我をしたんだ。治療費がでると聞いたぞ!」

「ええ、正規の領収書であれば、ですが」


はぁ……とわざとらしく息を吐き、ディアナは領収書の日付をペン先で叩いた。

「この日付、“1”を書き足してますよね」


男の目が僅かに泳ぐ。

「インクの成分も違いますし、他の文字より新しい」


ぐっと目を見据え、にこりと笑う。

「分析魔法、かけますか?」


男は言葉に詰まり、舌打ちした。

「もういい!こんな男みたいな女に何言っても無駄だな!」

吐き捨てるように言い、踵を返す。


まったく、本当に頭が悪い。

これで終わると思っているあたりが、特に。

情報共有なんて考えつかないのだろう。

罵倒なんて、まるで刺さらない。

周囲の冒険者たちの視線にも、気づいていないらしい。


―― 本当に、救いがない。


やれやれ、と思っていると、

「なにあれ!ムカつきますね!ディアナさんに向かって! 

ディアナさんは男顔の美女でしょ!巻き髪のディアナ、知らんのか!」

ヒュリちゃんがぷんすか怒っている。

「あいつ、ディアナさんの顔、ちゃんと見てたのかな?めっちゃ、無表情で怖かったのに!」


……うん、それもなんかちょっと違うよ、ヒュリちゃん。


「ところでベルフォール家の依頼はうまくいったみたいね。先方もまた依頼したいということだったわ」


「わ!うれしい!リアちゃんがものすごくかわいくて、三人で悶えました!」

勢いよくいったかと思うと、ちょっと言い淀む。


「ん?どうかした?」


「いえ、リアちゃんがとってもご家族に大切にされていて。

ふと、ガードストリスの卵を採った自分を顧みてしまって」


「……なるほど」


「親が卵を取り返そうとするのは当たり前なのに、わたし、しつこいんだよ!とかいって魔力思いっきりあてちゃって…」


「うん」


「……人さらいみたいなこと、してるなって思っちゃって」


「そっか」

まぁ、そういうふうに考えてしまうと、つらいわよね。

ヒュリちゃんは話しながら、視線を落としている。


「でもね」

声をかけると、顔を上げてこちらを見る。


「全部が生き残るわけじゃないわ。あの場でも、別の魔物が来ていたのでしょう?」

「あ……」


「それに、あなたが持ち帰った卵で助かる人もいるの」

「あ……」


「卵をとることと人さらいは同じじゃない」


小さく息を吐いて、ヒュリちゃんが笑った。


「……そっか。ありがと。ディアナさん」




「お疲れさま〜」

仕事帰りにいつものメンバーで乾杯する。


「今日はディアナ姉さん、めんどくさかったね〜」

「情報共有されるとか思わないんだね」

「アホの相手は疲れるねぇ」


「だれも助けてくれないし」


「だって、ディアナだもん」

「みんな、安心してみてましたよ」


「ヒュリちゃんは怒ってたね。かわいかった」

「さすが、おこじょちゃん」

「カヤちゃんとイタチペアになったらしいよ」

「イタチ?」

「ルカくん情報」

「あ〜、あの二人、プチ猛獣だから、ある意味あってるかも」

「ルカくん、二つ名、猛獣使いになったりして」

「あ、いいね、それ」


「そういえば、ヒュリちゃん、今度、リサンドラ・オルディナ・アヴェロンに魔法習うらしいよ」

「えー!すごいじゃない」

「前からの知り合いで仲良しみたい」

「ヒュリちゃん、カーディさまにも気に入られてるし」

「でも、本人絶対気づいてない」

「そう、気づいてたらあんな普通にしてないでしょ」

「…っていうより、むしろ嫌そう」

「カーディさま、そういうところも楽しんでる」

「余裕がある男?」

「いいよね」

「イナゴ駆除の時の黒いロングジャケットもかっこよかった!」

「わかる、あれずるい」

「しかも “形から入るタイプ” って自分で言ってて」

「そこもいい」


ちょっと間があって――

「……ああいう人、日常にいたら楽しいのにね」

「ほんとほんと」

「う〜ん、楽しいけど、毎日いたら、たぶん面倒」

「たまに見かけるくらいがちょうどいい」


みんなであれこれ想像しはじめる。


「……うん、確かにそうかも」

「普段はお茶漬けがベスト」

「東の?」

「そう。ふるさとの味なの。飽きない」

「家庭の味ね」

「ご馳走は毎日いらないか」


気がつけば、全員がうなずいていた。




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