## 番外編 「家族が増えた日」
## 番外編 「家族が増えた日」
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病院の廊下は、やけに静かだった。
静かすぎて、陽太は逆に落ち着かなかった。
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隣では、牧原りさが座っている。
いつもより静か。
でも、手だけはずっと陽太を掴んでいた。
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「ねえ陽太」
小さな声。
「怖い?」
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陽太は少しだけ考えてから言う。
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「怖いっていうか……実感がない」
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りさは笑う。
「私も」
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数時間後。
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「おめでとうございます」
その一言で、世界が少しだけ変わった気がした。
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陽太は、言葉が出なかった。
ただ、息を吐くしかなかった。
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りさは涙を流しながら笑っていた。
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「ねえ陽太」
「うん」
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「生まれたね」
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「……生まれたな」
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小さな部屋。
ベッドの上。
小さな命。
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陽太は、どう触れていいのか分からず固まる。
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「怖い?」
りさが小声で聞く。
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「怖いっていうか……壊しそうで怖い」
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りさは即答する。
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「絶対壊れない」
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その言い方がやけに強くて、陽太は少し笑う。
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「なんでそんな自信あるんだよ」
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りさは赤ちゃんを見ながら言う。
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「だって、私たちのだから」
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その言葉で、陽太は理解する。
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ああ、この人はずっとこうだったんだ。
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“確信で生きる人”なんだ。
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退院の日。
空はやけに明るい。
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りさは赤ちゃんを抱きながら歩く。
陽太は隣で、荷物を持つ。
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「ねえ陽太」
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「ん」
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「名前、決めた?」
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陽太は少しだけ黙る。
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「まだ」
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りさは笑う。
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「じゃあ一緒に決めよ」
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家。
リビング。
母がすでに待っている。
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「うるさくなるわね、この家」
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りさが即答。
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「もううるさいです」
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夜。
赤ちゃんが寝ている。
やっと静か。
でも、静かすぎない。
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陽太はソファに座る。
隣にはりさ。
そのさらに隣に、小さな命。
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「ねえ陽太」
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「ん」
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「増えたね」
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陽太は少し笑う。
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「増えすぎだろ」
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りさも笑う。
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「でもさ」
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「うん」
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「なんか……いいね」
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陽太はその言葉にうなずく。
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「いいな」
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夜。
電気を消す。
暗闇の中で、赤ちゃんの小さな寝息が聞こえる。
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りさが小さく言う。
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「ねえ陽太」
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「ん」
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「これ、幸せだね」
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陽太は即答する。
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「幸せだな」
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りさは満足そうに目を閉じる。
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「よし」
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「完成」
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陽太は笑う。
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「何が完成だよ」
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りさは寝ぼけた声で言う。
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「家族」
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## 終
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