--- # 第二話 「返事」
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# 第二話 「返事」
公園の空気は、やけに静かだった。
ブランコは止まっているのに、きしむ音だけが残っている気がする。
春日陽太(小学生の姿)は、ゆっくり息を吸った。
35歳の記憶が、頭の中で叫んでいた。
——断るな。
——あの時みたいに逃げるな。
目の前には、牧原りさ。
そして椎名さくら。
りさは少しだけ不安そうに、でも目は逸らしていない。
「ねえ……どう?」
その一言が、やけに重い。
あの時は、ここで逃げた。
「ごめん、わからない」
その言葉一つで、全部が終わった。
でも今は違う。
35歳の陽太は、はっきり理解している。
“あの断り方が、自分の人生を作った”と。
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陽太は一度だけ目を閉じた。
母の顔が浮かぶ。
不安定な声。
優しかった日と、壊れていた日の差。
その中で作られたルール。
——誰かを好きになってはいけない。
——幸せになってはいけない。
でも、それは本当に正しかったのか。
(違うだろ)
35歳の自分が、初めて過去の自分を否定した。
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目を開ける。
りさを見た。
「……りさ」
一瞬、風が止まった気がした。
「俺さ」
喉が少しだけ詰まる。
「前は、ちゃんと答えられなかった」
りさの表情が固まる。
椎名さくらが、静かにこちらを見ている。
陽太は続けた。
「でも今は違う」
「……俺も、りさのこと、好きだと思う」
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一瞬、世界が止まった。
りさの目が少しだけ大きくなる。
「え……ほんと?」
声が震えている。
陽太はうなずいた。
「うん」
それだけで十分だった。
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りさは一拍置いてから、顔をくしゃっと崩した。
「やった!」
そして勢いのまま、陽太に近づく。
小さな手が、ぎゅっと制服を掴む。
「絶対、ちゃんと好きでいてよ?」
子どもらしい言葉なのに、妙に重かった。
陽太は少しだけ笑った。
「努力する」
その返事に、りさは満足そうに頷いた。
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その横で、椎名さくらは小さく息を吐いた。
「……そっか」
それだけ言って、少しだけ視線を落とす。
でも、どこか納得していない顔だった。
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その瞬間だった。
遠くで風が強く吹いた。
ブランコが揺れる。
ギィ、と音がする。
そして——
誰もいないはずの公園の端。
“誰かが立っている気配”があった。
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陽太の胸が、わずかに冷える。
(……これで終わりじゃない)
直感だった。
りさを選んだはずなのに。
未来はまだ、確定していない。
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その夜。
家に帰ると、母の声がした。
「陽太?」
優しい声。
でも、その奥に少しだけ揺れがある。
陽太は、息を止めた。
——ここからだ。
本当の“選び直し”は。
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## 第二話 終
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# 次回予告
第三話「母の揺れ」
幸せを選んだはずの陽太に、最初の歪みが訪れる。
母の精神状態が、少しずつ崩れ始める。
そして公園で感じた“誰かの気配”の正体が、ゆっくりと近づいてくる。
「お前、その選択、本当に正しいのか?」
選んだはずの未来が、揺らぎ始める。
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