12.プリント写真
そして——
ついに、このときがやってきた。
待ちに待った放課後!
いや、正確には朝からずっと待ってたけどさ。
授業中も楽しみでしかたなかったせいで、先生の話を聞きながら時計をちらちら見ちゃった。
あと何時間?
あと何分?
終礼が終わったらダッシュで校門に向かおう!って、そんなことばっかり考えてしまっていた。
だって、今日はオレが初めて自分で撮った写真を見る日なんだ。
ワクワクが止まらないのはしかたないだろ?
だからこそ——
放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間、オレは勢いよく立ち上がった。
そして、小坂先輩と校門前で合流し、昨日訪れたばかりの写真屋さんへと向かった。
◇ ◇ ◇
「はい。次、プリントするなら、先にベタ焼してから選ぶといいよ」
写真屋さんのおじさんがちょっと苦笑いしながら言ってきた。
ベタ焼き?
なんだろ……たい焼きの仲間かな?
でも、プリントって言ってたし、多分写真に関係することだと思う。
「はい!次はそうしてみます!」
ん~……わかんないから、あとで小坂先輩に聞いてみようかな。
オレはおじさんから写真の入った封筒を受け取り、外で待ってくれている先輩の方に足早で戻った。
「小坂先輩、お待たせしました!」
ぼんやりとディスプレイに飾られている写真を眺めていた先輩に、オレは声を掛ける。
先輩は一瞬だけ肩を震わせるも、すぐにオレのほうを見てくれた。
「そんなに待ってない」
ぶっきらぼうな言い方だったけど、それでもオレは嬉しかった。
「写真、確認するんだろ?駅前のハンバーガー屋でいいか?」
先輩はスマホで時間を確認したあと、そう言ってくれた。
「はい!ありがとうございます!」
オレは、すっごく嬉しかったんだ。
初めて撮ったフィルム写真。
どんな感じで撮れたのか、スマホで撮ったのとはどう違うのか……
三十六枚も撮ったんだから、きっといい写真がいっぱいなはずだ。
だから……色々、期待してたんだ。
小坂先輩が買ってきてくれたポテトをテーブルに置き、オレは受け取った封筒をそっと開く。
中には、裏返しにされた写真が入っていた。
たった数日前まで、フィルムカメラなんてただの古いカメラだと思っていた。
でも、今はこの一枚一枚が特別なものに感じる。
だってこれは、オレが初めて自分で撮った写真だから……
写真、どんな感じなんだろ?
スミちゃん先輩とつぅちゃん先輩が笑ってる写真が一枚目かな?
それともゴリせんのやつ?あ……小坂先輩みたいに雰囲気のある一枚が撮れてるかも!
そんな期待を胸に、オレはそっと一枚目を取り出し、写真を裏返した。
「…………」
一瞬、言葉が出なかった。
「……ぇ?」
思っていたものと違った。
もう一枚、次の写真をめくる。
「……あれ?」
もう一枚。
さらにもう一枚……
でも……どの写真を見ても、頭の中で想像していたような、キラキラした写真は一枚もなかった。
色は暗く、全体的にぼんやりしている。
変なところにピントが合ってるせいで、撮りたかった人がボヤけてしまっている。
スミちゃん先輩とつぅちゃん先輩を撮った写真なんて、手ブレしていて、よく見なければふたりだとわからないくらいだった。
「……なんで」
ポツリと出た声は、自分でもびっくりするくらい元気がなかった。
もっと綺麗に撮れていると思っていた。
だって、シャッターを押しているときは、あんなに楽しかったのに……
ファインダーの中で見た景色は、もっと特別に見えていたのに……
「…………」
写真を見るたび、少しずつ肩が下がっていく。
もしかして……じいちゃんがくれたこのカメラじゃ、こんな写真しか撮れないのかな?
そんなことが頭に浮かんだ瞬間、胸の奥がギュッと苦しくなった。
違う。
そんなふうに思いたくない。
だって……このカメラはじいちゃんが大切にしていたものだ。
入学祝いにって、オレに渡してくれた大事なカメラなんだ。
なのに——
上手く撮れなかった悔しさで、一瞬でもカメラのせいにしようとしてしまった自分が嫌だった。
このカメラが悪いわけじゃない。
……たぶん。
きっと、オレが何も知らないからこうなったんだと思う。
でも……悔しい。
悔しくて、情けなくて……
何か言いたいのに、気持ちがゴチャゴチャでうまく言葉にできなくて……
オレは……テーブルの下でぎゅっと拳を握り締めることしかできなかった。




