## 番外編 「知ってたのは、どっちだ」
## 番外編 「知ってたのは、どっちだ」
(陽太視点)
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気づいたのは、本当に些細な違和感だった。
りさは、全部を知っているわけじゃない。
でも——“知らない顔”はしていない。
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朝。
テーブルの上に、いつもの朝ごはん。
りさは普通に「おはよう」と言う。
その声はいつも通り明るい。
なのに。
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陽太は、違和感を覚える。
(こいつ、俺のこと“見てる”んじゃない)
(“知ってる前提で扱ってる”)
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例えば。
何も言っていないのに、
「今日は無理しなくていいよ」
と言う。
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例えば。
少しだけ黙っていると、
「また考えすぎてるでしょ」
と先に言われる。
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それは優しさじゃない。
予測でもない。
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“確定した理解”だった。
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放課後。
二人で帰る道。
陽太は、ふと立ち止まる。
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「お前さ」
りさが振り向く。
「ん?」
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陽太は少し迷ってから言う。
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「俺のこと、なんでそんなに分かるんだよ」
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りさは一瞬だけ固まる。
でも、すぐ笑う。
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「え?」
「ずっと見てるからでしょ」
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その答えは普通だ。
でも普通すぎて、逆におかしい。
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“見てるだけ”でここまで当てられるはずがない。
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陽太は続ける。
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「違う」
「そういうレベルじゃない」
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風が止まる。
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りさの笑顔が、ほんの少しだけ薄くなる。
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「……じゃあ、なに?」
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陽太は息を吐く。
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「お前さ」
「俺が戻ってきたこと、知ってるだろ」
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沈黙。
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りさは目を逸らさない。
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「……うん」
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即答だった。
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その瞬間、空気が変わる。
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陽太の中で、何かが崩れる。
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(やっぱり、そうか)
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りさは続ける。
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「知ってるよ」
「最初から」
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「小学校の公園で断ったことも」
「その後の後悔も」
「戻ってきたことも」
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陽太は言葉を失う。
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「じゃあなんで——」
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りさは少しだけ笑う。
でも、その笑いは明るくない。
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「だってさ」
「言ったら逃げるでしょ」
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その一言が刺さる。
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陽太の喉が詰まる。
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「俺はもう逃げない」
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りさは首を振る。
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「違う」
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「“逃げないって言ってる人ほど、一番怖がってる”でしょ」
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沈黙。
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その言葉は、昔の自分そのものだった。
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りさは一歩近づく。
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「ねえ陽太」
「私ね」
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「“戻ってきたあなた”を好きになったんじゃない」
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陽太の呼吸が止まる。
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りさはまっすぐ見て言う。
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「“戻ってくるまでの全部を抱えたあなた”が好きなの」
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風が吹く。
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その言葉は、優しさじゃない。
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“理解の暴力”だった。
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陽太は思う。
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(こいつは、救おうとしてるんじゃない)
(俺を“全部持ったまま固定しようとしてる”)
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りさは笑う。
少しだけ、寂しそうに。
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「ねえ」
「知ってたよ」
「あなたが一回、私を断ったことも」
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「でもさ」
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一拍。
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「それでも、今ここにいるじゃん」
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その瞬間。
陽太は初めて気づく。
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りさは“過去を知られていること”を恐れていない。
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むしろ。
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“過去ごと受け取る覚悟”で、ここにいる。
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陽太は、言葉を失ったまま立っている。
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りさは小さく言う。
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「だから逃げないでね」
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「もう一回なんて、いらないから」
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## 終
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