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## 第六話 

## 第六話 


朝の教室は、いつも通り騒がしかった。


でも陽太にとっては、少しだけ“距離感”が違って見える。


その原因は、明確だった。


牧原りさ。


---


「陽太、おはよ!」


りさは当然のように、机の隣に座る。


もう“偶然近くにいる”じゃない。


“そこが定位置”になっていた。


「今日さ、放課後あいてる?」


「また帰るだけだろ」


陽太が軽く返すと、りさは首を振る。


「違う。今日は特別」


その言い方が、妙に断定的だった。


---


放課後。


校門を出た瞬間、りさは手を引いた。


「こっち」


「ちょっと待てって」


「いいから」


小さな手なのに、妙に強い。


抵抗する間もなく、陽太は引っ張られる。


---


たどり着いたのは、公園だった。


あの“始まりの場所”。


ブランコ。

滑り台。

夕方の光。


全部、記憶と同じなのに、どこか違う。


---


りさはブランコに座る。


足をぶらぶらさせながら、ぽつりと言った。


「ねえ、陽太」


「ん?」


「私さ、ちゃんと好きだよ」


あまりにもストレートな言葉だった。


小学生のはずなのに、もう“確認”みたいになっている。


---


陽太は少しだけ黙る。


(前の人生では、ここで全部壊れた)


(今回は違う)


「俺も、好きだよ」


言葉にすると、りさは少しだけ安心したように笑った。


でも、その笑顔の奥に“強さ”が混ざっていた。


---


「じゃあさ」


りさが立ち上がる。


一歩、近づく。


「約束して」


「何を」


「ずっと、私のこと見てて」


陽太は一瞬だけ言葉を失う。


(子どもの言葉じゃない)


---


そのとき。


風が止まる。


公園の音が消える。


ブランコが揺れているのに、音がない。


---


そして。


りさの後ろ。


“影”が立っていた。


顔のない存在。


しかし、今回は違う。


前より近い。


前より“はっきりしている”。


---


陽太の背中に冷たいものが走る。


りさはまだ気づいていない。


「ねえ、聞いてる?」


その瞬間。


影が一歩、近づいた。


---


陽太は思わず声を出しそうになる。


でも——その前に。


りさが振り返った。


---


「……なに、あれ」


りさの声が少しだけ震える。


見えている。


初めて。


---


影が、ゆっくり形を変える。


人型のまま、輪郭が揺れる。


まるで“誰かの未来を真似しているもの”みたいに。


---


りさが一歩下がる。


陽太は前に出る。


「来るな」


小さく言う。


自分でも驚くくらい、強い声だった。


---


その瞬間。


影は止まった。


そして——消えた。


音もなく。


最初からいなかったように。


---


沈黙。


りさは息を整えながら、陽太を見る。


「今の……何?」


陽太は答えられない。


答えた瞬間、この“普通の関係”が壊れる気がした。


---


帰り道。


りさはずっと黙っていた。


でも手は離さない。


むしろ、少し強く握っている。


---


「怖かった」


小さく、ぽつりと。


陽太は横を見る。


りさは俯いたまま続ける。


「でもね」


「陽太がいたから、怖くなかった」


---


その言葉が、妙に重い。


“好き”よりも重い何か。


---


家に帰ると、母が言った。


「今日ね、夢が変わったの」


「……どう変わった?」


「今度は、その人がこっちに来たの」


陽太は息を止める。


---


夜。


窓の外。


影はもういない。


でも“見られている感覚”だけは消えない。


---


陽太は気づく。


この世界はもう、


“恋をやり直すだけの場所じゃない”。


---


## 第六話 終


---


# 次回予告


第七話「侵食」


りさの中に生まれる“違和感の記憶”。


母が見る夢と現実の接続。


そして椎名さくらが口にする、ある禁断の言葉。


「陽太くん、それ……この世界のルール壊れてるよ」


選び直したはずの人生は、静かに侵食されていく。


---



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