3.突撃!
写真部はパソコン教室の隣が部室になっていて、扉の横の壁には、あの掲示板に掲載されていた写真以外にも何枚も張り出されていた。
最初は何気なく見ているだけだった。
でも、一枚、また一枚と目を向けていくうちに、自然と足が止まる。
夕焼けに染まった校舎。
雨上がりの水たまりに映った青空。
校庭を走る野球部員たちの姿。
教室の扉を額縁みたいに切り取った、廊下で楽しそうに笑い合う女生徒たち。
ここに貼りだされているのは、全部この学校で撮られた写真なのに、オレが知っている景色とは全然違って見えた。
「……すげぇ」
写真のサイズはマチマチなのに、見ていてなんだかワクワクする。
写真なんて、スマホで撮るくらいしか知らなかった。
じいちゃんが撮っていたのは、なんか堅苦しいイメージがあったのに、ここに貼りだされた写真は、どれも生き生きしているように見えた。
同じ景色でも撮る人が違うだけで、こんなに印象が変わるんだって思った。
じいちゃんが『写真は底なし沼なんじゃよ』と、自慢げに言ってた理由が、ほんの少しだけわかった気がした。
その中の一枚を見た瞬間、オレの足が止まる。
どこかの教室の窓から夕方の校庭を撮った写真。
他の写真には、誰かしら人が映っていたのに、この写真には誰ひとり写っていなかった。
世界中から人がいなくなってしまったような静けさに、オレは目を奪われた。
「……これ、さっきの写真と同じ感じがする」
不思議だ。
誰も映っていないのに、誰かがそこにいた気配だけが残っているような気がした。
寂しい景色のはずなのに、不思議と嫌じゃない。
まるで——誰かを待っている放課後みたいで、胸の奥がほんの少しだけ温かくなるような……そんな空気が漂っていた。
ふと、職員室前で見た、一面のヒマワリ畑の写真を思い出す。
あの写真とは雰囲気も、写っている景色もまるで違う。
それなのに、不思議と同じ人が撮った写真なんじゃないかって思えた。
「あって~?入部希望かな?一年生がここに来るなんて珍しいね」
「——ッ!?」
いきなり背後から声を掛けられたせいで、心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
というか、軽く飛び上がってしまった。
「あはははっ、つぅ見て!一年生だよ~」
振り返ると、そこに立っていたのはミルクティ―色の長い髪をポニーテールにした見るからにギャルって感じの人だった。
胸元のリボンの色が青色ということは、オレよりもひとつ学年が上だということはわかった。
目をキラキラと輝かせながら、両手をわきわきと動かしている。まるで獲物を見つけたライオンみたいな目をしていて、今にも飛びかかってきそうだった。
その様子を見て、オレは思わず一歩後ずさってしまう。
「ひとりも見学が来ないから、ヒマだったんだよね~。一年生捕獲~♪」
いきなり抱き着かれそうになり、咄嗟に避ける。
しかし、避けたはずなのに——
「わっ!?」
背後から腰に細い腕がぎゅっと回される。
完全に不意を突かれ、オレはその場でビキッと固まってしまった。
「捕まえた」
聞こえてきたのは、驚くくらい落ち着いた声だった。
振り返ると、そこには黒髪ぱっつんで大きな眼鏡をかけた、ギャル先輩と同じ青色のリボンを付けた先輩が立っていた。
「スミレ、捕獲なんて宣言したら逃げるに決まってる。獲物は背後からこっそり狙うもの」
オレの背から聞こえてきた声に対して、色々ツッコミを入れたいけど、色んなことが一度に起こりすぎて頭が回らない。
「えぇ~、だってレアな一年生だよ?写真部にきた一年生なんて、天然記念物じゃん!」
「天然記念物は言い過ぎ。どちらかと言うと絶滅危惧種」
黒髪ぱっつんの先輩は、真顔のままサラッと言ってのける。
……この人、冗談で言ってるのか本気で言ってるのか全然わからない。
「絶滅危惧種くん、驚かせてごめんね。この子、キミを見つけた瞬間にテンション上がったみたい」
「つぅ、フォローしてるようで全然フォローになってないんだけどぉ~」
不満げに唇を尖らせて文句を言うギャル先輩。
こっちの先輩はわかりやすく元気な人だ。
でも、この黒髪ぱっつん先輩は違う。
真顔のまま変なことを言うから、何が冗談で何が本気なのか全然わからない。
……もしかして、この黒髪ぱっつん先輩の方がヤバいのかも?
……というか、そろそろ離して欲しい。
「事実」
「ひどっ!?」
しかも、ふたりが言い争うたび、オレの腰に回った腕の力が強くなる。
……写真部って、こんな部活だっけ?
オレ、まだ部室に一歩も入ってないけど、帰りたくなってきた……




