## 第七話 「重なる声」
## 第七話 「重なる声」
朝。
教室に入った瞬間、陽太は空気の“濃さ”に気づいた。
昨日までと同じ教室なのに、何かが違う。
理由はすぐにわかった。
牧原りさが、こっちを見ている時間が長い。
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「陽太」
呼ばれる声が、少しだけ近い。
机の横ではなく、真正面。
りさは立っていた。
「今日、ちょっと来て」
「どこに」
「いいから」
その言い方は、もう子どものそれじゃなかった。
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放課後。
またあの公園。
ブランコは動いていない。
風も弱い。
でも空気だけが重い。
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りさは、しばらく黙っていた。
そして突然、言う。
「ねえ陽太」
「ん」
「昨日のこと、ちゃんと覚えてる?」
陽太は少しだけ迷う。
「影のことか?」
りさはうなずかない。
少し違う、と言いたそうな顔だった。
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「違う」
りさは首を振る。
「その前」
陽太の心臓が一瞬止まる。
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「私さ」
りさはブランコに座る。
足は地面についたまま、揺れていない。
「ずっと前から、こういう気がしてた」
「陽太が、たまに“遠い”って」
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陽太は息を飲む。
(違う)
(そんなはずはない)
この世界では、まだ小学生だ。
昨日“影”を見ただけのはずだ。
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でもりさは続ける。
「なんかね」
「陽太の目、時々さ」
「大人みたいなんだよ」
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沈黙。
風が止まる。
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りさは顔を上げる。
その目が、少しだけ潤んでいる。
「ねえ」
「私のこと、ちゃんと好き?」
問いが、重い。
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陽太は答えようとして、一瞬詰まる。
好き。
それは本当だ。
でも“それだけじゃない”。
35歳の記憶が、そこに混ざっている。
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その迷いを、りさは見逃さなかった。
「……やっぱり」
小さく笑う。
でもその笑いは、明るくない。
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「ねえ陽太」
りさは一歩近づく。
「私ね」
「昨日からずっと、変なんだよ」
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陽太は身構える。
りさの声が少しずつ低くなる。
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「夢見るの」
「知らない大人の陽太」
「すごく疲れてる顔してるの」
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陽太の背中に冷たいものが走る。
(……なに言ってる)
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りさは続ける。
「その人ね」
「ずっと“ごめん”って言ってる」
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沈黙。
公園の空気が、さらに重くなる。
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りさの目から、一筋だけ涙が落ちる。
「ねえ」
「私、どっちの陽太が好きなの?」
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その瞬間。
風が吹く。
強く。
ブランコが揺れる。
ギィ、と音がする。
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そして。
公園の端。
また“影”が立つ。
今度は一瞬じゃない。
そこに“いる”時間が長い。
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りさが気づく。
「……また」
でも今回は違う。
怖がっていない。
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むしろ——
見つめ返している。
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「陽太」
りさは言う。
「これ、私のせい?」
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陽太は答えられない。
そのとき初めて気づく。
この世界はもう、
“二人だけの物語”じゃない。
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## 第七話 終
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# 次回予告
第八話「分岐の記憶」
りさの中に生まれ始める“もう一つの記憶”。
母の夢は現実へと侵食し始める。
そして椎名さくらがついに核心へ踏み込む。
「陽太くん、この世界……最初から一つじゃなかった」
選び直したはずの人生が、裂け始める。
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