4.シャッター音
「あ、あの、えっと……その、写真のことは全然わかんないんですけど、オレが入ってもいい部なんですか?」
オレは言葉を詰まらせながら、上目遣いに見上げて問う。
そんなオレを見て、ふたりは顔を合わせたあと笑った。
「そんな緊張しなくて大丈夫だって~」
「そう、大丈夫。今は部員三人だけど、絶滅危惧種くんが入れば四人。四人いれば立派な写真部になる。それに、写真に興味があれば、それでいい」
さっきまで新入生は天然記念物とか絶滅危惧種とか言っていたけど、オレ以外に増える予定ってあるのかな?
でも……多分、黒髪ぱっつん先輩も写真が好きなんだと思う。
最後の言葉を口にしたとき、すっごく優しい表情をしていたのを、オレは見逃さなかった。
「興味なら……あります!」
オレがハッキリと答えると、ふたりはニッコリと笑みを浮かべ、部室の扉を開けてくれた。
「うんうん。念願の新入部員だね♪」
「絶滅危惧種くん、ささっ!入りなさい」
ふたりに促され、オレは初めて入る教室に内心ドキドキしていた。
高校の部活だから、本格的なカメラが必要だったりするのかな?
機材とか、カメラの勉強しなきゃダメかな?
カシャッ。
チチチチチ……カチッ。
そんなオレの不安を打ち消すように、静かな部室にシャッター音が響いた。
そこには、部員らしき男子生徒がひとりだけいた。
首から提げた黒いフィルムカメラを胸の前で構え、慣れた手つきで静かにシャッターを切る。
何を撮っているのか気になって、オレは彼が構えているレンズの先を見つめてみる。
しかし、そこには誰もいなかった。
ただ真っ白な部室の壁があるだけだった。
それでも彼は、何度かシャッターを切り、そのたびに親指で巻き上げレバーを送る。
やがてカメラ上部のカウンターを確認すると、小さく息を吐いて、静かにカメラを下ろした。
「あ、イチくんはもう来てたんだ。イチく~ん、念願の新人くんだよ~」
ギャル先輩が声を掛けるも、聞こえていないのか反応がなかった。
「もぉー!イチくん、またムシ?」
少し間を置いてから、その人はレンズキャップを静かに嵌め、ぶっきらぼうに言ってきた。
「……矢田、うるさい」
彼の言葉を聞いたギャル先輩は大きな目をさらに大きく見開き、驚いたような顔をしていた。
「ヒドーイ!ねぇ、アタシうるさくなんてないよね?」
同調を求めてこられるも、オレも困ってしまう。
「スミレ、絶滅危惧種くんが困ってる。それにスミレがうるさいのはみんな知ってるから」
「つぅ!ヒドイ!」
女子ふたりのツッコミどころ漫才がオレの頭上で繰り広げられる。
「あ、あのぉ……えっと……オレ、一年B組、出席番号十二番!柴田銀二です!」
オレはこの空気をぶった切るべく、直角に頭を下げ、大きな声で自己紹介してみた。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が部室内を覆う。
いや、オレもこのタイミングは何か変だと思うよ?
でも、ギャル先輩も黒髪ぱっつん先輩も、この調子じゃいつまでたっても挨拶できそうになかったし……
だったら、一年であるオレが頑張らなきゃって思うじゃん?
でも……頼むから、誰か早く反応してくれないかな。
内心涙目になりながら、恐る恐る顔を上げる。
「……プッ!や~ん、銀ちゃんだって!初々しい!」
さっきまでの重い沈黙を打ち砕いてくれたのはギャル先輩だ。
先輩はオレを背後から抱き着くと同時に、犬をあやすようにガシガシと頭を撫でてくる。
「銀ちゃんか~わいい~♪シバっぽいよね。名前も柴田くんだし、柴犬の親戚だったりする?」
「スミレ、ズルい。私も撫でたい」
そう言って、黒髪ぱっつんの先輩までもが、オレの頭を撫でてくる。
「ぁ、え?ちょっと……」
先輩たちにもみくちゃにされ、どうすることもできない。
助けを求めるように、オレは目の前にいる人へ視線を向けた。
ほんの一瞬だけ、彼と目が合う。
無表情で、何を考えているのか全然わからない。
なのに、不思議と怖いとは思わなかった。
さっきまでカメラを構えていた姿が、頭に残っていたからだ。
真剣で、静かで……自分の大切なものに、まっすぐ向き合っているように見えた。
だから——なんとなくだけど、この人なら助けてくれる。そんな気がした。




