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## 番外編 「知ってたよ」②

## 番外編 「知ってたよ」②


(牧原りさ視点)


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でも、本当はそれだけじゃなかった。


「知らないふり」をしていた理由は、もう一つある。


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陽太が“未来から来た”ことに気づいたのは、あの公園の日より前だった。


もっとずっと前。


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最初は、夢だった。


大人の陽太が、謝っている夢。


何度も同じ場所で、同じ顔で。


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でも、ある日変わった。


夢の中の陽太が、こう言った。


「ここに戻る前、俺は一度お前を選ばなかった」


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その瞬間、りさは目が覚めた。


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(あ、これ“夢じゃない”やつだ)


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そこからは簡単だった。


陽太の“ズレ”はずっとあった。


言葉じゃなくて、空気のほうに。


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笑うタイミングが一瞬遅い。


悲しい話のときだけ、目が少し遠くなる。


何かを選ぶときだけ、やたら慎重になる。


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それは全部、


“もう一回やり直している人間の動き”だった。


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りさは怖くなかった。


むしろ、納得した。


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(だからか)


(だからこの人、優しいんだ)


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一度、誰かを失っている人の優しさだった。


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そして、気づいてしまったもう一つ。


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この人は、自分を救うために戻ってきたんじゃない。


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“選ばなかった自分をやり直すために戻ってきた”


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つまり。


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本当は、自分りさは“ついで”かもしれない。


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そう思った瞬間、少しだけ胸が痛かった。


でも、不思議と怒りはなかった。


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(じゃあ、奪えばいいだけじゃん)


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りさはそう思った。


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奪うっていうのは、無理やりじゃない。


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“この世界に居させ続けること”だ。


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だからりさは決めた。


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この人がどんな過去を持っていてもいい。


どんな未来を見ていてもいい。


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でも、最後に選ぶのは“今の私”でいい。


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夜。


陽太は寝ている。


りさは横に座っている。


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「ねえ」


小さく言う。


もちろん返事はない。


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「知ってるよ」


「戻ってきたんでしょ」


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少しだけ間。


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「でもさ」


「戻ってきた先が、ここでよかったじゃん」


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りさは笑う。


優しい顔じゃなくて、


ちょっとだけ“勝った顔”。


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(だってもう)


(ここにいるのは、今の陽太だから)


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過去の陽太じゃない。


未来の陽太でもない。


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今の陽太。


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それなら、もう負ける理由はない。


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りさは布団を直す。


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「ずっと一緒にいるってさ」


「もう決まってるよ」


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小さく呟いて、部屋の電気を消す。


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暗闇の中で、陽太の寝息だけが聞こえる。


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りさは思う。


---


(この人は、逃げて戻ってきた人)


(私は、その戻り先を“固定する人”)


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だからこれは恋じゃないのかもしれない。


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でもいい。


---


“幸せにすることが目的の関係”なら、それで十分だから。


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