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## 第四話 「約束」



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## 第四話 「約束」


翌朝。


陽太が教室に入ると、すでに空気が違っていた。


というより、違うのは一人だけだった。


「陽太ー!」


牧原りさが、机の横から勢いよく顔を出す。


距離が近い。


近すぎる。


(……こんなに積極的だったか?)


35歳の記憶が少しだけ混乱する。


でも同時に、別の感情もあった。


——嬉しい、というやつだ。


---


「今日さ、一緒に帰る約束してたよね?」


「勝手に決めたけど!」


りさは笑っている。


陽太は一瞬だけ言葉に詰まる。


「いや、それは……」


「だめ?」


上目遣い。


小学生のはずなのに、妙に“選択を迫る力”がある。


陽太は小さく息を吐いた。


「……いいよ」


その瞬間、りさの顔がぱっと明るくなる。


「やった!」


---


放課後。


帰り道。


夕方の光が少しオレンジ色になっている。


りさはずっと喋っていた。


「今日ね、給食のプリン取られそうになってさ!」


「でも私ちゃんと守った!」


「陽太だったらどうした?」


陽太は少し考えてから答える。


「……譲ってたかも」


「えー!だめじゃんそれ!」


りさは笑いながら、軽く肩を叩く。


その仕草が妙に自然だった。


---


しばらく歩いたあと、りさが急に静かになる。


「ねえ」


「ん?」


「陽太ってさ」


少しだけ間。


「ずっとそのままでいてね」


その言葉は、子どものものにしては重かった。


陽太は一瞬だけ足を止める。


(そのまま、か)


35歳の記憶が、わずかに痛む。


でも——今は違う。


「……わかった」


そう答えた。


りさは満足そうに笑う。


---


そのときだった。


風が一瞬だけ止まる。


通りの端。


電柱の影。


そこに“何か”がいる気配。


でも見えない。


りさは気づいていない。


陽太だけが、そこに違和感を感じていた。


---


夜。


家に帰ると、母がいつもより穏やかだった。


「今日はいい日だった?」


「うん」


短く答えると、母は少し安心したように笑う。


「そっか……よかった」


その笑顔は、今までよりも長く続いた。


---


陽太は布団の中で考える。


(ちゃんと、変わってる)


(あの時より、確実に)


りさとの距離は近い。


母も落ち着いている。


人生は、うまくいっているように見える。


---


でも、窓の外。


また一瞬だけ、影が揺れた。


誰もいないはずの場所で。


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## 第四話 終


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# 次回予告


第五話「ずれ」


幸せなはずの毎日。


しかし、少しずつ“違和感”は形を持ち始める。


りさの「好き」の重さ。


母の不安定な影。


そして椎名さくらが気づく、ある“記憶の矛盾”。


「陽太くん……それ、本当に“前と同じ世界”?」


選び直した未来が、静かにずれ始める。


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