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フィルム36枚じゃ、君を撮り足りない。 〜きみに感光(こが)れる、写真部の初恋〜  作者: ゆあ


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6.じいちゃんのカメラ

「シバ、部活決めた?」

 教室に入って席に着くなり、彰が身を乗り出して聞いてきた。

 オレはこの言葉を待っていたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべる。

「へへっ……見て見て!」

 机の横に掛けていた通学バッグを開け、教科書やノートを押し退けるようにして、一番奥に大事にしまっておいたものを取り出す。

 じいちゃんお手製の山吹色のフェルト生地で作られたカメラケースから出てきたのは、今日からオレの相棒になるアイテムだ。


「じゃーん!」

 布を剥ぎ取り、銀色と黒のボディーがカッコいいじいちゃんにもらったフィルムカメラを机の上に置く。

 今朝、傷付けないように、家を出る前から何度も確認してきたオレの大切な相棒だ。


「はぁ~、やっぱめっちゃカッコいい~」

 窓から入ってきた陽光を受け、銀色のボディがきらりと光る。

 首から提げる青色のストラップだけは、じいちゃんが新品をくれた。

 シルバーと黒のゴツゴツした見た目に、鮮やかな青のストラップが爽やかさを伴って見えて、すっごくカッコいい。


「……カメラ?」

「そっ!じいちゃんにもらったやつ!」

 昨晩、勉強机の引き出しの奥から発掘した。

 学校から帰ってきて、急いでカメラを探したけど、どこに仕舞っておいたのか忘れてたいせでめちゃくちゃ焦った。

 今、オレの部屋はカメラを探し回ったせいでぐちゃぐちゃだ。

 帰ったら片付けないと、母さんにドヤされてしまう……


「へぇ~、それって一眼レフカメラってやつだろ?」

 彰に言われ、オレはうんうん。と何度も頷く。

「シバのじいちゃんがくれたってことは、結構いいやつじゃないのか?」

 彰も普段見慣れない本格的なカメラに興味があるのか、色んな角度から見てくる。

「ん~、値段とかはわかんないけど、多分!」

 このカメラの価値は……そういえば調べていない。

 でも、じいちゃんが入学祝いだって言ってくれたんだから、安いものではないと思う。

 ってか、オレがちっちゃい頃はこのカメラを使ってたような気がするし……


「へぇ~……カッコいいじゃん」

 カメラを構えるオレを見て、彰は頬杖を付きながら褒めてくれる。

 普段カッコいいと言われることの少ないオレは、そんな何気ない言葉にすらつい嬉しくなってしまう。

「へっへ~」

「カメラを持ってるってことは、写真部に決めたのか?」

 彰に入った部活を当てられ、顔がニヤける。

「せいかーい。なんか、先輩たちも優しそうだし、廊下に貼ってた写真見たら入りたくなった!」

 カメラを両手で持ちながらニコニコと話していると、彰は少し目を細めて笑いながら、軽く頷いていた。

「そっか。シバがそんな楽しそうに話すんだから、きっといい先輩たちだったんだな」

「うん!めちゃくちゃいい先輩たちなんだぜ!」

「……よかったな。お前、ずっと『どの部もピンとこねぇ~!』って叫んでたもんな」

 彰に言われ、初めて気づいた。

 昨日から、頭の中は写真部のことでいっぱいだった。

 じいちゃんにもらったカメラ。

 廊下に貼られていた、あのヒマワリ畑の写真。

 それと……小坂先輩。

 スミちゃん先輩とつぅちゃん先輩も、話していてすっごく楽しかった。

 明るくて、優しくて、初めて会ったばかりなのに、オレがすぐに馴染めるような空気を作ってくれた。


 でも、不思議と一番最初に浮かんだのは、小坂先輩だった。

 無表情で何を考えているのかわからない人だったけど、怖くはなかった。

 写真を構えている姿を見た瞬間、勝手に怖い人かもって思い込んでいた印象がどこかへ消し飛んだ。

 それと同時に……ちょっとだけ、先輩の見ている景色がどんな感じなのか、知りたくなった。


「……へへっ、そうかも……。オレ、彰みたいにやりたいこと見つかったんだ」

 照れくさくて、鼻の下を手の甲で擦りながら笑っていると、彰は犬でも撫でるみたいにガシガシとオレの頭を撫でてきた。

「ちょっ!いきなり何すんだよ!」

 オレが腕を振って抵抗するも、長身の彰にとっては何の抵抗にもなっていない。

「シバ、よかったシャン。ちゃんとやりたいこと見つけられてエラいぞ~」

「うるせぇー!犬扱いすんな!」

 オレが文句を言うと、彰は楽しそうに声を出して笑った。

 オレもそれにつられて、つい笑ってしまう。


「でもさ……お前、それフィルムってのがいるんじゃね?使い方わかんの?」

 彰に言われ、オレはもう一度カメラを見つめる。

 そう。これはフィルムカメラだ。

 母さんが持っているようなコンパクトデジカメとは全然違う。

「んぅ~……わかんないけど、多分大丈夫!先輩と顧問の先生がカメラ持ってるって言ってたし!」


 多分、大丈夫だと思う。

 どうしてもわかんなかったら、スマホで撮影するのもOKだって言ってたし。

 でも——せっかくじいちゃんがくれたカメラなんだ。

 できることなら、このカメラをちゃんと使えるようになりたい!

 その方が、なんかカッコいいじゃん!


 それに、カメラを構える小坂先輩はカッコよかった。

 何もない壁を真剣な表情で撮ってる横顔が、今でも瞼の裏に残っている。

 オレには、何を撮っていたのか全然わからなかったけど……

 きっと、あのヒマワリ畑の写真みたいなすごい一枚を撮ってたのかもしれない。

 だからこそ、ちゃんと知りたい。


 どうすればあんな写真が撮れるようになるのか……

 どうすれば、見た人の足を止める一枚が撮れるのか……


 早く放課後にならないかなぁ……

 じいちゃんのカメラを持って来たって言ったら、先輩たち……驚くかな?

 そう考えるだけで、オレは放課後が待ち遠しくてしかたなかった。

 こんな気持ち……高校に入って初めてだった。

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