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フィルム36枚じゃ、君を撮り足りない。 〜きみに感光(こが)れる、写真部の初恋〜  作者: ゆあ


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8.ミノルタ

「へ?」

 頭が真っ白になった。

 え……?

 今、小坂先輩がオレに話しかけた?

 さっき変な挨拶しちゃったのに?

 いや、待て待て。

 先輩、今なんて言った?

 頭の中で、先輩が言った言葉を必死に思い返す。


 ……どこのメーカー?

 えっと……何が?

 メーカーってことは……オレの持ち物のこと?

 え?オレ、今なんか持ってたっけ?


 オレが脳内で疑問の渦に飲み込まれている間にも、部室の空気はじわじわ静かになっていく。

「…………」


 あれ?

 なんか静かじゃない?

 恐る恐る顔を上げると、スミちゃん先輩もつぅちゃん先輩も、不思議そうな顔でオレを見ていた。

 もちろん、小坂先輩も無言のまま。


 ヤバッ、やっちゃった!

 絶対変な奴だと思われたぁ……

 だ、だって昨日だって、まともに話せなかったし……

 今日なんて挨拶すら失敗してる。

 小坂先輩の中で、オレって【まともに挨拶すらできない後輩】ってレッテルを貼られてるんじゃないか?

 うわぁ……最悪。

 やり直したい。

 今からでもちゃんとやり直したい!


「……お疲れ」

 そんな自己嫌悪MAXなオレに、小坂先輩はポツリと呟いた。

「あ、お疲れ様です……」


「…………」

「…………」

 またもや沈黙が続く。

 いや、オレ!なんか言えよ!

 せっかく先輩が話しかけてくれたんだから、ちゃんと言えよ!


「なぁ……それ、どこのメーカー?」

 先輩はオレの不安な気持ちを無視して、もう一度同じ質問をしてきた。

 ただ、今度はオレが首から提げていたカメラを指差して聞いてきたから、なんのことかやっとわかった。

「あ、あの……えっと……みの、た?あ、ミノルタって書いてる!」

 レンズの上あたりに書かれた文字をオレはたどたどしく読み上げる。

 でも、自分で読んでおきながら、その社名に全然ピンとこない。

 ミノルタ……?

 そんなメーカーあったっけ?

 初めて聞くけど……あ、オレが読み間違えただけとか?

 じゃあこれなんて読むんだろ?


 カメラで有名なのってキヤノンとかニコンとか、そういう名前じゃなかったっけ?

 テレビのCMとかでも聞いたことあるし、なんとな〜く【プロが使うすっごいカメラを作ってる会社!】って思うのがそれなんだよね。


 でも、ミノルタなんて会社、聞いたことない。

 ……え?

 もしかして、じいちゃん……適当に古いカメラくれたとか?

 昨日は、入学祝いにもらった大切なカメラだって嬉しくて仕方なかったのに、なんか落ち込んでしまう。

 だって、銀色のボディもカッコいいし、じいちゃんが昔使っていたって聞いただけで、なんだか特別なものに感じていた。


 でも、もしこれが全然すごくないカメラだったら……

 なんとなく不安になって、オレはもう一度手の中のカメラを見る。


 ……いや、でも。

 じいちゃんがくれたんだ。

 きっと、何か理由があるはず。

 そう思いたいのに、やっぱり少しだけ気になってしまった。


「ミノルタか……なら、機種は違うけど同じだな」

 なんか呆れたようなため息交じりに言われたけど、小坂先輩と一緒だと言われ、オレはつい嬉しくなってしまう。

「え!先輩の一緒なの?」

 さっきまで微妙なカメラなんじゃないかって不安になってたけど、一気にこれがすごいカメラに思えてきた。


 そして、小坂先輩は自分のカメラを持ってオレの方に近づいて来る。

 先輩のカメラは、真っ黒でなんかカッコよかった。

 同じメーカーだって言っていたけど、本当に一緒なのか疑わしくなる。


「フィルム、持ってきてる?」

 先輩はオレの顔を見ず、淡々と聞いてきた。

「あ、はい。高かったから一個だけ買ってきました」

 昨日気になって箱だけ開けてみたものの、白っぽいケースに入ったフィルムはどうやって入れるのか見当がつかない。

 それを小坂先輩に渡すと、先輩は受け取ったフィルムを一度確認するように眺めた。

「……これなら大丈夫」

 へ?何が大丈夫なんだ?

 フィルム?

 カメラ?

 オレ?


 ん〜……まぁいいか。

 先輩がそう言うなら、きっと大丈夫なんだろう。


「カメラ貸して」

 言われてオレは、先輩にカメラを渡した。

 小坂先輩は、慣れた手つきでオレのカメラの背面カバーに指をかけた。


 パチン。

 小さな音を立てて、カメラの中が開かれる。

「……」

 先輩は迷うことなくフィルムを入れる場所をみたあと、巻き取り部分を確かめていた。

 その動きは、昨日カメラを構えていたときと同じだった。

 無表情で、淡々としている。

 でも、カメラに触れているときの顔は、なんとなく優しいような気がした。


「ここに入れる」

 そう言って、先輩はフィルムとカメラをオレに渡してきた。


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