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フィルム36枚じゃ、君を撮り足りない。 〜きみに感光(こが)れる、写真部の初恋〜  作者: ゆあ


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7.入部初日!

「失礼しま~す!」

 放課後のチャイムが鳴ると同時に、オレは誰よりも早く教室を飛び出した。

 向かう先はもちろん——写真部の部室だ!


 昨日までは、ただの古いカメラ……というか、存在すら忘れていたカメラだったのに、今は宝物みたいにキラキラしているように見える。

 そんなカメラを、オレは首からストラップを提げ、両手でそっと支えながら、ワクワクした気持ちで廊下を歩いた。

 本当は今すぐ走って行きたいけど……我慢した。

 だって、そんなことをして万が一転んだり、カメラを壁にぶつけたりしたら大変だ。

 だから、逸る気持ちをぐっと堪え、大切なカメラを抱えながら部室へ向かった。

 早く部室に行きたいのに、カメラのことを考えるとつい慎重になってしまう。


 ……こんなの、昨日までのオレだったら絶対にありえなかったのに……

 オレ……今、カメラ持って歩いてるんだ。

 そう思うだけで、なんだか変な感じに胸がドキドキする。

 休憩時間のたびに、このカメラを何度も見てしまった。

 授業中だって、机の横に掛けている鞄の中にちゃんと入っているのか気になって仕方なかった。


 傷付いてないかな?

 ストラップ外れてない?

 ……ちゃんと持って来たよな?


 ……いや、何回確認するんだよ!って、自分でも思う。

 でも、それくらい楽しみで仕方なかったんだ。


 早く先輩たちに見せたい!

 小坂先輩に、オレのカメラを見てもらいたい!


 昨日までは、使い方もわからないただの古いカメラだったのに……

 まだ一枚も使ってないのに、今はもう、オレの大切な相棒になっていた。


 そんなことを考えながら部室の前まで来ると、オレは扉の前で一度だけ深呼吸をする。

「……よしっ!」

 気合を入れ、両足に力を入れて勢いよく扉を開ける。

「しっつれいしま~す!」

 元気いっぱいの大きな声で挨拶してから部室に入ると、そこには昨日、オレの入部を後押ししてくれたスミちゃん先輩とつぅちゃん先輩がいた。


「あ、銀ちゃん来たね~」

「銀くん、ちゃんと来た。えらいえらい」

 ふたりの先輩に頭を撫でられ、なんかちょっと複雑な気分。

 普通だったらオレにもモテ期が来た!って喜ぶところなのかもしれない。

 でも……なんか違う。

 だって……スミちゃん先輩とつぅちゃん先輩の対応ってどう考えても子犬を褒めてる感じなんだもん。

 なんか、彰がオレを褒めるときによく似てる気がする……


「おぉ~!それが銀ちゃんのカメラ?」

 スミちゃん先輩は興味津々と言った様子で、オレが首から提げているカメラを覗き込んできた。

「すご~い!本格的なカメラだね~」

「です!じいちゃんにもらったカメラで、一眼レフカメラって言ってました!」

 まだ一度も写真を撮ったことのないカメラだけど、これからずっと一緒に色んな景色を撮影するカメラだ。

 なんかそう思うだけで、愛着がわいてくる。


「うんうん。いいカメラだと思う。わたしはカメラ持ってないけど」

 黒髪ぱっつんの先輩で椿先輩、通称つぅ先輩が褒めてくれる。

「でも、オレ……ホントに使い方わかんなくて……」

 褒めてもらえたけど、そもそもどうやって使うのかさっぱりわからない。

 とりあえず、フィルムがいるってのはわかってたから、昨日の帰り道に買ってきた。

 三十六枚撮りってやつで二千円もして、ちょっとビビった。

「イチくーん、これってイチくんのとは違うやつ?」

 スミちゃん先輩が名前を呼んだお陰で、オレはようやく小坂先輩が部室にいることに気付いた。


 部室の奥では、小坂先輩が光る箱の上に何枚も小さな写真みたいなのを並べ、ルーペを片手にじっと覗き込んでいる。

 その真剣な横顔は、昨日見たカメラを構えていた横顔と同じで、近寄り難いくらい集中していた。


 その視線が、ゆっくりとオレの方へと向けられる。

「……」

 一瞬だけ、目が合った。


 昨日は写真を撮る姿は、カッコいいって思った。

 けど……やっぱりこうやって正面から見られると、ちょっと緊張してしまう。

 小坂先輩って、表情があまり変わらないから、不安になる。

 怒ってるわけじゃないんだろうけど……何を考えているのかも全然わからない。

 昨日だって、あんまり話すことができなかったし……

 っていうか、何を言えばいいんだ?

 昨日、一応自己紹介はしたから、オレの名前は知ってると思う。

 えっと……朝だったら『おはようございます』?

 いや、もう放課後だからそれはおかしいだろ。

 じゃあ『こんにちは』?

 いやいや、部活中だし、オレよりひとつ上の先輩相手だからもっと敬語で言わなきゃだよな。

『お疲れ様です!』とか?

 うん、多分そうだ!それなら間違いないはずだ!

『お疲れ様です』

『お疲れ様です』

 頭の中で何度も練習する。

 よし、これなら大丈夫だ。

 そう思っていたのに——


「あ……おは、こん、えっと……お疲れ様です!」

 ……やらかした。

 全部混ざっちゃった……

 自分でも何を言っているのか意味がわからない。

 というか、恥ずかしすぎて顔が熱い。

 うわぁ……今すぐ穴があったら入りたい……

 お願いします。今のは聞かなかったことにしてください。

 そう願いながら俯いていると——


「それ、どこのメーカー?」

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