14:第二章『プロローグ』
風の塊が、頬を薙ぐ。
ぐるぐると天地がとめど無く入れ替わり続け、手足は力無く揺れている。
なんだ。何が起こってる?
魔法陣が光って、意識を失って、それで……
「はっ!?」
目を覚ますと、まばゆい光が目をさした。
地平線の向こうに、眩しい太陽。雲ひとつない快晴、何と美しい夜明けだろう。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
んなこと言ってる場合か!!
俺は、現在天高く、空の上から自由落下していた。
目算上空数百メートル、比較的低い高度にある羊雲が眼下に望めるほどの高度だ。
パラシュートなしでのスカイダイビング。状況の整理はつかないが、本能的に、死が眼前に迫っていることを強く感じていた。
強い浮遊感で、全身に鳥肌が立つ。
「どうなってんだよ!!」
魔法陣に矢が刺さった影響で転送位置がズレた? いや、そんなこと今はどうでもいい!! 何とかしてこの状況から生き延びる術はないか!?
地面がみるみるうちに迫ってくる。この調子だと、時間の猶予は一分もないだろう。
「ひぃ!!」
恐怖で喉が閉まって叫び声すら出なくなってきた。
過呼吸で頭が回らない。
空気が薄い影響もあるのだろう。
とにかく、この状況の打開策を考えなければ死ぬ!!
生成魔術でパラシュートを作る?
いや、それだと時間がかかりすぎて、作り終わる前に地面に激突する。
何とか水に着水を—— いや、だめだ。この高度だと地面とさほど変わらない。
そうだ!! ロイス兄みたく風魔法で浮き上がればいい!!
「あああああっっう!!!」
思い立った俺は、半狂乱で魔力を込める。
制御など知ったものか!! 全力で風を圧縮し、噴射する。
身の毛のよだつような浮遊感が少しずつ少しマシになり、徐々に速度は落ちていく。
でも、まだ落ちている。
速度は落ちたと言っても、地面は相変わらず迫ってきているし、この速度で地面に激突すれば確実に死ぬ。
こうなったら、一か八か全力で減速した後に湖めがけて飛び込むしかない!!
魔力を全開にし、ありったけの風を圧縮、風を噴射して——
「あっ」
本能的に、体を丸める。
恐怖に対する自然な反応、驚くほどスムーズに俺の体は防御姿勢をとった。
次の瞬間、水面へ激突した。
魔術によって圧縮された空気は、膜となり、俺を守った。
耳へ、鼻へ、目へ、容赦なく水が侵入する。
水の中で俺が感じたのは痛み。
全身が打たれたように痛み、五感のほどんどは衝撃によって一時的に機能を喪失している。
もがく、もがく、もがく。
生存本能に突き動かされ、俺の体は、必死に、光の差す水面を目指し、もがき続ける。
「ぶはぁっ!!」
水面へ顔を出した俺が次に目指したのは陸。
霞む目で、緑に覆われた地面を捉え、そこを目指して、必死に泳いだ。
少しの間、死にそうになりながら泳ぎ続け、やっとのことで地上に這い出た。
息が荒い、耳が聞こえづらい、全身が痛む、だけれどそんなことが気にならぬほどに、俺は安堵していた。
「たす……かった……」
そう口にすると、突然、視界が歪む。
ああ、この感覚、覚えがある。
これは確か魔力切れの時の……
そんなことを思い出しながら、俺の意識はふつと途切れた。




