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フィルム36枚じゃ、君を撮り足りない。 〜きみに感光(こが)れる、写真部の初恋〜  作者: ゆあ


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13.写真と向き合う

「……」

 写真を見終わったオレは、しばらく顔を上げられなかった。

 せっかく楽しみにしていたのに……

 初めて撮った写真なのに、全然上手く撮れてなかった。

 小坂先輩みたいに綺麗な写真がいっぱい撮れてるんじゃないかって期待していただけに、ショックが大きすぎる。

 そりゃ、初めて撮ったんだから、先輩みたいに撮れるわけがないのに……

 思い上がっていた自分が情けなかった。

「……」


 そのとき、不意に目の前に細長い黄色っぽい何かが差し出された。

 オレの前をふよふよと揺れる物体。

 ふわり、と鼻先をくすぐる揚げたての匂い。

 ほくほくのじゃがいもと、ラードの香ばしさ、ほどよい塩気が混ざり合った匂いに、しょんぼりしていた鼻がピクリと動く。


 ……え?

 オレが顔を上げると、小坂先輩が一本だけ摘まんだポテトをオレのほうへ差し出していた。

「……食べろ」

「え?」

 思わず間抜けな声が出た。

 なんで今、ポテト?

 写真の話じゃなくて?


 先輩とポテトが結びつかず、頭の中でクエスチョンがグルグルと渦巻く。

 オレが首を傾げたまま固まっていると、先輩はいつもの無表情のまま、でも少しだけ視線を逸らしながらもまたポテトを近付けてくる。

「落ち込んでると、余計悪いことを考えるだろ」

「……」

 ドキッとした。

 オレが頭の中で嫌なことを考えていたのを見透かされてるのかと思った。

「腹減ってるなら、なおさらだろ?」

「……そんなもん、ですか?」

「そんなもんだ」

 ぶっきらぼうな言い方だったけど、先輩の返事には迷いがなかった。

「腹が減ってるときに考えることなんて、大体ろくなことじゃない」

 そのとき、初めて気づいた。

 いつもと変わらない無表情だけど、よく見ると、先輩の耳は少しだけ赤かった。


「今なら、この熱々ポテトをやる」

 そう言って、先輩はさっきから差し出していたポテトの先端でオレの唇を軽く突く。

 ぁ……唇、ついちゃった。

 ……これは、断れないよなぁ……


 ただポテトを食べるだけ。

 それなのに、先輩の手から受け取ると思うと、なんだか照れ臭かった。

 でも、せっかく先輩が慰めてくれてるんだから、その好意には甘えてもいいよね。


 ぱくり。

 先輩の手から、そのままポテトに齧りつく。

 サクッとした揚げたての軽い音と一緒に、口の中いっぱいに広がるほくほくのじゃがいもの甘みと塩っ気。

「……おいしい」

 オレが思わず呟くと、先輩の口元がほんの少しだけ緩んだ。

「だろ」

 どこか自慢げなそのひと言がおかしくて、オレは思わず笑ってしまった。

 さっきまで胸の奥にあった悔しさは、まだ消えたわけじゃない。

 でも、不思議とさっきまでよりも息がしやすかった。


「……ありがとう、ございます」

 オレがぺこりと頭を下げると、先輩は照れ隠しするみたいに視線を逸らし、残っていたポテトを一本口へ放り込む。

「……ん」

 短い返事だったけど、なんだか少しだけ優しく聞こえた。


 オレは改めて写真を見返そうと、自分のテーブルの上を片付ける。

 失敗写真ばっかりだと思うけど、もう一回、ちゃんと見てみよう。

 そう思った瞬間だった。

「……貸せ」

 先輩が手を差し出してきたので、オレは慌てて写真の束をそのまま先輩に渡す。


 先輩は一枚ずつ静かにオレの写真を眺めていた。

 時々、順番を入れ替えたり、横に並べたりしている。

「あぁ……露出が合ってなかったんだな」

 ポツリと呟かれた言葉に、オレは顔を上げて先輩を見た。

「こっちはシャッター速度が遅かったから、手ブレしてるんだな」

 スミちゃん先輩とつぅちゃん先輩先輩らしき人影の写真を見て、先輩は冷静に分析する。

「こっちは……指、入ってる」

 先輩に言われ、オレもその写真を覗き込む。

「あっ!」

 思わず声が裏返った。

 言われてよく見ると、写真の端っこにボヤけた肌色が写りこんでいる。

 多分、これはオレの指だ。


「まぁ……全部初心者あるあるだな」

 ガックリと肩を落として落ち込むオレを、先輩はポテトを食べながら慰めてくれた。

「うぅ……先輩も、やった?」

 オレが上目遣いに尋ねると、先輩は苦笑いを浮かべながら「最初はな……」と言ってくれた。

 それだけで……なんか、安心できた。


「それに、よく見たらいいのもいっぱいあったぞ」

 そう言って、先輩はオレの撮った写真の中らから、一枚を見せてくれる。

 部室をこっそり覗いたときに見た、小坂先輩の横顔。

 なんか真剣に光るボックスをルーペで眺めているのが気になって、撮ったやつだ。

「これ……盗撮だけどな」

 先輩はちょっと微妙な笑みを浮かべながら言ってきたけど、オレは先輩に褒めてもらえて嬉しかった。


「えっへへ……小坂先輩、なんか真剣に見てるのがカッコよくて……つい」

 言い訳を口にすると、先輩は軽くオレの額にデコピンしてきた。

「お前にはスナップが向いてるのかもな」

「スナップ?」

「何気ない瞬間を撮る写真のことだ」

 先輩の言葉に、オレはうんうんと頷く。

「でも、盗撮は犯罪だから気を付けろよ?」

「は~い」

 先輩に窘められ、オレは笑いながら返事をする。

 さっきまでどん底の気分だったのに、先輩のひと言で、その気持ちはなくなった。

 失敗は失敗だけど、それはオレがこのカメラについて何も知らないからだ。

 知らないことは、これから覚えていけばいい。


 オレはもう一度、自分の撮った写真を見つめる。

 ……悔しい。

 でも、それ以上に——次は、もっと上手く撮りたい。

 いつか、小坂先輩みたいな写真が撮れるようになりたい。

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